(朝日新聞 2020/10/30)

 大阪市を廃止し、四つの特別区に再編する都構想。間近に迫った住民投票は、大阪市以外の自治体にもかかわる見過ごせない課題を投げかけている

 長年日本に住みながら日本国籍を持たない外国人が投票できない問題だ。納税などの義務を果たし、日本人と同じように暮らす人々が、地域の課題について意思表示できないのは不合理である。定住外国人に地方選挙権を認めようという動きはここ10年停滞しているが、これを機に実現をめざすべきだ

 都構想の住民投票の根拠となる大都市地域特別区設置法は、投票権について、公職選挙法を準用すると定めている。その公選法は、有権者を「日本国民」に限っている。

 このため、在日コリアンら外国籍のまま大阪市で暮らす人は参加できない。なぜ地域の今後を決める重要な投票の権利がないのかという疑問や不満、無念の声が相次いでいる

 大都市法が8年前に議員立法で成立した際は、こうした問題は意識されていなかったという。市民団体などが、先の通常国会に法改正を求める請願を出したが、ほとんど議論されなかった。大都市法の改正にとどまらず、問題の根本にある公選法の見直しが不可欠である。

 定住外国人の参政権は、外交や国防が絡む国政選挙とは切り離し、地方選挙を対象に1990年代から活発に議論され始めた。93年に大阪府岸和田市議会が付与を求める決議をした後、同様の動きが各地の自治体で続いた。95年には最高裁が、在日韓国人の請求を退けつつも、「永住者らに地方選挙権を与えることは憲法上、禁止されていない」として、立法政策にゆだねる考えを示している

 国政の場でも、公明党などが何度か法案を国会に出し、90年代末には自民・自由・公明3党の連立政権合意書に付与が明記されたが、自民党内の反対が根強く実現しなかった。2010年に民主党政権が法案提出を断念した後、議論自体が低調なまま今に至っている

 一方、自治体が条例で実施する住民投票では、市町村合併の是非を問うものを中心に、日本国籍のない外国人も参加した事例が200を超えた。政府は労働力不足を背景に、外国人を広く受け入れる政策を進めており、ともに暮らす住民として迎える姿勢が問われている。

 投票したければ日本国籍を取得すればよいとの声も少なくないが、母国の国籍へのこだわりは自然な感情だろう。二重国籍を禁止しつつ地方選挙権も認めない日本は、先進国のなかで特異な存在だ。待ったなしの課題であると認識すべきだ


>納税などの義務を果たし、日本人と同じように暮らす人々

参政権付与の根拠に「納税している」を入れてしまうと、「なら、納税していない者(日本人)は口を出すな」という主張が出てくるでしょうね。

さらに、「外国人は国政選挙権がないので国税は払わなくてもよい」との主張も出てくるでしょうね。


せっかく『納税額』や『公的・私的扶助の受給(今でいう「生活保護」など)』によって選挙権が与えられたり停止されたりした制度が、数十年かけて現在のように納税の多寡や社会的弱者かどうかに関係なく、一定の年齢以上のすべての国民が参加できる制度になったのにね。


【地方(府県・市・町村)】

府県の選挙権は直接国税5円以上、被選挙権は直接国税10円以上。
府県会規則」(明治11年7月22日太政官布告第18号)

第十三条 府県ノ議員タルコトヲ得へキ者ハ満二十五歳以上ノ男子ニシテ其府県内二本籍ヲ定メ満三年以上居住シ其府県内二於テ地租拾円以上ヲ納ムル者二限ル
 第一款 風癲白痴ノ者
 第二款 懲役一年以上実決ノ刑ニ処セラレタル者
 第三款 身代限ノ処分ヲ受ケ負債ノ弁償ヲ終エサル者
 第四款 官吏及教□職

第十四条 議員ヲ選挙スルヲ得へキ者ハ満二十歳以上ノ男子ニシテ其郡内二本籍ヲ定メ其府県内二於テ地租五円以上ヲ納ムル者二限ルへシ
 但前条ノ第一款第二款第三款ニ触ルル者ハ選挙人タルコトヲ得ス


市、町村の選挙権は直接国税年額二円以上
市制」 (明治21年4月25日法律第1号)
町村制」(明治21年4月25日法律第1号)(以下の「市」を「町村」に)

第七条 凡帝国臣民ニシテ公権ヲ有スル独立ノ男子二年以来(一)市ノ住民トナリ(二)其市ノ負担ヲ分任シ及(三)其市内ニ於テ地租ヲ納メ若クハ直接国税年額二円以上ヲ納ムル者ハ其市公民トス
其公費ヲ以テ救助ヲ受ケタル後二年ヲ経サル者ハ此限ニ在ス但場合ニ依リ市会ノ議決ヲ以テ本条ニ定ムル二箇年ノ制限ヲ得面スルコトヲ得
此法律ニ於テ独立ト称スルハ満二十五歳以上ニシテ一戸ヲ構ヘ且治産ノ禁ヲ受ケサル者を云フ

第八条 凡市公民ハ市ノ選挙ニ参与シ市ノ名誉職ニ選挙セラルル権利アリ又其名誉職ヲ担任スルハ市公民ノ義務ナリトス


◆府県は直選制から、市会・市参事会会同及び郡会・郡参事会会同による復選制に。
府県制」(明治23年5月17日法律第35号)

第三条 府県会議員ノ選挙ハ市二在テハ市会及参事会会同シ市長ヲ会長トシ郡二在テハ郡会及郡参事会会同シ郡長ヲ会長トシ左ノ規定二之ヲ行フヘシ但会長ハ投票二加ハヲサルモノトス(下略)

第四条 府県内市町村ノ公民中選挙権ヲ有シ其府県二於テ一年以来直接国税十円以上ヲ納ムル者ハ府県会ノ被選挙権ヲ有ス


◆府県、直選制に戻る。選挙権は直接国税5円→3円以上に、被選挙権は直接国税10円以上と据え置き。
府県制」(明治32年3月16日法律第64号)

第六条 府県内ノ市町村公民ニシテ市町村会議員ノ選挙権ヲ有シ且其ノ府県内二於テ一年以来直接国税年額三円以上ヲ納ムル者ハ府県会議員ノ選挙権ヲ有ス

    府県内ノ市町村公民ニシテ市町村会議員ノ選挙権ヲ有シ且其ノ府県内二於テ一年以来直接国税年額拾円以上ヲ納ムル者ハ府県会議員ノ被選挙権ヲ有ス
(略)


府県、納税額による制限は廃止直接国税納入者には選挙権、被選挙権が付与される。
府県制中改正法律」(大正11年4月19日法律第55号)

第六条第一項及第三項ヲ左ノ如ク改ム
 府県内ノ市町村公民ニシテ一年以来其ノ府県内二於テ直接国税ヲ納ムル者ハ府県会議員ノ選挙権及被選挙権ヲ有ス
(略)


府県・市・町村、制限条項の全面撤廃。ただし生活保護を受ける者などは対象外
府県制中改正法律」(大正15年6月24日法律第73号)

第六条 府県内ノ市町村公民ハ府県会議員ノ被選挙権及選挙権ヲ有ス
(略)
  市町村公民権停止中ノ者ハ選挙権及被選挙権ヲ有セス
(略)


市制中改正法律」(大正15年6月24日法律第74号)
町村制中改正法律」(大正15年6月24日法律第75号)(以下の「市」を「町村」に)

第九条 帝国臣民タル年齢二十五年以上ノ男子ニシテ二年以来市住民タル者ハ其ノ市公民トス但シ左ノ各号ノ一ニ該当スル者ハ此ノ限ニ在ラス
 一 禁治産者及準禁治産者
 二 破産者ニシテ復権ヲ得サル者
 三 貧困ニ因リ生活ノ為公私ノ救助ヲ受ケ又ハ扶助ヲ受クル者
 四 一定ノ住居ヲ有セサル者
 (略 五,六,七は受刑者・前科者に対する規定)


そして戦後、女子にも選挙権・被選挙権付与。