(朝日新聞 2022/11/13)

 岸田文雄首相は13日、訪問中のカンボジアの首都プノンペンで、韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領と会談した。両氏が対面で正式に会談するのは初めて。最大の懸案である徴用工問題は解決に至っていないものの、北朝鮮が異例の頻度で弾道ミサイルを発射する中、日韓が連携を強化する必要性で一致し、会談が実現した。

 日韓首脳会談は、2019年12月に当時の安倍晋三首相と文在寅(ムンジェイン)大統領以来、3年ぶり。

 日本政府はこれまで、「(徴用工問題に)ケリをつけない限り首脳会談は難しい」(首相周辺)との立場だった。首相と尹氏は、電話協議、国際会議に合わせた立ち話や懇談にとどまっており、対面による正式な会談は行っていなかった。

 今回、首脳会談が実現した背景には北朝鮮による核・ミサイル問題がある。日韓は連携の必要性では一致しており、米国も日韓関係の改善を求めていた。官邸幹部は「徴用工問題が解決しない限り、会談はできないというわけにはいかなくなった」と明かす。

 尹氏が日韓関係改善に前向きなことも要因の一つだ。9月には、米ニューヨークで尹氏が首相のもとを訪れる形で「懇談」が実現。その後、10月には日本外務省と韓国外交省の局長、次官が徴用工問題をめぐって協議した。首相周辺も「協議は着実に進んでいる」と、尹政権の姿勢を評価する。

 象徴的なのは、今月6日に日本で開催した海上自衛隊の国際観艦式に、韓国海軍も7年ぶりに参加したことだ。首相周辺は「韓国内で批判もあるなかで出してくれたことは大きい」と関係改善に向けた要素のひとつとしてあげる。

 さらに2日には自民党の麻生太郎副総裁が訪韓して大統領府で尹氏と面会した。麻生氏は帰国後、党の役員会で「首脳会談が適切なタイミングで実現できるよう、前さばきの一端を担った」と話すなど、正式会談の実現に向けた環境整備が進んでいた。

 ただ、徴用工問題の解決にむけた道筋が見えているわけではない。首相が正式会談に臨んだことに、自民党保守派などからの反発も予想される。山際大志郎前経済再生相や葉梨康弘前法相の相次ぐ辞任で内閣支持率が低下する中で、首相が日韓関係改善に向けてどこまで指導力を発揮できるかは未知数だ。

 一方、尹氏は5月の就任以来、一貫して首相との会談に意欲的だったものの、ソウルの繁華街・梨泰院(イテウォン)で150人以上が死亡した雑踏事故が発生。尹氏周辺は「局面が変わった」と言う。

 尹政権は未然に防げなかった責任を問われ、世論から厳しい批判を浴びている。徴用工問題について、岸田氏から1965年の日韓請求権協定で解決済みといった従来通りの主張を繰り返されては、「国民に説明がつかない。無理に会談しなくていい」という慎重意見が政権内に少なくなかった。

 実際、尹政権内には、日本との関係改善に向けて引き続き努力する必要があるという認識はあるものの、徴用工問題の解決に積極的な姿勢を見せない岸田氏へのいら立ちが募りつつある。

 尹政権は、韓国の裁判で敗訴が確定した日本企業の資産を売却して元徴用工らへの賠償に充てる「現金化」を防ごうと、解決策を検討してきた。元徴用工らの支援を続ける財団が主導して人道的に解決させる案を日本側に打診。韓国内の理解を得るには、日本企業も「寄付」などの名目で財団に拠出することが最低条件としてきた。これに日本側は難色を示し、解決の見通しは立っていない。

 韓国政府高官によると、尹氏は支持率が30%前後で低迷し、外遊の取りやめも検討した。9月下旬に米ニューヨークで行った日韓首脳による約30分間の対話についても、日本政府は「懇談」と位置づけたが、尹政権は「会談」と認定。「2年9カ月ぶりの会談は関係改善の重要な転機となった」(金聖翰(キムソンハン)・大統領府国家安保室長)と強調してきた。このため、日韓間の懸案で具体的な進展がなければ、国内向けにアピールできる材料がないという事情もあった。

 尹政権幹部によると、今回は日本側が会談を積極的に申し入れてきた。朝鮮半島情勢の緊張が高まるなか、「(徴用工問題などの)懸案の解決という問題を超え、安保協力で韓日首脳会談の必要性に共感した」(金氏)という。

 尹氏は今回の外遊に先立ち、「遺族や国民はいまだに衝撃と悲しみに苦しんでおり、悩んだが、国益がかかる重要な行事なので行くことにした」と述べ、国民に理解を求めた。(プノンペン=西村圭史、鈴木拓也)


(読売新聞 2022/11/15)

 ミサイル能力を高める北朝鮮は、日米韓にとって共通の、差し迫った脅威だ。3か国は安全保障協力を深め、結束して対処する必要がある。

 岸田首相とバイデン米大統領、韓国の尹錫悦大統領がカンボジアで会談した。

 終了後に発表した共同声明では、北朝鮮の核・ミサイル開発を非難するとともに、米国の核戦力で同盟国を守る「拡大抑止」を強化する方針が盛り込まれた。

 日米韓首脳会談は、6月に5年ぶりにスペインで開催されて以来、今年2回目だ。折に触れて開かれるようになったのは、現実的な安保政策を掲げる尹政権の誕生に加え、東アジアの安保環境が悪化したことが背景にある。

 北朝鮮は今年、現状の防衛システムでは迎撃が難しい変則軌道の新型ミサイルなどを繰り返し発射している。今月初旬には、短距離弾道ミサイルなど20発以上を1日だけで発射した。近く7回目の核実験を行うとの見方は多い。

 ミサイル発射の情報は、米国の衛星による探知や、韓国の情報収集が重要な役割を担っている。3か国で情報を共有する体制を強化してもらいたい。

 日米韓は先月、日本海で共同訓練を実施し、弾道ミサイルの追跡や迎撃の手順を確認した。実戦的な訓練を重ねることが大切だ。

 日本は反撃能力を保有し、抑止効果を高めねばならない。

 3か国の協力体制が深まれば、国際社会の平和と安定にもつながろう。日米韓で連携し、覇権的な活動を強める中国や、ウクライナを侵略するロシアに対処していくことが不可欠だ。

 カンボジアでは日韓首脳会談も行われた。会談は約3年ぶりで、首相と尹氏は元徴用工(旧朝鮮半島出身労働者)問題に関して、早期解決を図る方針で一致した。

 日本はこれまで、徴用工問題で納得のできる解決策が示されない限り、首脳会談には応じられない、との立場をとってきた。今回の首脳会談は、韓国側が強く働きかけて実現したという

 日本企業に賠償を命じた徴用工訴訟問題の棚上げは許されない。請求権問題は、1965年の日韓請求権・経済協力協定で「完全かつ最終的に解決」されている。尹政権はそうした事実を踏まえ、具体的な解決案を示すべきだ。

 2018年に韓国軍の艦船が海上自衛隊の哨戒機に火器管制レーダーを照射した問題についても、善後策を講じ、防衛当局間の信頼を回復してほしい。