(朝鮮日報 2022/09/10)

 「われわれが調査している中国共産党(CCP)のスパイ活動関連の件数は、2018年に比べ7倍に増えた。最近3年間でMI5の中国関連の事件処理能力は2倍に増加し、今後数年間でさらに2倍に拡大するだろう

 これは7月6日、MI5本部があるロンドン市内のテムズ・ハウスでケン・マッカラムMI5長官が取材陣の前で語った言葉だ。MI5(Security Service、保安局)は英国の国内防諜(ぼうちょう)・情報機関。マッカラム長官はこの日、米国FBI(連邦捜査局)のクリストファー・レイ長官と、史上初となる英米情報機関トップ会談を行い、共同記者会見を開いた。

■「最近4年で英国内の中国スパイ事件は7倍に急増」

 FBIのレイ長官はこの席で「FBIはおよそ12時間置きに、中国に対する新たな防諜事件捜査に着手している」と語った二人はCCPの動きについて「構図を変えてしまうもの(game-changing)」「絶大で、息をのむような(immense and breath-taking)」と表現した。CCPの活動は想像以上に緻密かつ脅威と言っているのだ。

 中国共産党の国内政治介入が各国で破裂音を響かせている。今年1月、英国MI5は議会の議員全員に、クリスティン・リー(Lee)という中国人女性弁護士の実名と写真入りの「保安局介入警報(Security Service Interference Alert)」を発令した。「中国海外親善協会(COFA)所属のこの人物は、中国共産党中央統一戦線工作部(UFWD)と連携して秘密活動を行ってきている」というのだ。

 BBC放送は「クリスティン・リーはバリー・ガーディナー労働党下院議員におよそ50万ポンド(現在のレートで約8100万円。以下同じ)を献金した。彼女は英国政界における中国批判を弱め、議会内の親中派拡大を図っている」と報じた。

 米国では2018年10月4日、マイク・ペンス副大統領(当時)がワシントン所在のシンクタンク「ハドソン研究所」のイベントで、中国について次のように語った。

「米国の政治システムを瓦解させて米国国内の政策や政治に介入するため、中国は力を用いている。(中略)中国が標的とする米国の郡の80%は、2016年の大統領選挙でトランプ大統領に入れたところだ。中国は連邦政府と州政府間の亀裂を活用しようと、米国の州や地方政府、当局者を狙っている」

 中国の活動は、現地メディアが長期にわたって追跡しなければならないほど隠密裏だ。米国のネットメディアAxiosは2020年12月8日、「1年間の取材の末、クリスティン・ファン(Fang)という20代後半から30代前半の中国政府機関所属の女性が、2011年から5年間にわたりサンフランシスコなどでエリック・スウォルウェル連邦下院議員(民主党)を含む主な政治家を相手に諜報活動を繰り広げていた事実を確認した」と報じた。

■米国連邦議員、市長、市議会議員に接近

 大学生を装ったクリスティン・ファンは、連邦議員や市長、市議会議員などに接近し、選挙資金の募金を助けたり肉体関係を持ったりして情報を盗み出していたことが判明した。「中国政府は今春実施されたニューヨーク市議会選挙にも直接介入した」として、クリストファー・レイFBI長官は次のように語った。

「中国は今年のニューヨーク市議会選挙において、1989年6月の天安門デモ参加者で中国を批判している候補が当選することを望まなかった。中国はこの候補に関する不利な情報を探り出すため、私立探偵を雇った。何の情報も得られないことから、性労働者を利用して社会的論争を引き起こそうとし、交通事故の提案も行った」

 全米435の連邦下院議員選挙区では、多くの場合、薄氷を踏むような勝負が繰り広げられる。資金を集中支援したり、中国系米国人を動員して数千人、もしくは1万人から2万人の票さえ動かせば、中国に友好的な議員をもっと多く当選させることができる。

 オーストラリア政界を狙って、中国は露骨に浸透を図っている。個人や機関を動員して、総選挙などへの影響力行使を試みたのだ。2016年のマルコム・ターンブル首相の自由党政権で、労働党上院議員をはじめとする政界に中国人富豪が200万豪ドル(約1億8700万円)をばらまいたことが情報機関によって捕捉された。

 サム・ダスティアリ上院議員(労働党)は2014年から、中国共産党と関連のある財閥実業家から訴訟費用支援や中国旅行、高級ワインといった饗応を受けていた。2017年にはスポンサーの実業家に「豪政府があなたの携帯電話を盗聴しているので注意すべき」と情報を漏らしていたことが報じられ、国民的な怒りを買い、翌18年1月に政界から追い出された。彼は南シナ海の領有権争いのような事案で親中を選択し、「シャンハイ・サム(Shanghai Sam)」と呼ばれた。

■「後援金、広告、雇用で豪を攻略」

 オーストラリア政府はその後、外国人による政治後援金の寄付を制限し、外国政府に雇われた代理人が内政に干渉した場合には刑事処罰する法律を作った

 豪チャールズスタート大学のクライブ・ハミルトン教授は「中国共産党はオーストラリアを、米国に『ノー』と言う国にしようとしている。オーストラリアの相当数の国会議員、特に労働党議員が主に中国の情報当局の工作員によって影響を受けてきた証拠が明らかになった。中国と関連がある実業家の後援を受けた政治家らは、資金の元を隠している」と語った。 宋義達(ソン・ウィダル)エディター

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▲豪チャールズスタート大学のクライブ・ハミルトン教授が書いた書籍



(朝鮮日報 2022/09/11)

■日本、台湾、フィリピンでも介入攻勢

 中国の政治介入攻勢は東アジアでも際立っている。日本で2019年、自民党の秋元司・衆院議員が中国の国有企業「500.com」から370万円の賄賂を受け取り、懲役4年の判決を受けたのがその証拠だ。国土交通副大臣を務める有力政治家を親中派にしようとした中共の狙いは白紙となった。

 台湾では少なくとも5000人を超える中共のスパイが活動していると推定されている。最近の総統選挙では、国民党から立候補した韓国瑜・高雄市長の当選を目標に中国が数億ウォン(1億ウォン=約1040万円)相当の資金を用意し、台湾実業家を通してこの資金を用いたことが今年1月に判明した。

 中国の元スパイで2019年にオーストラリアに亡命したワン・リーチン(王立強)は「韓国瑜候補を助けるため、2018年8月からソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS、交流サイト)のアカウント20万個を使って蔡英文総統と民進党に関する虚偽情報をばらまいた」と暴露した。台湾は2020年から、「外部敵対勢力」の政治介入を遮断する「反浸透法」を施行しているが、中共に買収された政治家・軍人の拘束や処罰は後を絶たない。

 フィリピンの場合、ドゥテルテ大統領の政敵であるレニー・ロブレド副大統領が2020年9月、SNSを利用した中国のフィリピン政治介入に対し公に警告した。その後、155のフェイスブックのアカウントと六つのインスタグラムのアカウントを利用して、中国がドゥテルテ大統領とその娘サラ・ドゥテルテを支援したことが確認された。親中派のサラ・ドゥテルテは、今年5月にフィリピンで行われた選挙で副大統領になった

 中国の波状攻勢に対し、各国は防諜能力の向上で対抗している。米国の情報機関を総括する国家情報長官室(ODNI)が2021年4月に外国悪影響センター(Foreign Malign Influence Center)を設立したのが、その代表例だ。同年10月、ウィリアム・バーンズCIA長官は声明を発表し「中国任務センター(China Mission Center)を新設し、対中情報業務を強化する」と表明した。

■三つのルートで韓国政治を圧迫する中国

 焦点は、中国共産党が韓国政治にはどれほど、どのように介入・関与しているかだ。取材の結果、韓国政治への介入は三つのルートで行われていた。

第1は、中国外交部(省に相当)と在韓中国大使館を中心とした公式のラインだ
この両者は各種の発言のレベルとタイミングを緊密に調整していた。

 2021年7月15日、当時の保守系最大野党「国民の力」の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領予備候補が「THAAD(高高度防衛ミサイル)配備撤回を主張したいのなら、(中国は)自国の国境付近に配備した長距離レーダーをまず撤収すべき」という「水平的対中関係」を主張したことを巡って、ケイ海明・駐韓中国大使は国際外交街の慣例を破り、中央日刊紙へ寄稿を行って直ちに反論した。その後も、中国外交部の報道官はケイ海明大使の肩を持ち、擁護した。

 2020年1月末に韓国に赴任したケイ海明大使は、駐在国への信任状捧呈も終えていない状態で新型コロナに関連する韓国の一部入国禁止措置に不満を表明した。同年2月には「一部の韓国メディアや政治家が反中感情を扇動している」との暴言を吐いた。外交官が、友好の増進という本分はかなぐり捨てて韓国政治家・メディアをとがめたのだ。

 今年6月29日と30日にNATO(北大西洋条約機構)首脳会議へ出席した尹錫悦大統領を巡り、中国外交部の報道官は「仲間づくりに巻き込まれ、利用されてはならない」と発言した。しかし中国側は、中国の誤った行動を指摘する韓国政治家の発言やメディアの報道は「認められない」と突っぱねている。

 保守系与党「国民の力」の李俊錫(イ・ジュンソク)代表=当時=が昨年、ブルームバーグ通信のインタビューで「(香港の民主化デモを抑圧する)中国の残忍さ(cruelty)に立ち向かう」と発言すると、中国外交部は「香港の事務は中国の内政であって、いかなる国や組織もとやかく言ってはならない」と反発した。 宋義達(ソン・ウィダル)エディター


(朝鮮日報 2022/09/12)

 だが、外部に表れる公開外交活動は、中国の対韓国工作においては「氷山の一角」にすぎない。より強力で重要なものは、第2のルートである「影響力工作(Influence Operation)」だ。中国共産党内の統一戦線工作部や宣伝部、国家安全部などがここに関与する

 専門家らは「韓半島は、中国が設定した第1列島線(沖縄-台湾-フィリピン-ブルネイを結ぶ、中国の海上防衛ライン)内に唯一入り込んでいるだけに、中国は『影響力工作』において韓国を外すことはできない」と語る

※参考 時事通信より
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イ・ジヨン啓明大学教授は、「月刊朝鮮」2022年3月号に寄稿した記事で、中共の手法をこのように分析した。

「中国は、対外的に共産党の実体を徹底して隠し、純粋な民間組織、企業、教育機関、自治体の偽装された外郭組織を表に出して進んでくる。工作の形態は主に『親善』『友好交流』『投資交流』『研究交流支援』などだ。相手国や個人の警戒心を刺激しないためだ」

 イ教授は「中国と関連するほぼ全ての対外関係は、中国共産党(中共)中央が組織的に動員した『超限戦』工作だと見ていい。超限戦(境界と限度を全て超えた戦争)の目的は、中国が相手国に対する政治的・経済的影響力を確保し、社会的分裂を助長して自滅の道へと誘導することで、終局的には世界の覇権を握ることにある」と語った。

 このために中国は、「環球時報」やその英字版の「Global Times」といった姉妹国営メディアまで動員し、随時「外郭たたき」をしている。元「環球時報」編集者の胡錫進は、ぞんざいな暴言で相手国を脅す中国当局の「宣伝前衛兵」だ。

 韓国国内の工作対象は広範囲にわたる。大学教授、研究員、報道関係者、公務員、実業家はもちろん、引退した政治家・高級官僚や、ドラマ・映画・ゲームなど文化産業の従事者、中国関連の団体、果ては犯罪組織まで網羅している

 匿名のある中国専門家はこのように指摘する。「中国は、適切な名分と場を提示して自然にアプローチし、親交を積む。大多数の韓国人当事者は、自分の威勢を認めてくれる中国の好意をありがたがり、韓国の国益を損なっているという事実すら知らない。中国が諜報活動をしなくとも、重要な情報や事情を中国側にばらまいてやる、一部の韓国人の卑屈で反逆的な動きも問題だ」

■1000万人の「五毛党」…コメントなどでサイバー攻勢

 さらに、第3のルートがサイバー空間だ。2015年に米国へ逃げ、中共の実相を告発してきた実業家の郭文貴は「西側諸国を崩壊させるため中共は、オンライン工作のBlue、賄賂工作のGold、ハニートラップのYellowという『BGY戦略』を用いている」と、このように語った。

「オンライン工作は、SNSでのコメント部隊を動員した世論操作、サイバー攻撃での個人情報奪取やハッキングを含む。フェイクニュースで世論を操作することもあり、当該国の大衆を洗脳しようとしている」

 「五毛党」というコメント部隊は、最初から中国当局の指揮を受けている。コメント1件につき5毛(0.5元。およそ9.9円)から7毛(約13.8円)を受け取る五毛党のメンバーは、北京市内の200万人を含め1000万人を超える。1990-2000年代に生まれた国粋主義的な青年の組織である「小粉紅」も一翼を担っている。

 2020年10月に韓国のボーイズグループ防弾少年団が米国バン・フリート賞を授与された際、その受賞所感に言いがかりを付けて非難コメントをばらまいたのはこの人々だという見方が有力だ。

■韓国人の80%は「中国が嫌い」…「内政干渉」1位

 事案によっては、80万人に達する韓国国内の朝鮮族や在韓中国人留学生の一部も参加しているといわれる。2020年2月、自分は朝鮮族だと身元を明かしたあるネットユーザーが、韓国国内のサイトに「中国共産党が朝鮮族や中国人留学生などを抱き込み、韓国のネット世論を操作している」として「チャイナ・ゲート」を暴露した。

 今年3月には、青瓦台の竜山移転反対の世論を中国が組織・拡散しているという.疑惑も広まった。多数の人間を動員した中共の世論操作が行われたら、韓国人の政治的判断や選択が誤導されかねないというのが現実だ。

 注目すべきなのは、中国の韓国に対する政治介入を認知し、反感を表出させる韓国人が増えているという事実だ

米国の世論調査機関ピュー・リサーチ・センター(Pew Research Center)が2022年6月29日に公開した対中認識調査を見ると、韓国人の54%は「韓国の国内政治に対する中国の関与は極めて深刻(very serious)」と回答した。

 これは調査対象19カ国中、同項目で最も高い数字になる。同時に、韓国政治に介入・関与し、時には属国扱いのようなことをする中国の傲慢(ごうまん)な振る舞いに対し、次第に、より多くの韓国人がうんざりしていることの傍証だ。

■「中国に抵抗する韓国の力を弱めることが目標」

 その結果、韓国国民の2022年度中国非好感度(unfavorable view)は80%を記録し、歴史上最も高くなった。2015年(37%)と比べてみると、非好感の比率はわずか7年で倍以上に増えた。この調査で韓国は、19カ国中唯一、青年層の中国非好感度が壮年層を上回った。

 問題は、中国の対韓影響力工作が中止されたり減少したりする可能性は皆無だということだ。

クライブ・ハミルトン教授は、著書『『目に見えぬ侵略』にこのように記した。


「インド・太平洋で中国が狙っている主な国はオーストラリアと日本、韓国だ。中共は韓国の学界や政界、言論界、文化界全般で北京擁護論者や融和論者を確保した。中共の目標は、韓国各機関の独立性を損ない、北京に抵抗する韓国の力を弱めることだ」(7-9ページ)

 これは、今後中国の攻勢が一層執拗(しつよう)になり、韓国人の反中感情がさらに悪化することもあり得ることを示唆している。 宋義達(ソン・ウィダル)エディター