(東京新聞 2022/08/23)

 元徴用工訴訟を巡り、韓国の地裁が賠償を命じた日本企業の韓国内資産の売却可否について、最高裁が判断を先送りした。日韓両政府はこの機を逃さず、協力して打開策を探るべきだ

 三菱重工業は四カ月前、地裁の売却命令を不服とする再抗告を韓国最高裁に行った。十九日にも何らかの決定が出るとみられていたが、動きはなかった。ただ、担当判事が九月退官予定で八月中に決定が出るとの観測もある

 五月に就任した韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領は日本との関係改善で一貫している。就任百日の記者会見でも、元徴用工訴訟に関して日本側と債権者(原告)双方に配慮した方策を検討中と明らかにし、韓国外務省も「外交的努力」を訴える意見書を最高裁に提出した。

 韓国政府は、日本企業の賠償金を肩代わりする「代位弁済」などを検討していると伝えられ、「官民協議会」を発足させ、関係者の意見集約を進めてきた

 しかし、原告側代表は韓国政府の姿勢に不満を表明して協議会を離脱した。元徴用工問題は、政府レベルでしか解決が図れない。原告側は協議会に復帰してほしい

 一方、日本政府も「韓国側の問題」と突き放すのではなく、韓国政府に協力姿勢を示すべきだ

 日本政府は元徴用工問題について、両政府が一九六五年に結んだ日韓請求権協定で解決済みとの立場だ。ただ、尹政権は支持率が低下しており、対日関係で思い切った対応を打ち出しにくいことにも配慮する必要があるだろう

 日本政府が二〇一九年に行った輸出規制強化はすでに外交的意味を失い、撤回も検討に値する。撤回が表明されれば、協議会の議論促進につながるのではないか

 資産現金化が決まり、日本政府が報復すれば、問題がこじれて多方面に悪影響を与えるだけだ。

 日韓の連携にひびが入れば、被害者が求める名誉回復は遠のく。さらに、双方で数兆〜数十兆円に上るビジネス機会が失われるとの指摘もある。

 安全保障を巡る日米韓三カ国の協力関係にも深刻な打撃を与え、海洋進出を強める中国や、核ミサイル開発を加速する北朝鮮に誤ったメッセージを与えかねない。