(朝日新聞 2019/07/05)

 朝鮮半島の軍事境界線上にある板門店で6月30日に実現した米朝首脳会談で、トランプ大統領が会談前に金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長に送った親書で、板門店で会いたいと示唆していたことが、米韓の外交関係者の話でわかった。両首脳は個人的な信頼関係に基づいた「電撃会談」を強調するが、実現に向けた事務方の事前交渉も行われていた。

 米韓の外交関係者の話では、トランプ氏は6月下旬、ニューヨークの北朝鮮国連代表部ではなく、米高官を平壌に派遣する形で正恩氏に親書を送った。訪韓時に予定する板門店訪問で、正恩氏との会談を望むと示唆。高官に北朝鮮側と協議させ、正恩氏が応じる場合は事前にサインを出すことを確認させたという

 トランプ氏は会談前日の朝、非武装地帯(板門店)の訪問時に正恩氏に会いたい、とツイッターに投稿した。正恩氏側近の崔善姫(チェソンヒ)・第1外務次官はその数時間後、「対面が実現するなら、両国関係の進展で、もう一つの意味ある契機になる」と異例の早さで反応。これが「サイン」だったとみられ、ビーガン北朝鮮政策特別代表は同日夜、板門店で北朝鮮側と会談の進め方や警備を協議した

 トランプ氏は会談の場で、自身のツイッターの投稿に言及し、正恩氏に「すぐに応じてくれて感謝している」と発言。正恩氏も「昨日(29日)朝に意向を知って驚いた」と述べ、トランプ氏の主張に沿って電撃性を強調した。トランプ氏には米大統領再選にむけた正恩氏とのパイプのアピール、正恩氏には制裁緩和に向けたトップ協議の枠組み維持という狙いがあり、両者の思惑が一致した。(ソウル=神谷毅、ワシントン=園田耕司)


(朝日新聞 2019/07/05)

 朝鮮半島を南北に分ける軍事境界線上にある板門店で実現した6月30日の米朝首脳会談では、両国の事務方が事前の交渉を行っていた。米朝はこうした準備を経て、会談直前に開催を確定。両首脳は相手を利用したい事情を抱え、事前の協議には触れぬまま「サプライズ」を演出していた

 6月30日午後、トランプ大統領と金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長は板門店で会談した。ベトナム・ハノイで2月にあった2回目の首脳会談が決裂した後、約4カ月ぶりだった。

 トランプ氏は会談で、「私が大統領になったとき、朝鮮半島には大きな葛藤があったが、今はなくなった。金委員長が多くの努力を傾けてくれた」と正恩氏を持ち上げ、オバマ前政権時代との対北朝鮮関係の違いを強調。正恩氏も、「閣下(トランプ氏)と私の素晴らしい関係がなければ、このような出会いを電撃的に果たすことは、おそらくできなかっただろう」とトランプ氏との「信頼関係」をアピールした。

 米韓の外交関係者によると、米側はこの日の会談のため、事前に親書や高官の平壌派遣を通じ、北朝鮮側と交渉してきたという

◇床に垂れ下がった国旗 急ごしらえ否めず

 ただ、会談の正式確定はトランプ氏が29日、訪韓時に非武装地帯(板門店)を訪れる際、正恩氏に会いたいとツイッターで投稿した後だ。ソウルにいたビーガン北朝鮮政策特別代表は、この投稿を受けて急きょ北朝鮮側と連絡を取り、最終調整に動き始めた。

 急ごしらえの会談で、当日は混乱を極めた。会談会場の韓国側施設「自由の家」では、米朝首脳の席の後ろに飾られた両国の国旗が床に触れ、垂れ下がっていた。「外交儀礼では、ありえない」(ワシントンの外交関係者)状態だった。

 トランプ氏は大統領就任前に、ぶっつけ本番が入り交じるテレビ番組に出演した経験があり、その演出効果を熟知する。今回の会談でも冒頭で記者団に「ソーシャルメディア(自身のツイッターの投稿)でお知らせしたとき、もし彼(正恩氏)が来なければ、メディアは私のことをとても格好悪く報じただろう」と発言。正恩氏にも「あなたのおかげで我々の見た目はとても良い」と話しかけた。

■米側、選挙狙いの提案 正恩氏には「渡りに船」

 トランプ氏が正恩氏との個人的な「信頼関係」を強調するのは、絶対的な権力を持つ正恩氏と直接意思疎通を図ることで、北朝鮮が核実験や大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射をしていない「現状維持」を続けたいという思惑がある

 米大統領選の影響も大きい。トランプ氏は現在の米朝関係を自らが誇る外交的な成果ととらえている。このタイミングでの会談を決めたのも、米大統領選をめぐる野党・民主党のテレビ討論会に集まったメディアの注目を自身に引き寄せる狙いがあったとみられる。

 これに対し、制裁緩和をめざす正恩氏も、トランプ氏との関係維持をメリットととらえている。韓国統一省の幹部は「北朝鮮から協議再開に動き出せば、最高指導者の正恩氏が譲歩したようにもみえる。再開のきっかけを探していた正恩氏には、トランプ氏による会談の提案は、『渡りに船』だったはずだ」と言う。

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▲米朝のやりとりの経緯と両首脳の思惑


 北朝鮮は、制裁維持を強く唱えるポンペオ米国務長官らと比べ、トランプ氏を「交渉の余地がある」と見ている可能性が高い。韓国大統領府の元高官は「正恩氏は、トランプ氏をくみしやすく取引できる相手とみなし、再選を望んでいる。(今回の『電撃的な会談』を演出する)トランプ氏の提案を受けたのも、そんな思惑があるからだろう」と指摘している。(ソウル=神谷毅、ワシントン=園田耕司)


通常、実務者協議を経て何らしかの『成果』を求められますが、今の状況で“電撃会談”なら『会った』ということ自体が成果とされるので、お互い都合が良かったんでしょうね。