(朝日新聞 2019/12/14)

 数カ月ぶりに戻った故郷の風景は、様変わりしていた。観光客でにぎわったカフェや食堂は閑古鳥が鳴き、耳慣れた韓国語は聞こえない。ソウル女子大に留学中の上野すだちさん(21)は9月、父母らが暮らす長崎県の離島、対馬に帰省し、「日韓関係の悪化を初めて肌身に感じた」

 釜山から約50キロ、高速船で1時間強の対馬は韓国の人々にとって最も近い外国。昨年は人口約3万人の島に約41万人の韓国人観光客が訪れた。だが、7月に日本政府が対韓輸出手続きを厳格化すると、島を訪れる韓国人は昨年の10分の1まで減った。

 韓国政府が日本の大衆文化の開放に踏み切った1998年に生まれ、物心ついたときから韓国は身近な存在だった。小学生のとき、韓国人観光客とすれ違うたびに同級生と「アンニョンハセヨ」と声をかけた

 食品卸業を営む実家の得意先は、韓国人向けのホテルや食堂。自宅の食卓にはキムチやビビンバが並んだ。東京の大学に進んで韓国語を本格的に学んだのも自然な流れだった。「そんな当たり前が、政治によって消えたことに驚いた」

 ニュースでは知り得なかった発見もあった。島の人々は韓国人観光客の激減について誰を憎むということもなく、冷静に受け止めていた。むしろ「あの人たちはもっと大変だ」と、対馬に移住して民宿を営む韓国人を気遣っていた。そして、朝鮮半島が日本の植民地だった時代に、祖母の家族が釜山を拠点に商売をしていたと初めて知った。「遠くにあると思っていた歴史問題は、私にもつながっていた」

 今年2月からソウルで、同世代の韓国人学生とルームシェアして暮らす。歌手でモデルの土屋アンナさんのファンという彼女は、自分が知らない日本の曲を知っていた。

 韓国でも人気の漫画「スラムダンク」の話をしているときは、国籍の違いを忘れた。そんな友情は、韓国で日本製品不買運動が展開されても全く変わらなかった。それどころか、多くの韓国人から「関係が悪くなって、不便はないですか」と気遣われた

 「日韓関係の悪化で、二つの国のいいところも悪いところも見えた気がする」。留学生活は来年2月で終え、就職活動を始める。「韓国に最も近い島出身の留学生」としての経験をどう生かすか、考え始めている。(武田肇)

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