(日本経済新聞 2019/06/14)

韓国大手企業が中国での生産を相次いで見直している。現代自動車が今春、北京市の工場の操業を一部停止したほか、LG電子も米国向けの家電生産を中止した。サムスン電子は昨年末に生産を停止した天津市のスマートフォン工場に続き、広東省の工場でも人員削減の検討を始めた。これまで韓国企業は中国への依存度が特に高かったが、米中貿易戦争が追い打ちをかける形で、中国リスクが顕在化してきた。

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「中国政府の心証を害さないよう、これまで我慢して踏ん張ってきたが、ついに耐えられなくなった。そんな印象だ」

ソウル駐在で韓国企業との取引が多い日系の大手金融関係者は、直近の韓国企業の中国戦略をこんな表現で言い表した。 耐えられなくなったとは、最近目立つ韓国企業の中国離れを指す。

口火を切ったのは、サムスンだ。同社製スマホの中国販売はこの数年で落ち続け、主力の天津工場の生産停止はもはや時間の問題ともされていた。2018年の中国シェアは出荷ベースで1%足らず。それでもサムスンは我慢を続けていた。生産停止を決めれば雇用減を懸念する中国では政府から、多方面で圧力がかかるのは必至だからだ。だがサムスンはついに耐えきれず昨年末、同工場の生産停止を決断した

「サムスンが先陣を切ってくれると、我々も心理的負担が減る」(韓国企業関係者)。そんな雰囲気ができ、その後は堰(せき)を切ったかのように韓国大手のリストラが足元で続いている。

現代自は5月末までに北京にある第1工場(年産能力約30万台)の稼働停止に踏み切った。同グループの起亜自動車の塩城第1工場(江蘇省)も6月末に起亜ブランドの生産を停止する。家電大手のLG電子も、浙江省台州にある白物家電工場内の米国向け冷蔵庫について、このほど全量を生産停止し、韓国の昌原工場に移管した。

サムスンは広東省恵州市のスマホの主力工場でも希望退職者を募り、事業縮小の検討に入っているのが現状だ。

もともと韓国企業は中国依存度が高い企業が多く、それはリスクになり得ることは度々指摘されてきた。だがサムスンや現代自も中国市場で強い時期が続き、リスクは表面化しなかった

例えば、サムスンは12年に中国販売で首位に立ち、同社製スマホは長く中国人の憧れ的な存在だった現代自の多目的スポーツ車(SUV)も中国で絶大な人気となり、独フォルクスワーゲン(VW)と米ゼネラル・モーターズ(GM)に続く販売3位の地位を16年までは築いていた

しかし、この数年で中国企業が、韓国が得意とするスマホでも車の分野でも力をつけて台頭し、韓国勢を追いやる構図ができつつあった。サムスンの中国販売は今や上位10社にも入れず、現代自も販売6~7位の中堅に甘んじるまでになった

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その流れに追い打ちをかけたのが、17年の在韓米軍の地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)配備問題中国政府は韓国に強く反発し、中国では韓国製品の不買運動が一気に広がった。ロッテは中国からスーパー事業の撤退を余儀無くされる事態ともなった。

その後、1年以上も後遺症に悩んだのが韓国企業だったが、ようやく立ち直りの兆しを見せ始めた矢先、不運にも今回の米中貿易戦争が起きてしまった

韓国の輸出額全体に占める中国向け比率はいまだ約26%を占め、最大の貿易相手国だが、直近の5月の中国向け輸出額は20%も減った。中国での韓国企業の地位低下と、中国経済の低迷が重なった形だ。

今後さらに韓国企業を苦しめそうなのが米国による中国の華為技術(ファーウェイ)への制裁問題だ。米国がこのまま制裁を続ければ、ファーウェイが購入予定の半導体は大量にキャンセルされて安価に市場に出回る。市況は悪化し、サムスン主力の半導体事業の利益を押し下げる公算が大きい

半導体は韓国の輸出全体の2割を占め、国を支える最重要産業。ただでさえ半導体市況は昨秋から悪化し、韓国の5月の半導体輸出も前年同月比で31%減少し、予断を許さない状況が続く。

さらに、米国は中国からの輸入品の3800品目に対し、最大25%の関税を課す「制裁第4弾」の月内発動も辞さない構えをみせている。第4弾の中身はスマホやパソコンで韓国企業の得意分野ともろに重なる部品や素材など大量の中間財を中国に輸出し、現地で加工し、米国へ輸出する韓国企業への打撃はここでもやはり避けられない

次世代高速通信「5G」の通信設備でも韓国通信大手の3社のうち2社が最近、ファーウェイを選ばなかったことが「韓国は中国の神経を逆なでしている」と中国で受け止められた。もはやどう転んでも中国問題が今の韓国企業にはのしかかる構図。厳しい試練の時を迎えている。