(共同通信 2020/12/31)

 香港終審法院(最高裁)は31日、香港国家安全維持法(国安法)違反と詐欺の罪で起訴された香港紙、蘋果日報(リンゴ日報)創業者の黎智英氏に対し、保釈を取り消し再び収監する判断を下した。23日に保釈を許可した高等法院(高裁)判断に対し司法当局が不服申し立てを申請したことを受け、終審法院が31日、審理を開いて決定した。

 高裁判断を巡っては、香港の梁振英前行政長官ら親中派や中国メディアが公然と非難していた。今回の判断は中国側の強い圧力により司法の独立が危うくなっていることを改めて印象付けた


先日、高等法院(高裁)が保釈を認めた時、「保釈申請は却下される見通しでしたが・・・」としながら「香港司法は中共に対する最後の砦」なんて趣旨の報道もありましたが、やっぱりと言うしかないですね。

2020年12月24日
中共に批判的な香港紙の創業者、香港高裁が保釈認める。当局は最高裁に上訴!


 香港民主派の象徴ジミー・ライ/拘束直前の肉声「香港のことを忘れないでほしい」
(週刊東洋経済 2020年12月19日号)

香港民主化の旗手は捕縛を前にして日本に重いメッセージを残した。

ジャーナリスト富永久

「今から話をしよう!」

12月3日朝。今となっては香港で唯一の中国に対して物申す新開であるアップルデイリー(蘋果日報)の創業者、ジミー・ライ(黎智英)からSNSで連絡が入った。香港時間の同日午後1時にジミーは警察に出頭しなければならない。その前夜にインタビューを申し入れていたところ、指定時間よりも早く連絡が来た。その直後、自動車で移動中らしいジミーが携帯電話の画面に現れた。

 まぶたは腫れ疲労困憊(こんばい)ぶりが手に取るようにわかる。

 「昨夜は英国メディアからのインタビューが立て込んで寝ていないんだ。アップルデイリー本社に立ち寄って旺角警察に出頭する」

 この日、ジミーだけではなくアップルデイリーを擁する企業、壹傳媒(Next Digital Limited)グループの幹部数人が出頭を命じられていた。本社で彼らと落ち合ってから出頭するのであろう。

 「今回は詐欺容疑なんだよ。壹傳媒の社屋に無関係の会社の登記をしていたことが、また貸しを禁ずる契約に違反するというんだ」

 ジミーは1960年に裸一貫で大陸から香港へ密航。衣料品チェーン「ジョルダーノ」を創業して財を成し、アップルデイリーを創刊。同紙を中心に中国共産党批判を大々的に展開してきた。2014年の民主化要求デモ「雨傘運動」や、昨年6月に犯罪人引き渡し条例改正をきっかけに発生した大規模デモを物心両面で支援。香港当局からすでに6件で起訴されている。

 「酔翁の意は酒にあらず(「真の狙いは別にある」の意)って中国のことわざ知ってるだろ。詐欺罪は口実でしかない。最後は天下の悪法、国家安全維持法で私を何とかしようという魂胆だ、敵は。米国が政権移行で混乱しているどさくさに紛れて私を処分してしまおうと考えたのだろう」

 今年7月1日に香港で施行された国家安全維持法は外国勢力との結託に対して最高刑の終身刑を規定。海外メディアに対して積極的に情報を発信していたジミーは8月10日に同法容疑で逮捕され保釈中の身。海外渡航も禁じられている。

 「もう腹は据わっているよ。今回は保釈を認められず、そのまま収監だろう。本丸の国家安全維持法で立件しようとしているんだ。この法律が施行されてからも私は香港の現実をさまざまな形で国際社会に発信してきた。SNS、海外マスコミのインタビュー、自分のコラムなどを当局は詳細に調べている。これについて尋問があるのは間違いない」

 ジミーの出頭の前日の12月2日にはアグネス・チョウ(周庭)、ジョシュア・ウォン(黄之鋒)に禁錮刑が言い渡されている。アグネスは日本では「民主の女神」と名高いが、実態は日本向け広報担当でしかない。

 ジミーは1989年6月4日の天安門事件以前から中国共産党一党独裁を徹底批判してきた、筋金入りの反共闘士だ。大陸からは民主党結党党首のマーティン・リーらとともに「香港4悪人」に挙げられている。アグネスらとは当局の警戒度の桁がいくつも違う

「香港特区政府はコロナ禍にも便乗して、今では4人以上が集まることすら禁じてしまった。政府、中国共産党へ抗議の声を上げることもデモ行進することもできなくなってしまった。

 香港市民は猛烈に反発している。声は上げられず、アクションは取れなくなっていても、その不満と怒りは心の奥底に蓄積されている。そうした声の発信のどこが違法だというんだ」

 犯罪人引き渡し条例改正に端を発した大規模抗議活動のさなか、黒シャツと目出し帽に身を固めた「勇武派」と呼ばれる若者たちは空港占拠、公共交通機関への破壊行為を繰り返し、香港騒乱と表現できるほどに過激化。一般市民の人心は離れたように見える。

 「過激化してしまったことは認めざるをえないが、それは警察が若者に対して過度の取り締まりをしてしまった結果だ。一般市民に対して勇武派が手を上げたことはない。しかし、国家安全維持法でまったく抗議の声が上げられなくなってしまった今、われわれは平和的、非暴力、理性的という〝和非理〟、雨傘運動の原点に立ち返らなくてはいけない」

◇新たに市民議会設立を

 11月11日には、中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)常務委員会の決定に基づき香港立法会(議会)の民主派議員4人の議員資格が剥奪された。これを受けて民主派議員は全員が辞職。抗議の声を、立法会を通じて上げることすらできなくなった。

 「共産党と香港特区政府は立法会を何でも政府の言うことを聞く存在にしたいのだ。香港を広東省と一体化した『大湾区』(グレーターベイエリア)構想の一部分にしようとしている。それは香港の死を意味する。だから、現在の立法会ではなく民間で市民議会を設立して、自由と法の支配を破壊する香港特区政府に対しノーの声を上げ続けていかなければ。特区政府とまったく関係のない市民議会を圧倒的多数の市民が支持してくれると確信している」

 勝算はあるのか香港と自分の近未来をどう描いているのか?

 「97年の香港返還前後には多くの香港人が移民した。しかし、その多くは国際金融都市、貿易都市である香港に程なく舞い戻ってきた。今の移民熱は返還当時以上だが、今回の移民が戻ってくることはないだろう。それは国際金融都市、香港の基礎である自由と法の支配が破壊されるからだ。

 1香港㌦だけを手に大陸から密航してきた自分がここまで成功することができたのは香港という自由の天地があったからこそ。故郷の広東省に帰ることもできない自分には、香港が代えがたい故郷になっている。その香港を守らなくてはいけない。保釈が認められなくても獄中で屈することは決してない。香港にとどまって最後まで闘っていく。

 価値観を共有する日本をはじめ西側の皆さんには、どうか香港を忘れないでもらいたい。皆さんが香港に関心を持ち続けてくれることがわれわれにとっては千軍万馬の力となる。香港を忘れないでほしい!」

 インタビュー自体が国家安全維持法違反に問われる可能性がある中、ジミーはその危険も顧みず雄弁に語った。予想どおり保釈は認められず数時間後に収監。勾留の口実となった詐欺罪の法廷での審理は来年4月まで延期され、保釈申請が認められない限り、ジミーの声はもうどこにも届かなくなってしまった。香港を忘れないでほしい――心に深く刻まれるべき一言だ。=敬称略=