(朝日新聞 2019/07/13)

 日本が韓国向けの半導体材料など3品目の輸出規制を強化したことをめぐり、日韓政府は12日、事務レベルの会合を開いた。4日の規制強化の後、両国の担当者が話し合うのは初めて。韓国側は、事前の連絡なく発動された「正当でない」措置だと主張。一方の日本は正当性を強調し、言い分は平行線のままだ。

 会合は韓国側の求めに応じ、東京・霞が関の経済産業省内で開かれ、課長級の貿易担当者ら2人ずつが参加した。話し合いは当初予定の時間を大幅に超え、6時間近く続いた。日本側は今回の会合は「事務的な説明の場」で、当局間の正式な協議ではないとしている

 日本政府は、韓国人元徴用工への損害賠償問題の解決策が6月末までに示されなかったり、輸出管理に関する「不適切な事案」があったりし、「信頼関係が著しく損なわれた」(世耕弘成経産相)などとして、韓国向けの3品目の輸出手続きを厳しくした。

 経産省によると、会合で日本側は、措置に踏み切ったこうした理由を説明。韓国側からは、日本の輸出管理の制度の詳細などへの質問が多く、世界貿易機関(WTO)協定違反になる可能性があるとの主張や、今回の措置の撤回を求める発言はなかったとした。経産省は「韓国側の質問には十分に答えたと思っている」(担当者)とし、次回会合の予定はないとしている

 一方、韓国側の説明によると、会合で韓国側は24日までに事態打開に向けて協議することを提案した。日本側は明確な回答をしなかったという。また、今回の措置が「世界の部品や素材の供給網に悪影響を与える」とし、「深い憂慮と遺憾」を表明したという。

 韓国は、今回の輸出規制強化を協議するため大統領府の金鉉宗(キムヒョンジョン)・国家安保室第2次長を米国に派遣中だ。米国務省のオルタガス報道官は11日の会見で「我々はインド太平洋地域や世界で課題を共有している。(日韓)両国との関係はとても重要だ。連携強化を続ける」と話した。

 また、韓国の大統領府の高官は12日、「日韓両国の輸出管理違反に関する公正な調査を、国連の専門家や適切な国際機関に依頼することを(日本側に)提案する」と記者団に語った。(久保智、ソウル=神谷毅)


(朝日新聞 2019/07/13)

 韓国向け輸出の規制強化後、日韓当局者による初めての会合が12日に開かれた。規制内容の「事務的な説明の場」と位置づける日本は、韓国側に世界貿易機関(WTO)の協定に違反しないなどと主張した。話し合いは予定の時間を大幅に超えたが、歩み寄りの気配は見えない。

 午後2時ごろから経済産業省で始まった日韓当局者による会合。「輸出管理に関する事務的説明会」との紙が貼られたホワイトボードを前に、話し合いは2時間ほどとされた予定を大幅に過ぎ、6時間近くかかった。終了後、韓国側の2人は無言で建物を後にした

 主張がすれちがっている点の一つが、今回の輸出規制強化がWTOの協定違反にあたるかどうかだ。

 経産省幹部によると、今回の会合では、韓国側からWTOの協定に違反するとの従来の主張はなかったが、日本側からは協定違反にはあたらないとの説明をしたという。

 日本側は、今回の規制強化は輸出手続きに関する優遇措置をやめただけで、独自で判断できる「国内の措置」だと主張。WTOの協定とは無関係との立場だ

 規制強化対象のフッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素の化学材料3品目は、国際的な輸出管理の枠組みで軍用品に転用されないように規制するよう求められている。日本側は輸出管理の「不適切な事案」が見つかったとして、国内での規制強化が責務だと強調。経産省幹部は、「仮にWTOの紛争処理手続きになったとしても、安全保障に関する規制は例外として認められる分野」と余裕を見せる

 一方の韓国は、国際世論を巻き込むことで、日本側を撤回に追い込みたい考えだ。WTOへの提訴も視野に入れる。輸出規制強化は韓国人元徴用工問題への対抗措置で、安全保障の例外には当たらないとする

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 ■不適切事案、明かさず

 日本が輸出規制強化の理由に挙げる3品目をめぐる「不適切な事案」とは何なのか。日本は詳細を明らかにしておらず、12日の会合でもこれまで以上の説明はしなかった

 経産省によると、対象の3品目では、日本の輸出業者が韓国側の発注元から短期での納品をたびたび求められていたケースがあったという。経産省は、通常より短い納期での発注が続くと、輸出業者の管理を適切にチェックできなくなると主張。北朝鮮など第三国への転売などについては、「韓国側が適正に管理すること」(経産省幹部)で、「関知せず」との立場だ。

 一方、韓国政府は10日、2015年から19年3月までに、武器製造に転用可能な戦略物資の違法輸出を156件摘発したと発表した。韓国内では「日本側が、韓国からフッ化水素が北朝鮮に密輸されていると批判している」と一部メディアが報道しており、世論を考慮して、「我が国の輸出管理制度が効果的に運営されている証左」(韓国・産業通商資源省)と反論するねらいがある。

 ただ、韓国が発表したのは摘発件数のみ。経産省幹部は「むしろ管理が相当ずさんな証明だ」と指摘。この156件と規制強化理由の「不適切な事案」に直接の関係はないとする。専門家も「摘発件数のみでは、輸出管理が適切かどうかを判断できない」と口をそろえる。(西山明宏、伊藤弘毅、ソウル=武田肇)

 ■<考論>取り締まり上、非明示は自然 元経産省貿易管理部長・細川昌彦氏

 輸出管理の実務面では、刑事事件にならなくてもいい加減な管理が疑われる事案はしょっちゅうある。輸入元の発注方法や発注量に異常があったり、使用目的に照らして輸出される化学物質の純度が高すぎたりといった具合だ。こうした事例を明かせば、不正をする相手に対策を取られ、有効な取り締まりができない。「不適切な事案」を具体的に明かさないのは自然だ。一方で、今回の対応が適切なものだったと世論に理解してもらうためには、政府にも疑い事例の類型を示すなどのより工夫した説明が求められる。(聞き手・久保智)