(朝鮮日報 2024/08/11)
 「ひとり酒場で 飲む酒は 別れ涙の 味がする」

 6月19日に放送されたTV朝鮮[ケーブル]のバラエティー番組『ミスター・ロト』。歌手チン・ヘソンが渋い低音で歌うと、客席のあちこちから歓声が沸き上がり、涙ぐむ人もカメラにとらえられた。放送画面には日本語の歌詞と韓国語訳のテロップが表示された。この日、チン・ヘソンが歌った歌は日本の「国民的歌手」美空ひばり(1937-1989年)の『悲しい酒』(1966年)だった。韓国の人気歌手ナ・フナ(羅勲児)が2002年の韓日文化交流記念特別アルバムに収録したほど、韓国でも知られている歌だ。

■韓国のテレビに登場した『ギンギラギンにさりげなく』

 この日の放送は、1980-90年代に日本でも人気を呼んだ演歌歌手キム・ヨンジャ(金蓮子)の後継者を発掘するというコンセプトだった。キム・ヨンジャは西城秀樹の1983年のヒット曲『ギャランドゥ』を熱唱するなど、50年の歌手人生で初めて、韓国の番組で日本語の歌を歌った。キム・ヨンジャは「『日本の大衆音楽の不毛の地』のように思われていた韓国の番組で新たな挑戦をするということで、感慨深かった」と語った。視聴者の反応も熱かった。放送後、インターネット・コミュニティー・サイトなどには「感性に心を奪われた」「新鮮だ」などのコメントが相次いで寄せられた。「日本の歌がなぜ放送されたんだ」といった反応はほとんど見られなかった。

 今年4月から1カ月間、MBN[ケーブル]が放送したバラエティー番組『韓日歌王戦』では、日本人歌手たちが韓国の番組を舞台に大活躍した。日本代表として出場した住田愛子(16)が歌った、近藤真彦の1981年のヒット曲『ギンギラギンにさりげなく』は韓国のユーチューブで再生回数600万回を超え、大きな人気を呼んだ

 2004年の日本文化全面開放以降、映画・アニメ・ゲーム・出版などさまざまな分野で日本の文化があふれたが、放送界では日本語の歌が「最後のタブー(禁忌)」のように考えられてきた。

2018年
にはアイドルオーディション番組『PRODUCE 48(プロデュース・フォーティーエイト)』で選抜された韓日合作アイドルグループIZ*ONE(アイズワン)の曲『好きになっちゃうだろう?』に「日本語の歌詞が一部入っている」という理由からKBSとSBS[共に地上波]の放送審議を通過できず、放送不可と判定されたこともあった。しかし、今ではこのようなタブーは消えつつある。

■韓国の10-20代がリードする日本文化の消費

 日本文化を最も積極的に消費しているのは10-20代という韓国の若い世代だ。日本の人気アニメ『推しの子』の主題歌『アイドル』などを歌っている日本の人気グループYOASOBI(ヨアソビ)は昨年、音楽専門チャンネルMnet(エムネット)[ケーブル]を代表する番組『M Countdown(エム・カウントダウン)』に出演し、爆発的な人気を博した。彼らが歌った歌はユーチューブでたった数週間のうちに1000万回を上回る再生回数を記録、『推しの子』の登場人物をまねるチャレンジにはK-POPガールズグループIVE(アイヴ)のウォニョンや、LE SSERAFIM(ル・セラフィム)のホン・ウンチェなども参加するほど人気だった。

 韓国の若い世代は主にTikTok(ティックトック)やApple Music(アップル・ミュージック)などを通じてさまざまな音楽を聞いている。昨年は日本人歌手imase(イマセ)が韓国最大の音楽配信チャート「Melon(メロン)」で17位になるなど、日本人歌手としては初めてトップ100入りを果たした

 大衆文化評論家のイ・ムンウォン氏は「若者層が消費する大衆文化はサブカルチャー(下位文化)とされ、主流文化に反抗しながら成長するものだ。これまで(韓国では)国民感情的におのずとその水準が調整されてきた。しかし、『ノージャパン運動(日本製品不買運動)』などにより一方的に押さえつけられると、それがかえって反発を招き、消費が急増したという面もある」と分析している。

■「Kカルチャーが世界的人気呼び、日本に対して文化的警戒心を持つ理由なくなった」

 「今やK-POPが世界的に流行している中、韓国の視聴者たちの間で日本文化はタブーの要因にはならない」という見方もある。韓国放送界の事情に詳しいある関係者は「10-20代が主導するK-POPアイドルグループが既に米国のビルボードチャートの上位を占領しているので、韓国の若者たちは文化的な自信が強い。いわゆる『倭色』文化に韓国文化が蚕食されるという認識を持つ余地はない」と語った。

 日本のエンターテインメント業界も積極的に韓国にアプローチしている。TV朝鮮と番組提携を結んでいる日本のNTTドコモ・スタジオ&ライブの山地克明代表取締役副社長は「日本の文化消費市場は大きいが、海外を狙った動きでは、大型化する韓国に比べて個別的で小規模だ。最近はK-POPをはじめ韓国ドラマなどが世界市場に広まっている。韓国と手を取り合うことが海外市場に進出する近道だとの評価もしている」と述べた。崔宝允(チェ・ボユン)記者

【参考】韓国における日本大衆文化開放
 1965年の韓日国交正常化後も閉ざされ続けていた日本大衆文化の流入を公式に認めた措置。 1998年の金大中(キム・デジュン)政権で段階的に実施され、2004年から映画・音楽アルバム・ゲーム・出版などが全面開放された。しかし、最近まで日本の歌を番組で歌うことはタブー視されていた


日本のテレビ局は毎日K-POPを取り上げていますが、韓国のこうしたケーブルでやっと解禁(?)、地上波ではいまだにタブーという扱いには触れないんですよね。