(朝鮮日報 2020/07/04)

安全保障ライン入れ替え
北朝鮮通を全面配置…なぜ?
  
 韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は3日、国家情報院(韓国の情報機関。国情院)トップと青瓦台(韓国大統領府)の国家安保室長、統一部(省に相当。以下同じ)長官を交代させる安全保障ライン改編を通して、残る任期中、対北融和政策に全てをつぎ込もうという勝負手を打った

 国情院長に内定した朴智元(パク・チウォン)氏と徐薫(ソ・フン)安保室長は、金大中(キム・デジュン)政権時代から南北首脳会談など対北接触を主導してきた代表的な「北朝鮮ライン」。朴氏は現政権で初となる野党出身者の起用で、北朝鮮問題に対する切迫した状況を傍証するものだ。統一相に内定した李仁栄(イ・インヨン)議員は全大協(全国大学生代表者協議会)議長時代から統一運動を行ってきた人物で、南北協力に向けた意思は強い。北朝鮮は開城工業団地の南北連絡事務所爆破と軍事的な脅しを通して板門店宣言を事実上破棄したが、文大統領は北朝鮮と交渉してきた経験者や対北融和論者などを前面に立たせた。一部からは、今回の人事を通して「自主派」を前面を立たせ、韓米同盟を重視する「同盟派」は排除したのではないかという指摘が出ている。

 文大統領は最近、「南北関係の成果を後回しにはできないというのが私の確固たる意志」として、既存の政策にこだわる意思を明らかにした。青瓦台や与党内部からも、これまで「あまりにも米国の顔色をうかがい、南北関係でスピードを出せなかった」と批判が出ていた。こうした与党内の批判が今回の人事に反映されたものと解釈されている。文大統領は年頭から「南北関係でスピードを出したい」と語っていた。先月には李度勲(イ・ドフン)韓半島平和交渉本部長を米国に送り、米朝首脳会談と南北首脳会談を同時に推進する構想を米国に伝えたといわれている。

 しかし北朝鮮が、今回の人事の後、すぐさま文大統領との対話に出てくるかどうかは未知数だ。北朝鮮は最近、鄭義溶(チョン・ウィヨン)安保室長と徐薫・国情院長を対北特使とする文大統領の提案を拒絶したという事実を公にした。さらに、国情院長に内定した朴智元氏について、北朝鮮は昨年8月に「自分が6・15時代の象徴的な人物にでもなっているかのごとく生意気に自称している」、「汚い舌でやみくもに騒ぎ立て、悪臭を漂わせた」と露骨に非難している。朴氏が北朝鮮のミサイル発射を巡って「最低限の度量からも外れるものとして糾弾せざるを得ない」と批判したことへの対応だった。しかし先代との縁を重視する北朝鮮の特性上、朴智元氏が金正日(キム・ジョンイル)総書記時代に北朝鮮問題へ関与していた点を評価するだろうという見方もある。

 今回の人事で米国および北朝鮮核問題の専門家らが排除されることにより、韓米関係の悪化を懸念する声も強まっている。これまで米国との関係は鄭義溶・安保室長が主導してきた。鄭室長の後任となる徐薫室長は、国情院長時代にマイク・ポンペオ国務長官と呼吸を合わせてきた。しかしオーソドックスな外交部の官僚ではなく対北朝鮮および情報の専門家であるため、韓米同盟の悪化を懸念する視線もある。

 一方、文大統領は今回の安全保障ライン入れ替え人事で、外交部の康京和(カン・ギョンファ)長官と国防部の鄭景斗(チョン・ギョンドゥ)長官は交代させなかった。青瓦台関係者は「外部の批判とは異なり、康長官に対する文大統領の信任は格別」と語ったが、後続の人事で交代となる可能性もある。北朝鮮の金英哲(キム・ヨンチョル)労働党副委員長は先月、鄭景斗国防相のことを「軽薄で愚昧」と非難した。与党関係者は「鄭長官も交代すべき時期になった」と語った。鄭佑相(チョン・ウサン)記者


(朝鮮日報 2020/07/04)

 韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は3日、国家情報院(韓国の情報機関。国情院)トップに朴智元(パク・チウォン)元「民生党」議員を内定した。青瓦台(韓国大統領府)安保室長には徐薫(ソ・フン)国情院長、統一部(省に相当)長官には李仁栄(イ・インヨン)議員、外交・安保特補にはイム・ジョンソク元秘書室長と鄭義溶(チョン・ウィヨン)安保室長をそれぞれ内定した。北朝鮮の核の廃棄より、ほとんど無条件の対北融和策を主張してきた人物で塗りつぶされている

 国情院長に内定した朴智元氏は2000年、金大中(キム・デジュン)大統領の密使として北朝鮮側と初の南北首脳会談開催に合意し、その首脳会談を実現させるため金正日(キム・ジョンイル)に4億5000万ドル(約484億円)の裏金を渡す役割を担った。その支援で、金正日は「苦難の行軍」の危機を乗り越えて核開発に拍車をかけ、6年後には最初の核実験に成功した。朴氏は盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権時代に特別検察官の捜査対象になり、収監された。

 国情院は、北朝鮮を含むあらゆる外部の脅威から韓国を守るための存在する安全保障の第一線機関だ。韓国軍は戦時に戦う機関だが、国情院は平時にも戦わなければならない機関だ。いつからか韓国の大統領は、国情院を「国の安全に責任を負う情報機関」ではなく、「自分のアジェンダを遂行する密使」とみなしている。情報業務は決してたやすいものではない。誰にやらせてもいいポストではあり得ない。北朝鮮はもちろん、海外・サイバー・対テロ関連であふれ出て来る情報の中から、韓国の安全保障を脅かす情報を読み取れる経験と識見を持っていなければならない。数十年にわたって国内政治にのみ没頭してきた朴内定者に、金正日と接触した経験のほかにいかなる情報専門性があるのか、理解できない

 しかも国情院は、韓国の弱点である先端装備を持った米国・日本との情報交流に依存してきた。こうした友邦諸国が、北朝鮮を巡る朴氏の立場や態度をどういう視角から見るか、疑問がある。これらの国々がデリケートな対北情報を国情院とどれだけ共有しようとするか、心配だ

 国情院は、板門店首脳会談の1カ月前に金正恩(キム・ジョンウン)が特別列車で訪中したにもかかわらず、これをきちんと把握できなかった。ハノイでトランプが偽りの非核化の場を蹴って出て来るまで、ホワイトハウスの動きも分かっていなかった。現政権になって、北朝鮮のスパイが捕まったという話もほとんど聞かない。逆に、北が新型ICBM(大陸間弾道ミサイル)を撃った日、スパイの捜査はよそに渡すという「改革案」を発表した。

 北朝鮮の核をなくそうと思うなら、北の集団とも交渉しなければならない。しかし北は、南北首脳会談を開いた直後に韓国の警備艇を奇襲して将兵を殺す集団だ。交渉の渦中にあっても、誰かが監視の目をを光らせておかなければならない。その仕事ができるのは国情院だけだ。なのに国情院長が情報機関のトップではなく対北密使だったら、安全保障は誰が守るのか