(朝日新聞 2023/01/11)
 日韓関係の懸案となっている徴用工問題について、韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)政権は、日韓双方の寄付などで訴訟の原告への賠償を肩代わりする仕組みを「解決策」とすることで最終調整に入った

 この仕組みを準備しつつ、日本側に寄付金の拠出や謝罪などの「誠意ある呼応」を求め続ける方針で、日韓での「合意文書」を交わさない意向も固めた

 戦時中の徴用工をめぐっては、韓国大法院(最高裁)が2018年秋、雇用者だった三菱重工業と日本製鉄(旧新日鉄住金)に対し、元徴用工らへの賠償を命じる判決を出した。

 日本側は、賠償問題は1965年の日韓請求権協定で解決済みとの立場で、判決の履行に応じていない。

 一方、韓国では判決を受けて日本企業の資産が差し押さえられている。賠償に充てるために資産が売却される「現金化」に至れば、日韓関係のさらなる悪化は避けられず、両国は解決をめぐる外交協議を急いできた。

 日韓双方の政府関係者によると、韓国政府は「解決策」として、韓国の政府や企業が設立した「日帝強制動員被害者支援財団」が日韓双方の企業から寄付を集め、賠償分の金額を肩代わりする形で原告らに支給する仕組みを準備している

 大法院判決で勝訴が確定した3件の原告は元徴用工と遺族計32人で、賠償額は計約13億6200万ウォン(約1億4300万円)になる。ただ、この間に亡くなった原告もおり、韓国政府関係者によると、外交省は実際の支給対象者が15人程度になるとみているという。大法院で係争中の9件の訴訟の原告も対象に含めるかは政府内でも意見が割れているという

 尹政権は、北朝鮮の軍事活動の活発化や米中対立の深化などの東アジア情勢をふまえ、対日関係を改善させて安全保障や経済などでの連携を深めることが急務と考えている。

 一方で、徴用工問題での日本側の姿勢は変わっていないとみており、韓国側の対応を先に固めて外交協議で提示することで、日本側の呼応を促したい考えだ。

 韓国外交省は、12日に原告代理人や有識者を集めた公開討論会を開催。その後、外交協議の場で日本側にこの仕組みを「解決策」とすることや、討論会で出た日本側への要望を伝える。

 今後の対応について、日本企業による寄付の見通しや、日本側からの過去に対する何らかの「おわび」や「反省」の趣旨の表明といった前向きな姿勢が示された場合には、「解決策」を公表する方針だ

 ただ、この仕組みについては、これまでの外交協議の場でも議題になっており、日本側は協力に難色を示してきた

 日本側の姿勢が見えなくとも原告への支給を始めるべきだとの意見もあった韓国政府内も、「日本側の『呼応』がなければ、原告や国民の理解は得られない」(大統領府高官)との考えでまとまっており、日本側との協議が必要な状況は続く

 また、日本企業による直接の賠償や謝罪を求める原告側の一部や支援団体は仕組み自体に反発している。政府側が「支給を始める」と決めても、原告らが受け取らない可能性がある

 韓国側は今回、問題解決に向けた日韓双方の措置を盛り込む「合意文書」の作成は見送る方向だ

 2015年末の「日韓慰安婦合意」では、日本政府が元慰安婦を支援するための10億円を拠出し、「最終的かつ不可逆的解決」とする文書が交わされた。だが、支援団体などが猛反発し、その後に発足した文在寅(ムンジェイン)前政権が合意を空文化させた。

 こうした経緯から、日本側が徴用工問題で韓国側と新たな合意を結ぶことに慎重な姿勢をとり、韓国側に国内問題として解決するように求めてきたため、尹政権は合意文書をつくるのは難しいと判断した。(ソウル=鈴木拓也、稲田清英)