(朝日新聞 2020/10/31)

 海上保安庁は、導入を検討している大型無人機の飛行試験を報道陣に公開した。尖閣諸島周辺をはじめ外国船の活動が活発化するなか、無人機が太平洋側などを広範囲に警戒監視することで、現状の人員や機材をそうした警備に集中させるようにする狙いがある。

 29日午前、青森県八戸市の海上自衛隊八戸航空基地。ブォーンと大きな音を立てながら米ジェネラル・アトミクス社のプロペラ機「シーガーディアン」[MQ-9B]の機体後部につけられたプロペラが回り始めた。全長11・7メートル、幅24メートルだが、機体や両翼は細長く、数字ほど大きくは感じなかった。操縦席はない。地上にあるコックピットからパイロットが衛星を介して無線で操縦できるが、離着陸も含めてほぼすべて自動操縦だという。滑走路まで自走し、勢いよく飛び立っていった。

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▲海上保安庁が導入を検討している大型無人機シーガーディアン=青森県八戸市の海上自衛隊八戸航空基地

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▲シーガーディアンの操縦と同じコックピットを使ってシミュレーションをする様子=ジェネラル・アトミクス社提供

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▲シーガーディアンとは2種類のアンテナを使って無線でやりとりしている=海上自衛隊八戸航空基地

 シーガーディアンはドローンなど小型無人機と異なり、パイロットが乗り込んで飛行できる性能を備えており、無操縦者航空機と呼ばれる。米国の税関・国境取締局がメキシコ国境の警備に使っているほか、欧州連合の海上保安機関が導入しているという

 海保は9億4732万円の予算を計上し、15日~11月10日に三陸沖、小笠原、日本海で計約150時間の飛行試験をする予定だ。発着時以外は海上を飛行し、住宅の上などは飛ばない。機体には赤外線カメラやレーダーがついており、監視性能は「富士山の頂上から地上の車がわかるほど」(海保の担当者)海にいる救助者や船の識別番号を確認できるか、別の飛行機が近づいた時に自動で回避できるかなどを確認する

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▲大型無人機のおもな飛行エリア

◇無人機で広い太平洋カバー、その他を尖閣に集中

 大型無人機の利点は、広範囲を少ない人員で長時間監視できることだ。パイロット1人とオペレーター1人の計2人で運用でき、交代すれば約35時間連続で飛行できる。一方、海保には航続距離の長いジェット機が6機あるが、パイロット2人と整備士、通信士、探索レーダー士の5人が乗り込み、内規で飛行時間は8時間とされている。整備で飛行できないことも多い。

 導入を検討する背景に、外国船の活動がある。特に尖閣諸島の周辺での中国公船の動きは顕著で、今年に入ってから毎日のように領海外側の接続水域の航行を続け、領海内で日本漁船に接近する事案も起こしている。中国公船の大型化、武装化も進む。

 海保はこれに対応するため、尖閣に近い石垣島と那覇に大型の巡視船計12隻を配備し、尖閣警備の専従体制を整えた。那覇にも3機のジェット機を配備して空からも監視するが、海難、日本海や小笠原諸島周辺での違法操業もあり、ほかの海域に出ることもあった。

 そのため、大型無人機で太平洋側など広い範囲を警戒監視することで「ほかの人員や機材を尖閣警備に集中させられる」(海保関係者)と考えているという

 海上保安庁の奥島高弘長官は21日の会見で「航続時間が長く、昼夜を問わず対応できる。海難救助、災害対応、広大な海域での犯罪取り締まりなど、各種の海上保安業務への対応が期待される」と導入に前向きな姿勢を見せている。

 ジェネラル社でアジア太平洋地区を担当するケネス・ラビング氏は取材に「飛行試験は順調だ。(遠隔操縦の大型無人機で)計650万時間の飛行実績があるが、死亡事故は1件もない。機能はもちろん、海保には無人機の安全性も見てもらいたい」と話した。(贄川俊)