(朝鮮日報 2020/12/03)

与党が対北ビラ散布禁止法をごり押し
統一部の李仁栄長官は「南北関係改善促進法だ」

 韓国与党・共に民主党は2日、北朝鮮との境界地域からの北朝鮮に向けたビラ散布や拡声器放送などを禁じることを定めたいわゆる「対北ビラ禁止法」について、これを野党の反対を押し切って国会外交統一委員会で可決し、今年の通常国会でこの法案を強硬採決する考えを明確にした。野党は「表現の自由を侵害している」「金与正(キム・ヨジョン)下命法だ」などと強く反発してきたが、この法案が国会法制司法委員会を経て本会議で可決されれば、今後は境界地域から北朝鮮にビラを散布するとか、あるいは拡声器放送を行った場合は3年以下の懲役あるいは3000万ウォン(約280万円)以下の罰金に処される。野党からは「文在寅(ムン・ジェイン)政権の任期があと1年6カ月しか残っていない今の状況で、与党勢力は『南北関係の行き詰まり打開』を口実に、憲法で保障されている表現の自由の侵害、さらには『対北屈従』との指摘にもかかわらず、無理して法改正をごり押ししている」といった批判の声が上がっている。

 この日、民主党所属の宋永吉(ソン・ヨンギル)外交統一委員長が代表となって提出した「南北関係発展法改正案」を民主党が採決しようとすると、保守系野党・国民の力所属の議員らは採決直前に集団で議場を後にした。野党の外交統一委員らは直後に国会で会見を開き「金与正氏の一言によって政府や国会まで動き出す屈従的な事態が起こっている」と批判した。北朝鮮の金与正・労働党第1副部長は今年6月の談話で、脱北者団体などによる北朝鮮へのビラ散布を激しく非難した。野党は「『憲法で認められた表現の自由を侵害している』との批判にもかかわらず、与党は法改正をごり押ししている」と主張しているのだ。これに対して韓国統一部(省に相当)の李仁栄(イ・インヨン)長官は改正案が外交統一委員会で可決された直後に声明を出し「今回の改正案は『国民の生命と安全の保護法』であり、『南北関係改善促進法』『韓半島平和増進法』だ」とした上で「南北間の合意は必ず順守しなければならないとする可決の趣旨に基づき、持続可能な南北関係発展の基盤を構築していきたい」との考えを示した

 民主党が今年の通常国会で野党の反対を押し切り、法案を強硬採決するのは今回が2回目だ。民主党は先日の国会情報委員会で、国家情報院による対共(共産スパイなど)捜査権を警察に移管し、国家情報院の役割を国内における情報収集に限定する「国家情報院法改正案」を単独で可決した。さらに民主党は高位公職者犯罪捜査処長(高捜処長)候補の推薦について、野党の拒否権を無力化する「高捜処法改正案」も近く成立させる方針だ。民主党のある関係者は「民主党が推進している重要法案の採決は今年中に終わらせる」とコメントした。


(朝鮮日報 2020/12/03)

表現の自由を懸念する声相次ぐ
「北朝鮮に降伏した」との指摘も

 韓国で2日、北朝鮮に向けたビラ散布を禁止する法案が与党「共に民主党」の主導によって国会外交統一委員会で可決される中、米国の政界・民間では、表現の自由と民主主義の弱体化を懸念する声が相次いでいる。「北朝鮮の要求に順応し、人権問題に対する議論を中断させる振る舞いだ」との指摘も出ている

 共に民主党は2日の外交統一委員会で、野党の反対を押し切っていわゆる「対北ビラ禁止法」を通過させた。軍事境界線一帯でビラを散布した場合、最大で3年以下の懲役または約2万7000ドル(約280万円)以下の罰金が課される。今月の本会議でも順当に可決されると予想されている。

 ロベルタ・コーエン元米国務副次官補は2日、米政府系メディア「自由アジア放送(RFA)」に対し「文在寅(ムン・ジェイン)政権は、韓国の力が民主主義制度と人権尊重にあるということを忘れたのか」として「北朝鮮の要求と脅威に降伏(capitulation)するものであり、このようなバランスは受け入れがたい」と述べた。その上で「唯一の勝者は北朝鮮だろう」と指摘した

 米民間団体「北朝鮮自由連合」のスーザン・ショルティ代表は「北朝鮮政権と金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党第1副部長のための動きにみえる」として「韓国の与党国会議員らが独裁者の妹に従って行動を決定したものであり、今回の事態は非常に衝撃的」と述べた。

 これに先立ち韓国統一部(省に相当)は今年6月、金与正氏が談話でビラ散布を批判した際、わずか4時間後に「対北ビラ禁止法」制定を推進すると発表した。

 法案を一方的に可決した与党に対する批判の声も相次いだ。米ヘリテージ財団のブルース・クリングナー上級研究員は、ツイッターで「左派の権威主義(progressive authoritarianism)」と皮肉った

対北制裁の専門家であるジョシュア・スタントン弁護士も「韓国の左派は、私が見た中で最も権威主義的な『民主主義』活動家」と指摘した。

 ヘリテージ財団のオリビア・イノス研究員は「北朝鮮へ情報を流すための試みが中断されただけでなく、韓国の官僚たちによって処罰まで受けるという恐ろしいニュース」と述べた。

タフツ大学フレッチャースクールのイ・ソンユン教授は「金与正氏が法を要求したのが6月4日(韓国に向けた談話)だったが、こんなに長く掛かったのだから気持ちがおだやかではないだろう」と述べた。


あと1年半、さらにがんばってくださいね。