(朝日新聞 2019/09/11)

 首脳会談を繰り返したかと思えば、ミサイルで挑発する。北朝鮮の狙いは読みにくい。ただ、専門家が一致するのは、政権交代のない体制は10年超の長さで戦略を練ることだ。その一端を、経済政策に精通する北朝鮮の当局者に尋ねた。キーワードはレアアース(希土類)と、日本だ。(ソウル=神谷毅)

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▲北朝鮮の茂山鉱山連合企業所。鉄鉱石のほかレアアースも埋蔵されているとされる=北朝鮮「朝鮮の今日」のウェブサイトから

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◇日朝交渉のカード?

 この当局者は「北朝鮮はレアアース大国だ。日本の産業にも欠かせない。日本は資金も豊富で、投資すればいいと思う」と語った

 レアアースはハイテク製品に使われる鉱物資源。産出量は少ないが、電気自動車やスマートフォンなどの製造に欠かせず「産業のビタミン」と呼ばれる。ミサイルの精密誘導装置や戦闘機の部品などにも使われる。

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 中国が世界生産の7割を握っているが、北朝鮮にも豊富な埋蔵量があるとされる。開発するには北朝鮮の非核化が進み、経済制裁が解除されることが前提条件だ。現時点で実現の可能性は低い

 それでも当局者がレアアースを持ち出すのは、日朝交渉が始まれば貴重なカードになると考えているからのようだ。日朝が国交を正常化すれば、日本から100億~200億ドルの経済支援を得られるものと北朝鮮側は見込んでいる。

 当局者は安倍晋三首相は右傾化していると批判する一方、「日本は我々と戦争するより経済交流をする方が『ウィンウィン』になる」と、政治と経済を分ける考えを強調。鉱山開発に日本企業が関われば日朝双方に利益となると訴えた。

■設備不十分、進まぬ採掘

 1945年以前に日本が朝鮮半島を統治したころ、日本窒素肥料を中心とする「日窒コンツェルン」が地質を探査した図面があり、今もレアアースを含む北朝鮮の鉱山開発で参考にしているという。「日本の探査はとても精密だ。実際に採掘すると図面との差が数センチということもあった」とこの当局者は驚いてみせた。

 レアアースは北朝鮮の貴重な外貨獲得の手段だったが、2016年の経済制裁で輸出できなくなった。ただ、それ以前も設備が不十分で、採掘はさほど進まなかった。北朝鮮の公表資料によると埋蔵量は2000万~4800万トンで、中国に匹敵するとの見方がある一方、質が低いとの指摘もある

 レアアースは米中貿易紛争でも、米国への対抗策として中国が輸出を制限するとの懸念が出ている。2010年に尖閣諸島で中国漁船が日本の巡視船にぶつかる事件が起きた際には、中国から日本へのレアアース輸出が止まって外交問題になり、日本の企業活動に影響が出た。

■「一石三鳥」狙った協議

 当局者は、経済成長や開発をめぐる考え方についても語った。金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長の指導の下にある体制の構造を考えれば、当局内で共有された考えが反映しているとみられる。

 非核化をめぐる米国との協議を経て最終的に目指すものとして、この当局者は「米国の技術と資本、韓国の資本、日本の資金を一気に北朝鮮に入れる」ことを狙っていたという

 ただ、そのためには米朝関係の正常化が必要で、北朝鮮は非核化に踏み出さなければならず、自国の安全保障にかかわる。

 当局者は、米朝協議で念頭に置いていたのが「沖縄やグアム、ハワイにある米軍基地から、我々を狙える全ての核兵器を撤廃させる」ことだったという。「米国の核兵器を全てなくせというのではない。(この地域の)『非核地帯化』だ。そうすれば我々も核兵器をなくす」と語った。

■日中の発展「我々のおかげ」

 日本の経済成長は、朝鮮戦争が大きな契機になったとの認識も示した。「日本は敗戦で(米国と当時のソ連による統治に)分断される可能性もあったのに、免れた。それどころか朝鮮戦争による特需でお金の雨を浴びた。我々の血と汗、犠牲で再建した国、それが日本だ」と指摘した

 中国の成長は、米国との間に北朝鮮という「緩衝地域」があることで実現したとの見方も示した。朝鮮戦争で中国は米国と戦ったが、休戦協定が結ばれた後、最前線で米国と対峙(たいじ)することになったのは北朝鮮だった、というわけだ。

 この当局者は「中国は、もし我々が守っていなければ(中朝国境を流れる)豆満江の数千平方メートルにわたって国防費を投じなければならず、改革開放による経済発展は難しかっただろう」と強調。「元帥様(正恩氏)が訪中した際、『あなた方がこれほど偉大で強大な国になったのは、我々が東側を守ってきたためだ』とお話しになったこともある」と語った。(神谷毅)