(朝日新聞 2019/04/07)

 古代中国シルクロードの要衝として栄えたオアシス都市・敦煌。その西方約100キロのゴビ砂漠に、3隻の軍艦が描かれているのを米国の衛星が捉えていた。

 米海軍のトーマス・シュガート大佐らは2013年などに撮影された写真を分析、映っているのはミサイルの精度や衝撃を試す中国軍の実験場と結論づけた

 大佐の目を釘付けにしたのは、「砂上の軍艦」の配置だった。鏡に映したように反転させれば、米海軍横須賀基地(神奈川県)の構造とうり二つだったからだ。軍艦に見立てた三つの標的の真ん中には、ミサイルの着弾跡とみられるクレーターもあった

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▲中国のゴビ砂漠に造られたミサイル衝撃実験場。米専門家は、米軍横須賀基地(神奈川県)を想定したものだと指摘。3隻の艦船に見立てた標的の中央にミサイルの着弾跡のようなクレーターがある=2014年3月時点のGoogle Eearthから

 大佐らは17年に発表した報告書「先制攻撃:アジアでの米軍基地への中国のミサイル脅威」で、同じ実験場に米空軍嘉手納基地(沖縄県)の戦闘機駐機場にそっくりな標的が描かれているとも指摘。「西太平洋の米軍の軍事力を支える前方基地への中国軍のミサイル攻撃は、現実味を帯びている」と警鐘を鳴らした。

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▲米軍嘉手納基地(沖縄県)戦闘機駐機場に見立てたゴビ砂漠のミサイル衝撃実験場=Google Earthから

 米国防長官政策顧問だったアンドリュー・クレピネビッチ米戦略予算評価センター前所長も数年前、別の衛星写真で砂漠に空母の甲板が描かれているのを見た衝撃を鮮明に覚えている。

 「まるで真珠湾に並ぶ軍艦への奇襲攻撃を想起させた」

 米国防総省のアジア政策に強い影響力を持つ同氏は、旧知の日本政府高官や自衛隊幹部に、「日米は、奇襲攻撃の被害を受けないよう、手段を講じる必要がある」と危機感を伝えた。

 ■米「防ぎきれぬ」、INF離脱

 今年2月1日、トランプ米政権は米ロの中距離核戦力(INF)全廃条約からの離脱をロシアに通告した。「冷戦終結」の象徴だった条約が失効すれば、米ロは中距離ミサイルを配備できるようになる。

 トランプ政権で昨年まで国防次官補代理を務め、国家防衛戦略の策定を担ったエルブリッジ・コルビー氏は「離脱の一義的理由はロシアだが、最大の理由は中国だ」と明言する。

 INF条約の網の外にいた中国は、DF(東風)21やDF26など命中精度の高い準中距離、中距離ミサイルの開発を加速させ、その数で世界一になった

 米国は日本と弾道ミサイル防衛網を築き、「盾」を強化してきたが、米政府高官は「中距離では、もはや中国のミサイル能力が量と質で米国を凌駕(りょうが)し、『盾』だけでは防ぎきれない。『矛』も必要だ」と語る。

 複数の米メディアは、米国はINF条約が失効する8月に地上配備型中距離巡航ミサイル、11月には中距離弾道ミサイルの発射実験に踏みきると報じている。

 米国は核ではない通常弾頭の中距離ミサイルをアジア太平洋に前方展開する可能性を探っており、米国防総省関係者は「配備先としては日本やフィリピンなどの同盟国も検討対象になる」と語る。

 米国が中距離ミサイルの展開に踏み切れば、極東は米中による「ミサイル競争」の舞台になりかねない。4カ月後に迫るINF条約の失効は日本にも深刻な問いを投げかけている。

 ◆キーワード

 <INF(中距離核戦力)全廃条約> 地上配備型の中距離ミサイルを全廃するため、米ソが1987年に締結した軍縮条約。米ソが欧州を舞台にミサイルの開発・配備を競うなか、当時のレーガン米大統領とゴルバチョフ・ソ連書記長が調印し、冷戦終結の契機となった。中距離ミサイルは到達時間が短く探知が難しいため、相手が発射したとの誤認識などで偶発的に核戦争に発展する懸念も高まっていた。条約では、核弾頭だけでなく通常弾頭を搭載する射程500~5500キロの弾道・巡航ミサイルを全廃するとした。

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日本も垂直発射システムを備えた潜水艦と搭載する弾道ミサイルの配備くらいはできるようになると良いですね。