(読売新聞 2020/01/14)

 政府が、日本領海内で民間の経済活動として行われる海洋調査から中国系の調査船を事実上、排除する方針を決めたことが分かった。中国系の調査船が領海内を調査しようとする事案が昨年、相次いだことから、海底地形などの情報が中国に軍事利用されるリスクを避ける必要があると判断した。

◇政府、強制退去も

 政府はすでに体制を整え、運用を始めている。こうした海洋調査対策を、年内に策定する経済安全保障に関する国家戦略に盛り込み、官民一体で取り組む考えだ。

 具体的には、洋上風力発電施設の建設や海底ケーブル敷設を目的として海洋調査を行う事業者に対し、日本の領海(陸地沿岸から12カイリ=約22キロ・メートルまでの海域)内で活動する調査船の所有者やデータ管理の方法などを事前に申告するよう要請する

 申告内容は、杉田和博官房副長官をトップとする「海洋安全保障連絡会議」を通じて国家安全保障局や警察庁、公安調査庁などが共有し、安全保障の観点からチェックする

 安全保障上の懸念がある場合は、調査の事業者に調査体制の見直しを要請する。事業者が応じず、調査船が領海内で徘徊はいかいや不規則な動きをした場合は、こうした行動を禁止する「外国船舶航行法」を適用し、海上保安庁が強制退去させる

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 対策を強化するのは、中国系調査船による領海内調査の動きが昨年、3件確認され、調査結果が中国の政府機関などを通じて軍事利用されるリスクが浮上したためだ。

 複数の日本政府関係者によると、政府が昨年確認したのは、洋上風力発電施設の建設を目的とした海底調査2件と、海底ケーブル敷設に関する海洋調査1件

 このうち、4月にあった秋田沖での海底調査のケースでは、中国の海洋地質調査局に所属する海洋調査船が日本の事業会社から委託を受けていた。残りの2件は、香港に拠点を置く民間企業が伊豆沖と鹿児島沖の2か所での調査の委託を受ける予定だった。政府は入港連絡などを機に事案を把握し、安全保障の観点で懸念があるとして協力を要請した結果、事業者側はいずれも調査の中止に応じた

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 海底地形や海水温などの情報があれば、潜水艦などの隠密行動が容易になる。海底ケーブルが細工されれば、機密情報が盗まれる懸念もある。経済活動を目的とする場合、手続きを踏めば外国船でも領海内で海洋調査が可能で、抜け穴になっていたことから、政府は一連の事案後、海洋安全保障連絡会議を設置した

 政府関係者は「安全保障上の懸念があるので『ゼロリスク』で対処していくことにした」と話している。


(読売新聞 2020/01/14)

 中国政府や中国系企業の海洋調査船が日本領海内を調査しようとした事案では、安全保障に対する経済官庁の意識の低さや法制上の問題点が露呈した。政府の対応を検証した。

◇自衛隊の近くで

 昨年4月、海上保安庁からの連絡に首相官邸や国家安全保障局の幹部たちは耳を疑った。新潟港に中国の海洋地質調査局の海洋調査船「海洋地質十号」が入港しており、その目的が秋田沖の洋上風力発電事業に必要な海底地形などのデータ収集だったためだ。日本の事業会社が外資系の調査会社に調査を委託し、海洋地質十号が請け負っていた。

 正規の経済活動とはいえ、中国公船が日本領海の海底を調査すれば、海底地形など軍事行動に有益な機微な情報が中国軍などに伝わる懸念があった。しかも、調査予定の海域は地上配備型迎撃システム「イージスアショア」の配備が検討されていた秋田市の自衛隊施設の「目の前」だった

 だが、こうした問題点を洋上風力発電を所管する資源エネルギー庁などが十分把握しないまま、調査の計画が進んでいた。安全保障を担当する国家安全保障局や外務、防衛両省などと事前に情報が共有されることはなかった。

 安全保障上のリスクを懸念した首相官邸の指示を受け、エネ庁などが事業会社に連絡し、海底調査の体制見直しを促した「法的根拠に基づかない要請」(政府関係者)だったが、事業者は受け入れ、海洋調査船は調査を行う寸前で引き返した。首相官邸幹部は「経済官庁は安全保障に対する意識が低すぎる」と嘆く。

◇企業連合 締め出し困難

 洋上風力発電は新エネルギー源として注目を集めており、今後、日本近海で開発の進展が見込まれている。だが、昨年4月に施行された洋上風力発電利用促進法には、事業実施にあたって安全保障の観点からの規制は存在しない。事業実施に向けたものであれば、外国船舶は領海内で科学的な海洋調査ができるのが実情だ

 政府は事前の情報共有を徹底し、安全保障の面で懸念の残る調査については事業者に中止を働きかけ、中国系船舶を領海内の海洋調査から事実上、排除する方針だ。エネ庁と国土交通省は昨年4月と6月、洋上風力発電の海洋調査を行う事業者に対し、調査船の所有者やデータ管理の方法、体制について事前に申告するよう求めた。このほか、安全保障上の問題への配慮も促している。

 しかし、中国の影響を受ける日本企業が調査をする場合や、中国企業と欧州企業などが企業連合を組んでいるケースなどは締め出すのが難しく、対応の限界も指摘されている

 政府高官は「外国が関係する領海内の海洋調査を規制するには、法改正や新法制定を検討する必要がある」と話す。国家安全保障局は経済安全保障に関する国家戦略の策定にあたり、海洋調査についても法制面を含めた実効性のある対策を検討し、経済官庁を巻き込んで政府内の連携を強化したい考えだ。


首相や政権が代わるたびに運用レベルが変わることがないよう、早急に法を制定してほしいですね。