(毎日新聞 2022/05/29)

 中国新疆ウイグル自治区などを訪問していた国連のバチェレ人権高等弁務官は28日夜のオンライン記者会見で、中国政府がテロ対策として進める少数民族らを対象とした取り締まりについて「国際的な人権基準に合わせて見直すよう促した」と強調した。しかし、具体的な問題点に関する指摘はなく、中国側はむしろ、今回の訪問で自らの主張の正しさが明らかになったと主張している

 バチェレ氏は記者会見で、中国政府が自治区でテロや過激主義対策として展開している取り締まり手法が、ウイグル族などの少数民族の人権に影響を与えているとの懸念や疑念を中国側に提起したと強調した。中でも、取り締まりが恣意(しい)的かつ差別的に行われている可能性について指摘した。

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 バチェレ氏は訪問中、習近平国家主席とオンライン会談したほか、自治区トップの馬興瑞・共産党委員会書記とも面会した。こうした政治指導者に直接、政策変更を迫ったとすれば、訪問に一定の意義はあったと見ることは可能だ

 その一方で、バチェレ氏は今回の訪問は「調査ではない」と従来の説明を繰り返した上で、中国政府がテロ対策の名目で新疆各地で運営した「職業技能教育訓練センター」の実態について「今回の訪問では全体像をつかむことはできなかった」と認めた

 バチェレ氏によると、自治区南部カシュガルで刑務所を訪問したが、この刑務所に収容されていたのは主に一般の犯罪を犯した受刑者で、特に人権問題が指摘されているテロ・過激主義対策によって収容された人々ではなかった。また、「職業技能教育訓練センター」については、すでに別の教育施設となった場所で、訓練センター時代を知る人物から聞き取りを行うにとどまった

 中国外務省の馬朝旭外務次官は28日、バチェレ氏が新疆ウイグル自治区で綿花畑を訪問したほか、宗教関係者とも面会したと明かした。欧米などから信教の自由の抑圧や綿花畑での強制労働などの疑惑が提起されたことを念頭に訪問先を決めたとみられる

 中国外務省が公表した馬次官の発言録によると、馬次官は「中国政府は、中国をおとしめるうそとデマに断固として反対する。一部の西側の国は、バチェレ氏の訪問を妨害し、また価値を落とそうとしたが、そのたくらみは成功しなかった」と主張した。【北京・米村耕一】

◇「国連への信頼揺らぐ」

 独立性や透明性が確保できたとは言えないバチェレ氏の訪中には、人権団体や在外ウイグル人らから厳しい指摘も出ている。

 国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」のケネス・ロス代表はツイッターへの投稿で「(バチェレ氏は)中国当局者と率直に話すことができたと自らの訪問を擁護しているが、静かな秘密の部屋での会話はまさに北京が望んでいることだ」と指摘。そこには「ウイグル族らへの激しい抑圧を終わらせる圧力はない」と批判した。

 自治区の人権問題をめぐっては、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)が報告書を発表する予定で、報道官が昨年12月、数週間以内にも発表できると明らかにしていた。だが、年明けになっても発表はされず、欧米各国や人権団体は早急な発表を求めていた。

 国連外交筋は「報告書に今回の訪問結果も盛り込まれれば、その内容は中国側の主張をより反映したものになりかねない。人権問題における、国際社会の国連への信頼はさらに揺らぐことになる」と懸念する。

 国連では中国の存在感が増している。各国が経済力に応じて支払う国連分担金は、2019年から中国が日本を追い抜き世界2位になった。

 米誌フォーリン・ポリシーによると、米国のトーマスグリーンフィールド国連大使は今年2月の北京冬季オリンピック前、人権問題を念頭にグテレス事務総長に開会式を欠席するよう求めていた。しかし、グテレス氏は国連の主要国である中国を怒らせるわけにはいかないと説明したという

 海外に暮らすウイグル人らからは失望の声が出ている。自治区南部カシュガル地区出身で、家族と連絡がとれなくなっているヌルシマングル・アブドゥレシッドさん(34)=トルコ在住=は「自由な訪問ではなかったし、常に中国当局に監視される中での訪問だった。最初は彼女が何かしてくれるのではと期待していた。けれど記者会見を見て失望に変わった」と語った。【ニューヨーク隅俊之】



【北京=坪井千隼】中国・新疆しんきょうウイグル自治区を視察に訪れていた国連のバチェレ人権高等弁務官は、視察最終日の28日に行ったオンライン記者会見で、視察は「調査ではなかった」と述べ、人権弾圧の実態に迫れなかったことを認めた。米バイデン政権は「中国側の宣伝に利用される」との懸念を示してきたが、海外ウイグル族団体からは視察結果に失望の声が上がった。

 ロイター通信によるとブリンケン米国務長官は28日の会見を受け「中国の行動制限があり、完全で独立した人権状況の評価はできなかった」と改めて懸念を示すとともに、「高等弁務官は、秘密が保たれた形での現地住民との会合が許可されるべきだった」と中国の対応を非難した。

 亡命したウイグル族でつくる団体「世界ウイグル会議」も同日声明を発表し、視察結果に「深刻な失望」を表明。「視察は中国の虐殺行為や人道上の犯罪に免罪符を与えるという、中国側プロパガンダの機会になった」と厳しく批判した。

 バチェレ氏一行は23日に中国入りし、同自治区のウルムチやカシュガルを訪問。現地では高官と会談し刑務所も訪れたという。

 だが新型コロナウイルス対策のため、視察は外部との接触を遮断した「バブル方式」で行われ、一行は中国側が指定した人としか話すことができず、海外記者の同行取材も認められなかった

 米政府系ラジオ自由アジア(RFA)によると、当局が住民に「外国人の電話や問い合わせに答えるな」とかん口令を敷いた。実際に視察期間中、本紙はカシュガルの飲食店やホテルに電話で取材を試みたが、視察については「知らない」「話せない」と一様に口を閉ざした

 バチェレ氏は会見で、中国政府がテロ対策を名目に多数の人々を拘束しているとの指摘を念頭に、「中国政府にテロ対策のやり方を見直し、国際的な人権基準に従うよう求めた」と述べた。また海外で暮らす自治区出身者が家族と連絡が取れなくなっている問題を巡り、「連絡がとれない人たちに、情報を提供するよう中国政府に要請した」と述べ、今後も中国政府と定期的な対話を続けていく考えを強調した。