(読売新聞 2022/09/11)

 日本政府が2012年に尖閣諸島を国有化してから、11日で10年になった。中国は海洋進出を加速させ、海警局の船による同諸島周辺の挑発行為は常態化している。緊張緩和は見通せず、日中国交正常化50年の節目を控え、両国の関係改善に向けた動きにも影を落としている。

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◇にらみ合い

 7月5日未明、沖縄県石垣市の尖閣諸島・魚釣島沖。同県与那国町の漁師(50)が操る「瑞宝丸」(総トン数9・7トン)が島に近づくと、闇夜に巨大な二つの船影が浮かんだ

 高級魚アカマチ(ハマダイ)を狙って漁に出た金城さんを待ち構えていたのは、数千トンクラスの中国海警船だった。領海侵入した海警船2隻は瑞宝丸を挟み撃ちし、数百メートルまで船体を寄せてきた。海上保安庁の巡視船が割って入り、「にらみ合い」が続いた。領海内の連続滞在時間は国有化以来最長の64時間17分に及んだ

 金城さんは近年、海警船につきまとわれることが多くなったと憤る。「中国は本気で尖閣を乗っ取りにきている。豊かな日本の海で、なぜ中国に気を使って漁をしなければならないのか」

◇態勢強化

 松野官房長官は9日の記者会見で、7月の領海侵入に触れ、「情勢は依然予断を許さず、極めて深刻に懸念している」と語った。

 尖閣諸島を巡っては12年4月、当時の石原慎太郎東京都知事が民間人の地権者から買い取る意向を表明したことを契機に、民主党の野田政権が同年9月、国有化に踏み切った

 中国側は激しく反発した。海上保安庁によると、09~11年に計1件だった中国公船の領海侵入は、12年に23件に急増。翌13年に52件と最多となり、その後も年20~30件前後で推移してきた。海警船の接続水域(領海の外側約22キロ・メートル)内の航行日数は20、21年はそれぞれ年間300日を超えた

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 日本政府は海保の巡視船の増強や、南西諸島への自衛隊部隊配備などを進めるが、中国側も大幅に態勢を強化している。13年には国家海洋局など4組織を統合して海警局を発足。18年に武装警察部隊の傘下に編入した。21年には、主権が侵害されたとみなせば海警局の船舶に武器使用を認める海警法を施行し、現場の緊張感はさらに高まった

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◇対話は不透明

 中国は空でも動きを活発化させている。今年3月には無人偵察機が尖閣北方の日本の防空識別圏を飛行し、日本は航空自衛隊の戦闘機が緊急発進(スクランブル)で対応した。ロシアによるウクライナ侵略後、ロシア軍との共同行動も目立つ。

 日本政府は9月29日の日中国交正常化50年を控え、外相や首脳レベルの対話で緊張緩和を模索するが、見通しは不透明だ。実際、8月上旬にカンボジアで予定された日中外相会談は、米下院議長の台湾訪問などに伴い、開催が見送られた。

 中国側は尖閣周辺海域の活動を継続し、既成事実を積み重ねる戦略を緩めていない。日本の外務省幹部は「緊張緩和に向けた働きかけと同時に、首脳会談など様々なレベルで両国の意思疎通を図る努力を続けるしかない」と指摘する。


(読売新聞 2022/09/11)

 尖閣諸島(沖縄県石垣市)の国有化から11日で10年。島々は希少な動植物の「宝庫」だが、上陸しての生物調査などが行えない間に環境破壊も指摘されている。本土復帰前の米統治下で学術調査に参加した元気象台職員正木譲さん(88)(石垣市)は「後世の研究者が自由に調査できる環境を整えてほしい」と願っている。(林航)

 石垣島測候所(現・石垣島地方気象台)職員で、動植物に造詣が深かった父・ 任(つとむ)さんは1939年、日本政府の資源調査に同行し、魚釣島などに上陸。地質や植生、生態系の調査結果をまとめた41年の「尖閣群島を探る」は、尖閣研究の先駆的資料として活用されてきた。

正木さんの父が北小島で撮影した写真。手にした棒を一振りしただけで、海鳥が2、3羽捕獲できたという

 任さんは戦時中の43年、東京での研修帰りに船が米軍潜水艦に攻撃され、命を落とした。幼かった正木さんは父から直接話を聞くことはなく、自宅に残されたアルバムの中で島々に接した。中でも海鳥・セグロアジサシの大群に心を奪われ、「いつか自分も行ってみたい」との思いが膨らんだ。

 父の背中を追って気象台に就職し、同測候所などで予報業務に従事していた68年、日本政府の資源調査団に海洋観測担当として声がかかり、石垣島の北西約170キロの魚釣島に上陸した

 父の初上陸と同じ30歳代。アルバムで見た景色をたどるように夢中で散策した。自由に飛び回る海鳥、荒波に削られた断崖絶壁――。「こんなに自然豊かな島があるのか」と胸が躍った。

 南小島に上陸した際には、台湾漁船約50隻が島周辺で操業しており、漁民の一部が座礁船の解体作業をしていた。調査団に同行した琉球政府職員や警察官らが日本の領土だと説明し、島から退去させたという

 石垣市によると、50年代以降、研究者らが各種調査のために上陸。71年に中国と台湾が領有権を主張し始めた後も続いたが、91年を最後に上陸しての環境調査は行われなくなっていた

 調査再開の実現が遠のいたのが、2012年の国有化だった。中国海警船が付きまとうため日本漁船はほとんど操業しなくなった。国有化直前に東京都が行った船上調査では、魚釣島でヤギが繁殖し、センカクツツジなどの固有種を食い荒らしていることも確認された。アホウドリなど絶滅危惧種の保全や、漂着ごみの散乱も課題となっている。

 こうした状況の中、正木さんは復帰50年を前にした21年9月、島に滞在した数日間の記憶をたぐり、冊子「尖閣への 想(おも)い  遥(はる)かなり」を発行した。自身が目にした光景に加え、父親の調査記録なども掲載。「争いの島」ではなく、「固有種が数多く生息する島の魅力を若い世代に知ってもらいたい」という思いを込めた。

 「尖閣は研究題材の宝庫」と評する正木さん。「歴史的にも日本の領土であることは明らか。後世の研究者のためにも、再び上陸できるようにしてほしい」と求めている。

◇「海域調査今後も継続」 石垣市長

 国有化10年を前に、尖閣諸島が属する沖縄県石垣市の中山義隆市長(55)=写真=が読売新聞のインタビューに応じた。中山市長は、市が1月に実施した尖閣沖の海域調査を今後も継続して行う意向を示した

 中山市長は、中国海警船による領海侵入や接続水域航行が常態化した現状について、「船が大型化し、隻数も増えている。圧力は日々高まっている」と指摘した。

 2012年の国有化については、「中国を含む海外資本に購入される恐れがなくなった」と評価。一方で、「中国船の航行が常態化する現状では、日本の領土だという説得力がなくなってしまう」と懸念を示し、日本政府が船だまりや灯台などを設置するよう求めた

 ヤギの食害や漂着ごみなど環境破壊が指摘されることについては「環境調査を実施し、生態系を保全する必要がある」と述べ、上陸調査の必要性を強調した。

 市は1月、調査船で周辺海域を航行して海水を採取し、ごみの漂着状況を確認した。中山市長は「漁場や漂着物の状況を調べるのに有意義だった。今後も継続したい」と語った。


(読売新聞 2022/09/11)

 「海洋強国」を掲げる中国は年々、南西諸島周辺で威圧的な活動を活発化させている。政府は領土・領海を守る強い体制を築かねばならない

 2012年9月、民主党の野田政権が尖閣諸島を国有化してから11日で10年がたった。

 私有地だった魚釣島など3島を購入したのは、中国が当時、この海域を実効支配しようという行動を強めたことが背景にある。10年には、違法操業をしていた中国漁船が、海上保安庁の巡視船に体当たりする事件も起きていた。

 日本が1895年、尖閣諸島の領土への編入を決めた際、中国は何ら異議を唱えなかった。領有権を主張し始めたのは、尖閣周辺に石油資源が埋蔵されている可能性がある、と国連の機関が報告した後の1970年代以降だ

 歴史的にも国際法上も、尖閣は日本の領土であり、中国側の主張には何の根拠もない。政府は、こうした事実を国際社会に粘り強く訴えていくことが肝要だ

 中国は、着々と海洋進出の体制を強化している。2018年には、海上保安機関である海警局を軍の傘下に入れた。21年には海警法を施行し、「主権が侵害された」とみなせば、外国船に対して武器を使えるようにした。

 偶発的なトラブルが軍事衝突に発展しかねない。

 海警局の船2隻は今年7月、過去最長の64時間超にわたって尖閣周辺の領海に侵入した。今月8日も4隻が侵入したばかりだ。

 日本の主権を侵害する行為は、断じて容認できない。海上保安庁は周辺海域の監視に努めるとともに、領海に侵入した中国の船を速やかに退去させ、安定的に海域を管理してもらいたい。

 ただ、中国海警局の大型船は132隻に上り、海保の70隻を大きく上回っている。政府は、必要な装備を着実に整えてほしい

 南西諸島に武装組織が漁民に偽装して上陸した場合、武力攻撃かどうかは即座に分からない。

 こうした「グレーゾーン」に的確に対処するには、海保と警察、自衛隊が日頃から、様々な事態を想定して役割分担を明確にしておく必要がある。実践的な共同訓練を重ねることも不可欠だ。

 日中両政府は18年、自衛隊と中国軍の偶発的な衝突を避けるため、「海空連絡メカニズム」の運用を開始することで合意した。

 だが、その柱である幹部間のホットライン(専用電話)は今も開設されていない。日中は早急な実現を目指すべきだ。