(朝日新聞 2020/11/27)

 韓国で、政権与党の有力者を容赦なく捜査してきた検察トップの尹錫悦(ユンソクヨル)検事総長が窮地に追い込まれている。文在寅(ムンジェイン)政権の秋美愛(チュミエ)法相が24日の記者会見で「深刻で重大な不正を多数確認した」として尹氏の懲戒を請求し、職務の執行停止を命じたと発表。尹氏は反発しており、法廷闘争に発展する可能性もある。

■前法相の裁判で不正調査?

 韓国で法相が現職の検事総長に職務の執行停止を命じたのは初めて。秋氏は会見で、娘の奨学金に絡む収賄罪などで昨年末に在宅起訴された曺国(チョグク)前法相などの裁判をめぐり、尹氏の主導で最高検が担当裁判官の政治的思想や家族関係、個人情報などを不正に調査したと指摘した。

 秋氏は、尹氏の政治的中立性が損なわれたとも主張。政権与党に抵抗するイメージが定着した尹氏が、次期大統領候補を尋ねる世論調査で与党の有力候補に並んで上位に名を連ねるようになったことを挙げた。秋氏は、尹氏とメディアとの不適切な関係も指摘し、「検事総長としての職務を遂行することは許されない」と断じた。国民に向けて、「検事総長の不正を防げず、迅速な措置が取れずに心配をかけて申し訳ない」とも語った

 韓国では、法相が検事総長の懲戒処分が必要と判断した場合、検事懲戒委員会に請求する。請求と同時に検事総長の職務執行の停止も命じられる。懲戒委は委員長の法相を含めて7人。うち検事と外部有識者の計5人は法相が任命するため、審査の結果は法相の意向が強く反映されやすい。

■検察トップが反論

 秋氏の会見後、尹氏は声明を出し、「検察の政治的中立を守るため、恥じることなく任務を全うしてきた」と反論。「違法で不当な処分には最後まで法的に対応する」と述べた。26日に職務執行停止の取り消しを求め、行政訴訟を起こした。保守系最大野党の報道官も「法を守らなければならない法相が、超法規的な最悪の手に出た」と批判した。

 文大統領をはじめ、韓国の進歩(革新)勢力は検察について、過去の軍事独裁政権や保守政権下で市民の弾圧に加担した機関との見方を強く持っている

文氏に検察の権限を弱める改革への意を強くさせたのは、文氏が大統領秘書室長などとして支えた故・盧武鉉(ノムヒョン)元大統領の自殺だ。当時は保守の李明博(イミョンバク)政権下で、検察が盧氏の家族の金銭授受疑惑を捜査していた

 文氏は、「権力から独立した検察」が持論で、保守派の朴槿恵(パククネ)前大統領をめぐる贈収賄事件への捜査を率いた尹氏に着目。内部からの改革を期待して、昨年7月に検事総長に登用した

■検察改革はどこへ

 ところが、尹氏は文氏の側近で検察改革を託された曺氏を捜査し、辞任に追い込んだ。曺氏は法相として、政治家や官僚らを対象とする捜査権を検察から新設する独立機関「高位公職者犯罪捜査処」に移す立法措置を主導。このため、政権与党内には曺氏の立件を検察改革潰しと捉える向きが強い

 辞任した曺氏の後任として今年1月に法相に就いた秋氏も尹氏と対立。曺氏に絡む事件の捜査で陣頭指揮を執ってきたソウル中央地検の幹部ら、検察幹部の大規模な配置換えを断行した。一方、検察は秋氏を捜査対象にした。兵役中だった息子の休暇などをめぐって特別扱いを軍に働きかけた疑惑が浮上したからだ。

 9月下旬に不起訴処分となった秋氏は、尹氏が政権与党関係者への捜査に熱心なのは検察改革を妨害するためだと批判。辞任に追い込む動きを強めていた。(ソウル=鈴木拓也)


 検事総長にソウル中央地検長指名 異例の起用=文大統領
(聯合ニュース 2019/06/17

 韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は17日、来月24日に任期が終わる文武一(ムン・ムイル)検事総長の後任に尹錫悦(ユン・ソクヨル)ソウル中央地検長(58)を指名した。青瓦台(大統領府)の高ミン廷(コ・ミンジョン)報道官が発表した。

 朴槿恵(パク・クネ)前政権で冷遇された尹氏は2017年5月の文在寅大統領の就任直後、検事長昇進と同時に検察の要職の一つであるソウル中央地検長に起用された。それから2年にして、再び異例の人事で検察トップに抜てきされた

 国会の人事聴聞会を経て検事総長に任命されれば、尹氏は検事総長の任期制度が導入された1988年以来、高検トップを経験せずに総長に就く初の事例となる。

 尹氏は朴槿恵氏が当選した12年の大統領選に情報機関・国家情報院(国情院)が介入した事件の捜査を指揮し、朴政権と対立した末に左遷された。その後、朴槿恵氏の友人、崔順実(チェ・スンシル)氏による国政介入事件を捜査した特別検察官チームで捜査チーム長を務めた

 文大統領は尹氏を検事総長に起用することで、政府が重点を置いて取り組んできた積弊(積み重なった弊害)清算の捜査に対する功労を認めるとともに、検察・警察の捜査権調整をはじめとする検察改革を引き続き推し進めていくという意向を示したとみられる。


保守は政権を追い詰めたから自分たち陣営の人物かと思ったら、政権に厳しいだけの人物だったということですかね。