[日韓の現場]宣伝戦<2>「旭日旗に似ている」炎上
(読売新聞 2019/12/04)

 韓国の20代の男子大学生がフェイスブックに投稿したメッセージが、大きな反響を呼んでいる。

 「ポーランドで日本の軍国主義を象徴する旗を包装に使った飲料水を見かけました。あり得ない。(ナチス・ドイツ国旗の)ハーケンクロイツ(カギ十字)を使った飲料水が売られたら、どんな気分ですか?」

 投稿は9月5日にポーランド語と韓国語で書かれた。ポーランド滞在中、日本の旭日旗に似たデザインのペットボトル飲料を発見したとして、製造元への抗議を呼びかけたものだ。700件超の反響の書き込みを集めた。

 日本の外務省は9月10日に現地のラジオで、製造元が抗議を受けたことを知り、直ちに関係先に日本の立場を説明した。だが、韓国メディアによると、製造元はその後、販売中止の方針を明らかにしたという

 韓国では旭日旗を軍国主義の象徴の「戦犯旗」だと表現し、批判する風潮が広がっている。ナチスのカギ十字と同一視する向きさえある。旭日旗をデザイン化したTシャツや日本製缶ビールの朝日の模様、赤白の縞模様の服を着たタレント――。旭日旗を連想させるものがSNSに投稿され「炎上」し、販売元などが対応に追われる事例は枚挙にいとまがない

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◇批判「草の根」ネット拡散 韓国政府も後押し

〇販売中止

 豪州では、韓国系住民の抗議によって旭日旗のようなデザインのTシャツが、販売中止に追い込まれた

 Tシャツを販売していたのは、豪州全土に店舗を展開する量販店「ビッグW」。豪州のSBS放送などは9月、韓国系住民の要求を受け、旭日旗をあしらったTシャツの販売を全店で中止したと報じた。報道によると、この住民はシドニーの店舗を訪れて「旭日旗は日本の軍国主義の象徴だ」と述べ、ナチス・ドイツの国旗ハーケンクロイツ(カギ十字)のようなものだと主張したという。住民が自身のフェイスブックに経緯を投稿すると、ネットユーザーから「愛国者」「誇らしい」などといった韓国語での称賛の書き込みが相次いだ

 一方、形が放射状だというだけで、意外なものもやり玉に挙げられた

 朝鮮戦争で国連軍に参加した各国をたたえるため、1975年に釜山に建てられた国連参戦記念塔だ。地元与党幹部らが今年8月、上空から見た形が旭日旗に似ているとして、デザイン決定の経緯究明を訴えた。地元には慎重論もあり、現在は沈静化している。

〇若者

 旭日旗排除運動の中心人物の一人、韓国・誠信女子大の徐坰徳(ソギヨンドク)教授の下には連日、世界各地の韓国人留学生や韓国系住民からSNSを通じて「旭日旗に似たもの」の情報が寄せられる。徐氏は情報を基に企業への抗議などを行っている。

 日韓の専門家の間では、ネット上の現象は市民団体などの組織力によるものだけでなく、個人の「参加意識」の高まりによる草の根の運動だとの見方が多い。徐氏は本紙の取材に、「どこにいても携帯電話の写真一つで問題提起できるネットユーザーが、大きな役割を担っている」と胸を張る。旭日旗への反感が韓国内で大きくなったのは、2010年代に入ってからで、SNSの普及時期と重なる

 また、反日意識の高まりの背景には、植民地支配に協力した「親日派」の財産没収を進めるなど、歴史問題を政治争点化した左派の盧武鉉(ノムヒョン)政権(03~08年)の影響があるとみられる。この時期に近現代史の教育を受けた若者の一部が「反日感情」を強め、旭日旗という新たな日本批判の象徴に飛びついた側面がありそうだ

〇世論支えに

 韓国政府は、ネット上の動きを後押ししている

 ネットユーザー約15万人を会員に抱え、旭日旗や竹島(韓国名・独島)に関する韓国の主張を喧伝する民間団体「VANK」は、教育省傘下の東北アジア歴史財団の財政支援を少なくとも17~19年に受けている。13年2月には、当時の李明博(イミョンバク)大統領が団長を表彰した

 韓国政府や国会は、ネット上で増幅された「反旭日旗」世論に支えられる形で、東京五輪・パラリンピックでの旭日旗使用禁止を国際オリンピック委員会(IOC)などに求めている

 日本政府は旭日旗についての外国語の説明資料を作り、各国に理解を呼びかけている。IOCは現段階で静観の構えだが、もし禁止される事態になれば、「戦犯旗」だとの主張を勢いづかせることになりかねない

◇旭日旗古くから

 旭日旗は、日本国旗の日章旗(日の丸の旗)と同様に太陽をかたどった旗のことだ。太陽から放射状に広がる光が特徴になっている。

 日本が軍国主義に傾く以前の1870年から軍旗として使われ、国際的にも認知されている。自衛隊でも引き継がれ、陸上自衛隊の「自衛隊旗(連隊旗)」と海上自衛隊の「自衛艦旗」として使われている。同様のデザインは一般社会でも大漁旗や社旗などに古くから使われている。日本政府は、旭日旗のデザインは国内で広く親しまれており政治的主張や軍国主義の象徴だという指摘は当たらないとしている。

 一方、ナチス・ドイツのカギ十字は元はナチス党の党旗で、ユダヤ人虐殺につながる人種差別思想が込められていた。旭日旗とカギ十字は本質的に異なる。