[スキャナー]日中首脳会談 習氏国賓へ注文次々
(読売新聞 2019/12/24)

〇尖閣・香港 首相、善処促す

 安倍首相は23日、約1年ぶりの訪中で、習近平(シージンピン)国家主席と「日中新時代」の実現を目指すことを確認した。首相は来年4月の習氏の国賓来日の成功に向け、沖縄県・尖閣諸島周辺での領海侵入事案や香港情勢などの懸案に前向きに対処するよう注文を付けた。(政治部 池田慶太=北京で、中国総局 比嘉清太)

◇中国側 改善明言せず

■日本国内に反発

 「現在、中日関係は重要な発展のチャンスを迎えている。首相と緊密な意思疎通を維持していきたい」

 会談冒頭、両氏が笑顔で握手を交わして記念撮影に応じた後、習氏はこう切り出し、首相を歓迎した。

 これに対し、首相は習氏をまっすぐ見つめて、「日中新時代にふさわしい日中関係を築き上げていくために協力して、準備を進めていきたい」と力を込めた。

 首相は、日中韓首脳会談が開催される中国・四川省成都の訪問前、北京に立ち寄り、習氏との個別会談に臨んだ。会談は夕食会も含め、約2時間に及んだ

 ただ、会談では、日中間の懸案を巡って厳しいやり取りが続いた。首相は「東シナ海の安定なくして真の日中関係の改善はない」との考えを伝え、尖閣周辺での中国公船の領海侵入や接続水域への進入をめぐり、自制を強く求めた。市民による抗議デモと警察の衝突が続く香港情勢についても「国際社会も関心をもって注視している」と言及し、冷静な対応を求めた

 昨年10月の首相の訪中などで、両国政府は「日中関係は完全に正常な軌道に戻った」と強調してきた。両首脳は「新時代」の日中関係構築を目指しているが、懸案で成果が出る兆しはなく、日本国内では習氏国賓来日への反発につながっている

■懸案なお積み残し

 首相が会談で直接、習氏に尖閣や香港問題などで冷静な対応を求めたのは、国賓来日に向けた環境整備の努力を中国側に求める意味合いがあった

 習氏は、香港情勢については「中国の内政問題だ」との立場を譲らなかったが、尖閣をめぐっては、「東シナ海を平和、協力、友好の海とすべく、防衛当局間の交流促進なども含め、問題に取り組んでいきたい」と述べた。日本国内の反発を踏まえ、強気の姿勢を控えた可能性がある

 尖閣周辺の接続水域で確認された中国公船は、今年1月から今月23日までで延べ1077隻で、過去最高を記録した。領海侵入も同日までに延べ122隻で、昨年1年間の70隻を大幅に上回っている。

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 中国国内では日本人拘束事案も相次いでいる。今年9月、北海道大学の岩谷将教授が中国の政府系調査研究機関の招待で訪中した際、スパイ容疑で一時拘束された問題は、学術・文化交流にも大きな影を落としている。2015年以降、拘束された日本人は少なくとも15人で、そのうち、9人が実刑判決を受けた。

■中国に責任

 08年5月の胡錦濤(フージンタオ)国家主席(当時)の国賓来日時、日中両政府は「戦略的互恵関係」の推進を確認した。戦略的互恵関係は、首相が第1次内閣のときに胡氏と合意していたもので、相互理解を深め、互いに脅威とならず、平和的な発展を支持し合うという内容だ。

 だが近年、中国に対する脅威認識は増す一方だ。内閣府の世論調査では、対中関係は「良好とは思わない」が約76%に上る。日本政府内には、「日中関係は、首相が訪中した昨年10月がピークで、すでに下り坂に入っている」との声すらある

 首相は習氏を国賓で招く理由について、「日中両国はアジアや世界の平和」安定にともに大きな責任を有している」と説明しているが、来日が成功するかは、中国が責任を自覚できるかどうかにかかっている。


◆習氏「未来志向」連発 米との対決 長期化備え

 中国の習近平国家主席は、日中首脳会談の冒頭、「新しい時代」「新たな未来」「新たな段階」と、未来志向を印象付ける言葉を連発した。

 習氏は自らの指導思想のキーワードに「新時代」という言葉を掲げている。中国外交筋は、習氏が来年4月に国賓として訪日した際、政治文書を作成する場合に、「新時代」を盛り込む可能性を示唆している。令和の時代を迎えた日本にも受け入れやすく、関係改善の流れを確かなものにできると踏んでいるからだ。

 背景には、米国との貿易協議で双方が「第1段階」と呼ぶ部分合意は成立したものの、対立の長期化は避けられない事情がある。さらに、習政権としては、日本など周辺国を経済面で取り込む狙いもある。中国の鐘山(ジョンシャン)商務相は22日、北京で開かれた日中韓経済貿易相会合で、「3か国で保護貿易主義に反対すべきだ」と自国第一主義を強める米国をけん制し、3か国での自由貿易協定(FTA)締結を急ぐ姿勢を見せた。

 一方、中国は、香港や新疆ウイグル自治区の問題は、主権に直結すると捉えている。習氏は20日のマカオ返還20年の記念行事で、香港について「外部勢力の干渉を許さない」と述べたばかりだ。

 尖閣諸島をめぐる領有権の主張についても、中国国内で弱腰批判が噴出することを避けるため、公船の派遣は続ける構えだ。中国政府筋は「日本は(領海侵入に)慣れるベきだ」とまで語る

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『新天皇が迎えるアメリカに次ぐ国賓』という待遇は、習主席にとっては面子的に訪日しやすい状況なだけに、今のところ「この機会に日本に行っておこう」という気があるのでしょうね。