韓国軍はベトナム戦争で民間人を虐殺したのか?認める司法、否認の政府 映画「国際市場で逢いましょう」が触れた、派兵を巡る韓国の分断(共同通信 2024/03/24)
 2014年の韓国映画「国際市場で逢いましょう」で、俳優ファン・ジョンミンが演じた主人公は、ベトナム戦争に技術者として渡り、韓国軍と行動を共にする。「想像してみよう。ベトナムの戦場に俺たちの子どもが金を稼ぎに来ていると…。こんなこと起きなければ良かったのに。でも起きてしまった以上、(子どもでなく)自分が経験しているのが、せめて良かった」。主人公は韓国に残る妻へ、こう手紙を送った。

 1964~73年、韓国は米国の要請により、同じ自由主義陣営の南ベトナムに約32万5千人を派兵、約5千人が戦死した。韓国メディアは1999年から韓国軍によるベトナムでの民間人虐殺を報じ出し、2020年、ベトナムの女性が、韓国軍に家族を虐殺されたとして韓国政府に損害賠償を求める訴訟を韓国で起こした。

 昨年2月の一審判決は虐殺を認定したが、韓国政府は控訴した。今年1月の控訴審第1回口頭弁論でも、韓国政府は「国家賠償を命じるのは正義に反する」と主張した。虐殺の歴史をどう受け止めるべきなのか。韓国内が割れている。(共同通信ソウル支局・富樫顕大、ハノイ支局・松下圭吾)

▽米軍調査の事件も

 韓国の市民団体は、ベトナム各地での韓国軍による虐殺犠牲者を計約1万人と推計するが、正確な実態は不明だ。このうち、ベトナム中部クアンナム省のフォンニィ・フォンニャット村で1968年に起きた事件については、直後に米軍が調査した資料などが残る。この村の女性グエン・ティ・タンさん(63)が2020年に提訴した

 タンさんは、ベトナム現地での共同通信のインタビューに「脅されて壕から出ると銃撃された。5歳の弟は顔面を吹き飛ばされた。地獄のようだった」と語っている。7歳だった自身も腹部を撃たれ負傷し、1年近く入院した。

 一審のソウル中央地裁は、乳幼児を含む非武装のタンさんの家族や村人が韓国軍に集められて射殺されたと認定し、約3千万ウォン(約340万円)の賠償を命じた

▽市民団体の支援活動と、政府の「遺憾」

 1999年に初めて虐殺を報じたのは、リベラル紙ハンギョレ新聞の系列週刊誌だった。韓国の市民団体は「ミアネヨ(ごめんなさい)、ベトナム」という、ベトナムの虐殺遺族や貧困層への支援事業や現地訪問といった活動を始めた。

 以後、韓国の大統領のうち、リベラル系の金大中、盧武鉉、文在寅大統領が、それぞれ「不本意ながらベトナム国民に苦痛を与えたことが申し訳ない」「韓国民は心に負い目がある」「両国間の不幸な歴史に遺憾を表明する」と言及した。

一方、公的機関が明確に虐殺を認定したのは、ソウル中央地裁の判決が初めて
だった。

 だが一審判決当時の李鐘燮国防相は国会で「韓国軍による虐殺はなかった。判決に国防省は同意しない」と述べた。

▽政府機関、調査しないと決定

 ベトナムへ派兵した当時の韓国は軍事政権で、民主化したのは1987年だ。韓国には、軍事政権時などの過去の国家機関による人権侵害を調査する「真実・和解のための過去事整理委員会」という政府機関がある。損害賠償を求めたタンさんとは別の村の虐殺遺族が、この委員会に虐殺の調査を求めたが、委員会は昨年5月、調査を行わないと決定した

 リベラル系の最大野党が推薦した委員3人は調査開始を求めたが、保守系の尹錫悦政権側が推薦した委員ら4人が反対し、却下された。金東光委員長は虐殺に関し「国家の責任がある部分はあるのかもしれない」と指摘しつつも、外交で解決すべき問題であり、外国で起きたため委員会の調査権限が及ばないなどと述べた。

▽法案も審議進まず

 一審判決後、最大野党の李在明代表も名を連ねて、野党議員らが虐殺の真相究明を求める特別法案を韓国国会に提出したが、審議は進まなかった。提出代表者の姜旼姃議員は、今年1月の共同通信とのインタビューで「真実を明らかにすることはベトナムとの関係強化だけでなく、韓国で人権意識を高めることにつながる。特別法案は韓国軍による虐殺全般の真相究明を目指す」と訴えた。

 韓国国会は野党が多数派だが「今年4月の総選挙を前に、国会は論争となる法案に向き合うのを控えた面がある。野党内でも活発に議論されなかった」と振り返った。

▽加害と被害

 ベトナム戦争では、南ベトナム解放民族戦線(ベトコン)のゲリラが身を隠す密林を消滅させるため、米軍が大量の枯れ葉剤を散布した。枯れ葉剤の影響とみられる結合双生児として生まれた「ベトちゃんドクちゃん」は、日本赤十字社が分離手術を支援し、日本でも広く知られている。

 韓国・全南大の博士課程でベトナム戦争を研究する李在春さん(45)は、参戦した父を枯れ葉剤に起因する悪性リンパ腫で亡くした。自身も遺伝の影響と疑う病状に苦しむ。

 損害賠償訴訟のフォンニィ・フォンニャット村の事件については「当然のことを認めない」と韓国政府を批判しながらも「動員された軍人は加害者でもあり被害者でもある」と、韓国社会がこの問題に向き合う難しさを語る。

▽反発と自省

 李さんは「参戦兵は、韓国政府がアピールするように『自由を守るための十字軍』と考えたのではない。現実は(貧しい地方などから)食べる物がないから参戦した軍人たちだ」と指摘する。

 昨年2月の判決直後、韓国の退役軍人の団体は「一部の民間人に被害を与えたケースがあり得るが、不可避な軍事作戦だった」と反発した。一方、ベトナム参戦兵の聞き取り調査に取り組む市民団体「アーカイブ平和記憶」によると、「ベトコンだけでなく一般市民も死んだだろう。擁護できない」などと話す元兵士もいる。

 損害賠償訴訟の一審の口頭弁論では、ベトナムに派兵された元海兵隊員の柳振聲さん(78)が出廷し、当時、民間人とみられる約70人の死体を見たと述べ、部隊で「隊員が武勇伝のように(殺害の様子を)話していた」と証言した。当時は罪悪感を感じられなかったが、「戦争の残酷さを知らせたかった」ため証言に立ったと打ち明けた

▽日本の歴史問題も訴える弁護士ら

 ベトナム虐殺の原告側弁護団の中には、日本企業を相手取った元徴用工訴訟や、日本政府を相手取った従軍慰安婦訴訟の原告担当弁護士も数人いる。

 徴用工訴訟の原告も代理する林宰成弁護士は、「私は日本と戦っているのではないし、(虐殺を巡る裁判も)ベトナムと韓国が戦っているのでもないと思う」と話す。「普遍的人権の問題として、ベトナムでの民間人虐殺について韓国政府は責任を取らねばならず、日本植民地期の強制動員や慰安婦問題については日本政府と企業が責任を取らねばならない」と強調した。