(朝日新聞 2021/01/10)

 北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長は平壌で開いている党大会で、「最大の主敵である米国を制圧し、屈服させることに焦点を合わせる」と述べ、対決姿勢を鮮明にした。核兵器やミサイルなどの開発状況を詳しく公表し、20日に発足するバイデン政権を牽制(けんせい)した。

 朝鮮中央通信が9日、正恩氏の5~7日の報告をまとめて報じた。バイデン氏を名指しはしなかったが、「誰が政治の実権を握っても、米国という実体と対朝鮮政策の本心は絶対に変わらない」と強調。一方で、「新たな朝米関係を築くカギは米国が北朝鮮への敵視政策を撤回することだ」とも主張し、対話への余地も残した。昨年11月の米大統領選後、正恩氏が対米関係に言及したのは初めて。

 正恩氏の報告で際立ったのが、核兵器やミサイルなどの開発状況だ。韓国の北朝鮮専門家は「ここまで具体的で露骨な公表は初めて」と驚く。

 正恩氏は報告で「核兵器の小型軽量化、戦術兵器化をさらに発展させる」として、多弾頭型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)の研究が「最終段階」にあるとした。1万5千キロの射程圏内の目標に正確に命中させる能力を高め、核による先制と報復の攻撃能力を得ることを目標に掲げた。米ワシントンを念頭に置いたものだ。

 高速で変則的な軌道をとる「極超音速滑空ミサイル」や、事前察知が難しい固体燃料のICBM、潜水艦発射型の核兵器、原子力潜水艦、軍事偵察衛星の研究開発の状況にも触れた。

 核戦力をめぐり、正恩氏は「敵対勢力が我々を狙って核を使おうとしない限り、乱用しない」とも述べた。自衛のためだと強調するとともに、米国の出方次第では使用もありえると牽制した形だ。

 正恩氏は韓国との関係を「深刻な膠着(こうちゃく)状態」と表現した。南北関係の改善には米韓合同軍事演習の中止などが前提としながら、「(板門店で南北首脳会談が行われた)3年前の春のように、平和と繁栄の新しい出発点に戻ることもありえる」と文在寅(ムンジェイン)大統領に秋波も送った

 南北関係の改善を最大の公約に掲げる文氏にとっては望ましいメッセージのようだが、韓国政府の元高官は「北朝鮮が韓国に望むのは訓練中止に加え、大規模な経済協力だろう。米国の意向を考えれば不可能で、文大統領にとってはジレンマとなる」とみる。

 正恩氏は、米国と緊張関係にある国々とは親密さをアピールした。中国とは「親善関係の新しい章を開く」、ロシアとは「伝統的な関係の新しい発展」。制裁や新型コロナウイルス防疫のための国境封鎖、自然災害という「三重苦」で厳しい経済状況が続くなか、両国の支援に期待しているようだ。韓国の情報関係者は「バイデン政権が米韓や日米の同盟で北朝鮮にあたるなら、北朝鮮は中ロとの関係強化で耐えるとの狙いを示した」と分析する。

 経済については、中ロからの支援以外では外部に依存せず、自力で回していくしかない。このため正恩氏が報告で「自給自足」に言及したことも韓国の専門家らの目をひいた

 南北協力に関わり北朝鮮の内情を知りえる関係者は、「北朝鮮は当分の間、かつてのように孤立状態になることを覚悟したようだ。その間に米国や国際社会が北朝鮮の望む対価を示すとみているが、その可能性は低い。米朝も南北も行き詰まった状況が続くだろう」と語った。(ソウル=神谷毅、鈴木拓也)


アメリカ新政権は当面、分断・コロナなど国内対策が急務で、北朝鮮にかまう気はないでしょうね。

核実験をしてもアメリカが大きく動くことはないんじゃないですかね。それでも注目してほしいなら、グアム沖やハワイ沖にでもミサイルを着弾させるくらいしないとね。