(朝日新聞 2023/01/05)
 力に力で対抗する危うい連鎖に歯止めが必要だ。関係国が結束し、外交を再起動させることこそ、北朝鮮による無謀な行動を止めるために欠かせない。

 金正恩(キムジョンウン)総書記が朝鮮労働党の会議で、核・ミサイル開発を加速させる考えを表明した。核兵器の量産に加え、米本土を射程に収める新たな大陸間弾道ミサイルの開発や軍事衛星の打ち上げ計画にも言及した。いずれも国連安保理決議に違反し、地域を不安定化させる暴挙である

 北朝鮮は超大型放射砲と称する物体を年末年始に計4発、発射した。韓国軍は短距離弾道ミサイルとみている。昨年1年間に北朝鮮が放った弾道ミサイルは過去最多の約70発。常軌を逸した挑発というほかない

 一方で金正恩氏は会議で、今年の「人民生活の改善」にも意欲をみせた。党大会で決めた国家経済発展5カ年計画の3年目に入るが、慢性的な食料・エネルギー不足から抜け出せず、目標達成は遠いようだ。

 核・ミサイル開発につぎ込む資金を民生に回せば、暮らしはどれほど改善することか。国と国民を貧しくするだけの愚は思いとどまるべきだ。

 金正恩氏が特にやり玉に挙げたのは、日米韓の安全保障協力だ。「NATO(北大西洋条約機構)のアジア版のような新しい軍事ブロック」と批判した

 地域の安全保障を揺さぶる北朝鮮に、日米韓が足並みをそろえるのは当然だ。ウクライナに侵攻したロシアへの支持を打ち出し、米国などとの対立姿勢を鮮明にしたのは北朝鮮の方だ。

 他方、米軍の戦略爆撃機などの飛来が北朝鮮を刺激している面も否定できない。とりわけ昨年発足した韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)政権は対北強硬に前のめりな姿勢が目立つ。尹大統領は元日にも韓国軍幹部に「一戦を辞さない意思で、敵のいかなる挑発にも確実に報復せよ」と指示した。

 だが、力で北朝鮮をねじ伏せようとするほど、挑発を正当化する口実になっているのが実情だ。対話以外に道はないと尹政権は認識する必要がある

 バイデン米政権は、段階的に朝鮮半島の非核化を目指す方針を掲げつつ、ウクライナ侵攻対応や対中政策に追われ、北朝鮮の問題に本腰を入れている様子はみえない。逆にいえば、外交で事態を打開する余地は十分に残されているとみるべきだ

 北朝鮮に一定の影響力をもつ中国を巻き込み、北朝鮮を対話へと誘導する仕掛けはできないか。来週には日米の首脳が会談し、今後、米国務長官の訪中も計画されている。すべての関係国が対決ではなく、関与の努力を重ねることで緊張を断つ。その端緒を開く年にしたい