(朝日新聞 2019/06/09)

 韓国の文在寅(ムンジェイン)政権が、2015年の日韓慰安婦合意で設立した「和解・癒やし財団」の解散を進めていることに対し、元慰安婦の遺族らから不安の声が上がっている。財団の事業が宙に浮いたことで、受け取れる支援金が届かないためだ。今後の事業をめぐる日韓の協議は滞ったままで、解決の糸口は見えていない。

 財団は日本が出した10億円を財源に、元慰安婦47人に1人あたり支援金1億ウォン(1ウォン=0・09円、約900万円)、遺族199人に同2千万ウォンを支給する事業に取り組んだ。財団関係者などによると、このうち受給を希望したのは元慰安婦36人と遺族71人。ただ、昨年11月に文政権が日本の同意なく財団解散を決めたため、元慰安婦2人と遺族13人には支援金が払われていないという。

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 こうした遺族の1人で仁川市の女性(58)は5月中旬、取材に対し、「(支援金は)慰安婦だった母が受け取ることができたお金。遺族として一日でも早く受け取りたい」と語った。

 女性の母は韓国政府から認定された元慰安婦で、1994年に亡くなった。女性は16年に財団ができた後も、韓国メディアが合意を批判的に報じていたため、「受け取ってはいけないお金だ」と考え、すぐに支援金を申請しなかった。

 18年になり、大学生の長女(25)から、支援金事業の目的が元慰安婦の名誉や尊厳の回復だと知らされた。「支援金は貧しかった母が残してくれた贈り物」と思い直して申請。同年10月に受理されたが、支援金は今も受け取れていない

 ソウル郊外に住む女性(70)は05年に亡くなった年長の姉が元慰安婦だった。受給資格があるきょうだい5人のうち在米の2番目の姉、兄の生死がわからず、残るきょうだい3人分の1200万ウォンを16年に先行して受けた。だが、2番目の姉の死亡と兄の失踪が認められた後も残る800万ウォンは支給されていない

 女性は「長姉は生涯独身で、孤独だった」と語る。支援金は「長姉の名誉回復につながる」と考え、受給のために政府への申し入れや議員への陳情も重ねた。でも、「期待を持たされたまま時間だけがむなしく過ぎた」と言う。

 朝日新聞の取材に、財団は「解散方針発表後に財団法人の資格を失い、何も答えられない」、財団を所管する女性家族省は「すでに政府の手を離れ、清算人の決定事項だ」とする。また、財団の清算人の弁護士は「今は取材に応じられない」と回答している

◇日韓の外交協議も停滞

 文政権は、一部の元慰安婦や遺族が批判する日韓合意を朴槿恵(パククネ)前政権の「失政」と位置づけ、「被害者中心主義」による問題解決を唱えてきた

 大統領府元高官は、当初は財団に代わり、韓国政府主導の支援策や追悼事業を日本の理解を得ながら進める考えだったとし、「日本側が反発し、前に進められなくなった」と言う。問題解決の青写真作りを念頭に18年夏に設けた韓国の慰安婦問題研究所も、所長が辞任するなどして新たな事業案をまとめられておらず、未受給の「被害者」が放置される状態が続く。

 財団には、残余金5億円余りが残る。しかし、使途を決める日韓協議は、日本側が財団解散を受け入れていないこともあって、進んでいない。日本政府関係者によると、18年秋以降、外交協議では元徴用工訴訟が最大の懸案になり、慰安婦問題はほとんど取り上げられていないという。(ソウル=武田肇)


ムン大統領が“被害者”云々言いながら、合意の事実上の無効宣言、財団解散を決めましたが、実際には“被害者”を見ていないことがよくわかりますね。