(統一日報 2019/11/20)

○慰安婦の人権は重要、脱北者の命は無価値か

文在寅政権が脱北漁師2人を北へ追放(7日)した事件は、金正恩と内通してきた彼らの本性を証明した。文政権は、昨年の平昌冬季オリンピックを契機に、朝鮮労働党と党対党の関係を公式化。文政権は、北韓産石炭密輸や北側に精製油の提供など、対北制裁を悪質に違反してきた。文政権は昨年末、韓国の駆逐艦が海上自衛隊哨戒機を脅した事件でも脱北者を北韓へ送還した疑いが浮上した。

◇人権規範を蹂躙する行為は共産全体主義も同然

文政権が、韓国に亡命した北のイカ漁船の脱北者2人を殺人罪を犯したとの理由で、帰順5日後に北側に秘密裏に追放した事件が国内外から大きな非難を呼んでいる。国連など国際社会は文政権を「反人権政府」と糾弾している。

脱北漁師2人は、中央合同調査本部で自筆で「大韓民国に帰順する」という書類まで作成したという。国家情報院と統一部が強制追放措置に同意しなかったのに、青瓦台が追放を決定した。2人が抵抗できないように捕縛し目隠しまでして、警察特攻隊が板門店まで護送した。これまで慣例である赤十字を通さず、北韓軍に引き渡した

今回の事件は、偶然に発覚した。板門店共同警備区域の大隊長が、金有根国家安保室1次長に、現場の状況を携帯電話で報告した文字が、国会で取材中の写真記者に捕捉されたのだ。国会は、強制送還の中止を要求したが、文政権は追放を強行した。75年以上前の日本軍慰安婦の人権は強調しながら、脱北者を死刑場に送った残酷さに戦慄を禁じえない。

今回の事件は昨年12月20日、韓日関係を極度に悪化させた、韓国海軍の駆逐艦が海上自衛隊哨戒機へレーダー照射をした事件のきっかけとなった北韓人の遭難救助件を想起させる。そのときも文政権は、救出した遭難者をすぐ北側に送還した。

文政権の行動は、韓国国内法と国際法違反だ。国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)と国連北韓人権特別報告官が直ちに調査に着手した。OHCHRは14日、韓国は「拷問及びその他の残虐な非人道的または屈辱的待遇や処罰の防止に関する条約」などの締約国と指摘した。アムネスティも14日、声明で、この事件を国際人権規範の違反として強く非難した

このような状況で文政権は、国連総会の第3委員会が14日通過させた北韓人権決議案でも、EUなど61カ国の共同提案国に参加しなかった。北韓を訪問中に抑留され拷問を受けて帰国した後に死亡した米国の青年オート・ワムビアの親が22日に訪韓、文在寅面談を申請したが青瓦台はこれを拒否。トランプ大統領は、今年だけで脱北者と7回も会ったという。

文在寅は、2007年11月に国連総会の北韓人権決議案に対し盧武鉉政権が平壌に伺いをたて結局、棄権したときや、08年2月8日、西海で漂流中の子供を含む北韓住民22人を発見した13時間後に全員北送し、その後皆処刑された事件当時も盧武鉉の秘書室長だった


(産経新聞 2019/11/19)

黒田勝弘(ソウル駐在客員論説委員)

 韓国では文在寅(ムンジェイン)政権になってから北朝鮮がらみの不透明な出来事が多い。とくに直近の北朝鮮漁船員送還事件(7日)はミステリーに近い。東海岸沖で越境してきた北の木造漁船を拿捕(だほ)したところ、2人が乗っていて、他の乗組員16人を殺害して逃げてきたと語ったため、政府はろくに真相調査もせず、すぐ北に送り返したというのだ

 「犯罪者の脱北・亡命」はどう処理すべきかをめぐって議論が起きているが、北に送還されると処刑は確実なため、「性急な送還」に内外の人権団体から批判の声が上がっている。

 17トンほどの小さな木造船で16人もの大量殺人が起きたというのもナゾで、犯行に加わった3人のうち1人は北に上陸し、残り2人が脱北したというが、そもそも事件が明らかになった経緯が不思議だ。

 国会に出席していた大統領府の国家安保室幹部の携帯電話に入ったメッセージを、取材の報道カメラマンが望遠レンズでキャッチしたのがきっかけ。メッセージは南北軍事境界線の板門店勤務の大隊長(中佐)からで、亡命漁船員の送還に関するものだった。

 ところがこの件は国防相には報告がなく、南北問題担当の統一省も知らされていなかったため、秘密裏に処理されようとしていたのではないか、という疑問が出る結果になった。政府はその後、「犯罪者は亡命者としては受け入れられない」という理由で事務的に処理したと言っているが当初、「亡命ではなく帰国を希望している」といった情報が流されたり、あまりの秘密主義に疑惑が広がっている。

 とくに板門店という最前線の一部隊長が、軍・国防省ルートではなく大統領官邸のスタッフに直通で情報連絡していることが今回、明るみに出た。これは北朝鮮がらみの出来事はすべて、大統領官邸が直接判断し処理しているということを意味する。文政権の北朝鮮に対する〝特別配慮〟をあらためて物語るものとして話題になっている。

 人も船も早々に送り返してしまい、韓国当局は詳細を発表しないため事件の真相は闇の中だが、今回、過去に韓国漁船であった似たような大量殺人事件が引用され、話題になっている。

 1996年、遠洋漁業の船内で、朝鮮族出身の中国人船員6人が韓国人など他の船員11人を殺害した事件で、当時、港街の釜山で弁護士をしていた文在寅氏が、裁判で犯人たちの弁護にあたったというのだ。

 犯人たちは1番で死刑判決を受けたが、裁判で文弁護士は朝鮮族の彼らについて、「同胞として温かく抱いてやるべきだ」と善処を訴えたという(14日付、朝鮮日報コラム)。

 弁護士時代と大統領とは立ち位置が違うとはいえ、洋上での同じような大量殺人事件の同胞を、今回は無慈悲に送還してしまったのはおかしいというわけだ。

 人権弁護士で知られた文在寅氏は人権問題には敏感で熱心なはずなのに、北朝鮮をめぐる出来事となるととたんにその姿勢は揺らぐようだ北朝鮮と仲良くしたい、金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長に良く思われたい、早くソウルを訪問してほしい―といった〝政治〟の思惑から、人権問題はどこかに飛んでしまうようだ

 文政権は側近のスキャンダルを機に、「言うこととやることが違う」という偽善ぶりが世論の批判を浴びているが、北がらみではついに今年の国連の対北人権決議案からも降りてしまった。

sankei201911191646