(朝日新聞 2022/09/20)

 林芳正外相と韓国の朴振(パクチン)外相が国連総会に出席するため訪問中の米ニューヨークで19日(日本時間20日)、会談した。徴用工問題の早期解決に向けて協議を続けることを確認したが、目に見える進展はなかった。岸田文雄首相と尹錫悦(ユンソンニョル)大統領もニューヨークを訪問するが、両政府の温度差が際立ち、会談の見通しは立っていない

 日韓で最大の懸案になっている徴用工問題をめぐっては、韓国大法院(最高裁)の判決に基づき、日本企業の資産を売却して元徴用工の賠償に充てる「現金化」の手続きが進んでいる。

 日本外務省によると、林氏は会談で、徴用工問題は1965年の日韓請求権協定で解決済みで、韓国側の責任で対応するべきだとの従来の日本の立場を強調した。一方、韓国外交省によると、朴氏は官民合同の協議体の設置や、朴氏が原告2人と面会するなどして解決策を探っている努力を伝え、日本側にも「誠意ある呼応」を促したという。

 韓国政府では賠償分を肩代わりする案や、日韓双方の企業などから集めた寄付金から支給する案などが検討されてきたが、被告の日本企業による賠償や謝罪を求める原告らは反発。韓国外交省の幹部は「特定の解決策を模索している状況にない」とする。

 19日の外相会談でも日韓関係の改善に向け、問題の早期解決を目指すことで一致したものの、具体的な解決策を見いだすのは容易ではない。こうした中、国連総会にあわせて岸田、尹両氏の首脳会談が実現するかどうかも焦点になっている。しかし、調整段階での両政府の違いが際立っている

 尹氏は大統領就任後から、日本と安全保障や経済で協力するのが双方の利益になると考え、関係の立て直しに意欲的な姿勢を見せている。今回の訪米でも韓国側は「関係改善の機運を高めていかなければならない」として首脳会談の実現を模索。大統領府高官は15日に「会談することで合意し、時間を調整中だ」と発表した。

 この発表に対し、松野博一官房長官は記者会見で「何ら決まっていない」と否定した。政府関係者によると、首相自身も「それなら逆に会わねえぞ」と、韓国側の一方的な発表に強い不快感を示したという

 日本外務省の複数の幹部は、岸田、尹両氏の接触があるとしても短時間にとどまるとの見通しを示す。特に徴用工問題で一定の前進がないのに正式な会談をすれば、韓国側に譲歩したとして自民党の保守派から反発を招きかねない。岸田氏は党内基盤が決して強いとは言えず、内閣支持率の急落も重なり、より慎重になっているとみられる

 また、日本側が韓国側の出方を警戒する背景には、6月の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に合わせて行った岸田、尹両氏の短時間の「立ち話」をめぐる食い違いもある

韓国側は、岸田氏が「日韓関係がより健全な関係に発展できるように努力しよう」と述べ、双方による取り組みを呼びかけたと発表したのに対し、日本側は、岸田氏は「非常に厳しい日韓関係を健全な関係に戻すために尽力いただきたい」と発言し、韓国側に対応を求めたと説明した。(野平悠一、戸田政考、ソウル=鈴木拓也)


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