(日本経済新聞 2019/03/14)

元徴用工問題、きょう局長級協議 水平分業、双方に打撃 

【ソウル=鈴木壮太郎】韓国最高裁が日本企業に賠償判決を下した元徴用工問題を巡り、日本政府内に浮上した経済制裁論に韓国が警戒を強めている。韓国政府は対抗措置の検討を示唆するが、水平分業の関係にある日韓経済への打撃は大きいとの懸念も強い。日韓外務省は14日に局長級協議を開くが、出口が見えない状況に産業界は不安を募らせている

韓国外務省は13日、金容吉(キム・ヨンギル)東北アジア局長が日本外務省の金杉憲治アジア大洋州局長と14日にソウルで会い、元徴用工問題への対応を協議すると発表した。経済制裁も議題に上る可能性がある。

韓国が警戒を強めるきっかけとなったのが、麻生太郎財務相による12日の答弁だ。「関税に限らず、送金の停止、ビザの発給停止とかいろんな報復措置があろうかと思う」と具体的な報復手段にまで言及したことに驚きが広がった。

麻生財務相が一例に挙げた送金停止は日韓にまたがるビジネスを手掛ける企業にとって重大な障害となりかねない。ビザの発給停止は2018年に753万人に上った韓国人訪日客を激減させ、インバウンド消費に影響を与える可能性もある。

韓国メディアは基幹産業である半導体製造に欠かせないフッ化水素など戦略物資の対韓輸出を制限する案が日本で浮上していると報じた。韓国政府高官は13日、「日本から経済報復の通知はないが、我々も万全の準備をしている」と応戦する構えを強調した。

元徴用工裁判で勝訴した原告側弁護団が新日鉄住金と三菱重工業の資産差し押さえの動きを加速していることに日本側はいらだちを募らせる。それでも韓国政府は対応策をいまだに発表しておらず、日韓請求権協定に基づく日本からの協議要請にも回答していない。

麻生財務相の発言は韓国政府への警告で「実際にはそこまでやらないだろう」(日韓外交筋)との見方も強いが、企業にとっては不安材料だ。

韓国にとって輸出先としての日本は00年の2位から18年は5位に低下し、代わりに中国が首位に躍り出た。元徴用工問題への韓国政府の対応が鈍い一因に、経済面での日本の存在感低下を指摘する声もある。

ただサムスン電子やSKハイニックスなど韓国を代表する企業が日本に部品・素材を依存する構造は変わらない。韓国の18年の対日貿易赤字は240億ドル(約2兆6700億円)と、国別で最大だ

日本企業にとっても韓国は「もうかる国」だ。日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、アジア・オセアニアに進出した日系企業で、18年に営業黒字を見込む企業の割合が最も高いのは韓国で85%に達する。中国は72%、タイは67%だ。

日本政府が仮に輸出制限や高関税賦課に踏み切れば、火の粉は日韓双方の企業に降りかかる。日本の半導体関連の素材メーカー幹部は「日韓の産業は(互いの得意分野で協力し合う)水平分業関係だ。韓国が傾けば日本も傾く。世界的なサプライチェーン(供給網)にも重大な影響が及ぶ」と懸念する。

政府間の対立は経済界の交流にも影を落としている。

日韓・韓日経済協会は5月にソウルで予定していた「経済人会議」の開催を9月以降に延期した。佐々木幹夫会長(三菱商事特別顧問)と金●(かねへんに允、キム・ユン)会長が1日、東京で会って決めた。日韓の商工会議所が18年11月に予定していた会議を延期したのに続く動きだ。

関係者によると延期は韓国側が求めたようだ。5月には韓国側による資産差し押さえが完了し、日本政府が報復措置が発動している可能性もなくはない。そうした中で経済人が日韓の関係強化を発信すれば、政府と方向性が乖離(かいり)しかねないとの懸念が韓国側に強かった

悩ましいのは日本側も同じだ。「元徴用工判決には強い憤りを覚えるが、ビジネスへの影響は避けたい。両国政府が冷静にうまく問題を解決してほしい」というのが在韓日系企業の本音だ。

韓国最大の日系コミュニティー、ソウルジャパンクラブは韓国政府に毎年提出する建議で、元徴用工問題への言及を見合わせた。昨年12月の理事会で徴用工判決への憂慮と韓国政府による適切な措置を求める文言を含めるか採決した結果、僅差で反対が上回ったためだ


こうした経済的つながりや戦後のこれまでの経緯をぶち壊しても「今の韓国の正義」を韓国政府は貫こうとしているんですから、日本企業は“これまでの関係”はもう変わるしかないと受け止めるしかないでしょうね。