(日本経済新聞 2020/09/04)

検証・尖閣沖衝突10年()「防衛へ米からより強い約束を」

沖縄県尖閣諸島沖で2010年に起きた中国漁船と海上保安庁巡視船の衝突事件は、米国が尖閣防衛への日米安全保障条約の適用を明言する契機となった。軍備拡大を続ける中国に対抗するには米国からより明確な言質を取る必要がある。

10年9月22日、当時の前原誠司外相は米ニューヨークでキャンベル米国務次官補と話し込んだ。一部は通訳のみが立ち会う事実上の一対一の会談だった。翌日のクリントン国務長官との会談で、米側から尖閣への関与を引き出すための交渉である

狙いは日本防衛の義務を定めた日米安保条約5条が尖閣に適用されると明言してもらうこと。それまでの米高官は「安保条約は日本の施政下にある領域に適用される。尖閣諸島は日本の施政下にある」との間接的な表現を使ってきた

「尖閣への適用を明確に示してほしい」。衝突事故の経緯を説明して協力を求めるとキャンベル氏は「わかった」と受け入れたうえで付け加えた。「ただし、米国はこれ以上の事態の悪化は望んでいない」

「仙谷由人官房長官が事態収拾に動いている」と状況を伝えると米側の方針は固まった。翌23日、クリントン氏は前原氏との会談で「尖閣は明らかに日米安保条約が適用される」と表明した。米国の対応が一歩深まった瞬間だった。

米国にも衝突事件を巡る中国の強硬姿勢は想定外だった。特に日本向けレアアース輸出を滞らせるなど経済分野に波及させたことに米国防総省幹部は驚きを隠さず「中国を巡る今後の展開を明確に示すものだった」と日本側に伝えた。

衝突事件の後、米国務省内でも尖閣への関与を強めるべきだとの意見は出た。米側が将来の首相候補として重視していた前原氏から直接の訴えがあったことが流れを後押しした。最終判断したのはクリントン氏だったという。

日本はこの10年間、米国に尖閣防衛への関与を強めるよう求めてきた。14年に来日したオバマ米大統領は安保条約5条が「尖閣諸島を含む日本の施政下にある領土全てに適用される」と明言した

米大統領として初めての表明で、トランプ政権にも引き継がれた。尖閣に手を出せば米軍も共同対処するとの保証を得る戦略は徐々に前進している。

もっとも米国も軍事衝突は望んでいない。日中の争いに巻き込まれたくないとの思いは強い。中国が漁船衝突は日本側が仕掛けたとの論陣を張ったのは、日本に非があると強調して米国に介入をためらわせるためだったとの見方もある。

前原氏は「まず日本が自国で守る体制を固めながら、米国から尖閣防衛のより強い約束を取り付けることが重要だ」と語る。

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