(朝日新聞 2020/09/12)

 日本と韓国の関係が冷え込んで久しい。国際会議や五輪などを除くと、首脳が単独で相手国を訪ねることは、第2次安倍政権下では一度もなかった。

 ともに民主主義を尊び、自由貿易を志向し、北朝鮮問題の悩みを共有する隣国である。この異常な事態をどう正していくのか。次の政権が外交で着手すべき最優先課題の一つだ。

 懸案は歴史問題である。この8年を振り返れば、韓国側に時にかたくなな態度や、時に対応の鈍さがあったのは確かだ

 しかし日本側も、安倍首相の対韓外交に大きな問題があった。加害者としての歴史に対する謙虚さを欠いた姿勢である。その修正なしに関係の立て直しを図ることは難しい。

 日本の歴代政権は、植民地支配という不幸な過去への反省をふまえ、諸問題に接してきた。一定の配慮を忘れぬ対応が外交的資産となり、経済や安全保障の協力を進めてきた

 その決意を表したのが、戦後50年の「村山談話」や同60年の「小泉談話」などである。

 安倍氏は両談話を「全体として引き継ぐ」としたが、自身が出した戦後70年談話では、今後の世代が謝罪を続けるべきではないとの趣旨も明記した

 自らの主体的な歴史認識の表明は避けつつ、一方的に清算の区切りをつけようとする態度が、かつての被支配国から反感をかったのは無理もない。

 直近の関係のこじれは、徴用工問題をめぐる韓国側の動きに起因するものだ。だが、それを経済にまで広げたのが、日本政府による輸出規制の強化である。結果として日韓の企業に多大な損失を負わせた。

 一貫性ある対話の積み上げを怠ったという点では、北朝鮮政策も同様だ。圧力一辺倒の方針を、米朝が接近すると対話志向に一変させた。拉致問題を含めて成果は何も出せなかった。

 朝鮮半島をめぐる安倍外交の負債を引き継ぐ次の政権は、韓国との正常な対話の再開から始めねばなるまい。

 韓国政界では、新政権とは良好な関係を築くべきだとの機運が広がりつつある。まずは喫緊の課題である徴用工問題をどう解決するかが、文在寅(ムンジェイン)政権と日本側との共同作業になろう。

 日本は時間をおかず、輸出規制の強化を撤回すべきだ。文政権は、元徴用工らへの補償問題について能動的に行動する必要がある

 今改めて思い起こすべきは、小渕恵三首相と金大中(キムデジュン)大統領が交わした「21世紀に向けた新たな日韓パートナーシップ」である。次世代の両国民とアジアの安定のためにも、健全な首脳往来を復活させねばならない。


>韓国側に時にかたくなな態度や、時に対応の鈍さがあったのは確かだ。
>直近の関係のこじれは、徴用工問題をめぐる韓国側の動きに起因するものだ。

ずいぶん“やわらかな表現”ですが、朝日ですら韓国の行動に問題があると触れざるを得ないようですね(そこからの話の展開はともかく)。


>今改めて思い起こすべきは、小渕恵三首相と金大中(キムデジュン)大統領が交わした「21世紀に向けた新たな日韓パートナーシップ」である。

10月8日
 ・日韓共同宣言 21世紀に向けた新たな日韓パートナーシップ
 ・金大中大統領が国会演説

当時から安倍首相は一貫していますね。

発言録 金大統領の国会演説を聞いて
(朝日新聞 1998/10/09)

自民・安倍信三

 試練を乗り越えてきた政治家の言葉として重みがあったし、全体のトーンも未来志向だった。しかし、歴史認識の問題に関連して、四百年も前の豊臣秀吉の朝鮮出兵にまで触れたのには驚いた。それでは、元寇で先兵になったのはだれなのかという議論になる。

 国としての反省、清算は日韓基本条約で終了した。二つの国が全く同じ歴史認識を持つことは不可能に近い。それを強いると、日本に言論統制を求めることになるし、「嫌韓」感情が高まるおそれがある。

 大統領が求めた在日韓国人への参政権付与にも疑問を感じる。韓国人だけに認めるわけにもいかないし、これは相互主義で解決すべきだ。

 もっとも大統領は政治家でもあり、韓国世論との兼ね合いもある。むしろ、日本政府の態度が問題だ。条約で終わったものを共同宣言という文書で謝罪すれば、次の大統領でまた繰り返される可能性がある。どこかの時点で、過去には今後一切触れないという決断を日本の首相がすべきだ

 大統領の権力基盤は極めて強く、歴史認識問題に区切りをつけるチャンスだったが、まだ時間がかかりそうだ

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