(朝日新聞 2019/04/17)

 街の景色は変わっていた。3月、中国の全国人民代表大会の取材で北京を訪れると、薄藍色の空が高く延びている。習近平(シーチンピン)指導部が工場の移転や稼働停止といった大気汚染対策を半ば強制的に進めた結果、特派員として暮らした5年前まで苦しめられた黄砂が混じったような春がすみを目にすることはほとんどなかった。

 澄んだ空とは対照的に街の空気は重苦しく感じた。通りには警察官らが至る所で目を光らせ、監視カメラが張り巡らされていた。かつての全人代とは比べものにならない警戒ぶりだった

 北京勤務の後に異動した米国で知り合った中国政府の知人と夕食をとる約束をしていた。米国では日中関係から中国の政治改革まで杯を交わしながら語り合った仲間だ。知人の北京帰任後に会うのは初めてだったが、約束の約3時間前に携帯にメッセージが入った。

 「急な事情で行けなくなった。本当に申し訳ない」


 もう一人の友人にも同じように断られた。かろうじて会えた別の知人に何があるのか尋ねてみた

 「最近、役人同士が無断で外食するのを禁ずる内規ができた。ましてや外国人とは難しい」

 反腐敗活動の一環のようだ。特に軍人同士の会合が厳しいそうで、反指導部の動きを防ぐ狙いが透けて見える。「文化大革命の時代に逆戻りしたようだ」と言うと、この知人は表情を曇らせた。

 「もっと厳しいかもしれない。技術革新があったから」

 カメラやスマホの普及に加え人工知能(AI)も使うことで、当局は監視をしやすくなった。「ハイテク文革」とも言える状況だ。

 6年余り前に就任した習主席は「反腐敗」で権力基盤を固めてきた。政権運営が安定すれば、改革が進むとの期待が内外にあった。

 それは幻想だったようだ。
共産党の伝統である百家争鳴の場は失われ、役人や軍人は萎縮している。リスクを恐れ、数年間止まっている事業も少なくない。こうした停滞が、国家運営や経済に悪影響を及ぼしてはいないか。そして何よりも、有能で開明的な知人たちが体制に押しつぶされないか気がかりだ。 (国際報道部 峯村健司)