【こちら特報部】慰安婦像問題で米サンフランシスコ市と姉妹都市解消
(東京新聞 2018/10/06)

大阪市にメリットあるの?

 米サンフランシスコ市に設置された慰安婦像をめぐり、大阪市の吉村洋文市長が二日、サ市に書簡を送り、姉妹都市関係を解消した。しかし、六十年にわたって築いた両市の友好関係を断ち切ったことを懸念する声は少なくない。この解消は大阪市にとってメリットがあったのか。(中山岳)

海外メディア冷ややか
「加害責任向き合うべき」

 両市の関係解消は、海外メディアも反応した。ただし、そのトーンは冷ややかだ。米紙ニューヨーク・タイムズは、慰安婦関係団体の共同代表を務める元判事の「姉妹都市関係の解消は、こっけいでばかげている。大阪市長と日本の首相がいかに真実が明らかになることを恐れ、歴史を否定しようとしているかを、よく示している」とのコメントを掲載。英BBC放送も、サ市のロンドン・ブリード市長の「慰安婦像は、私たちに忘れてはいけない出来事や教訓に気づかせてくれる」との声明を紹介した。

 慰安婦像は、サンフランシスコ市の中国系や韓国系団体が昨年九月、中華街近くの民有地に設置。団体は、この土地を市に寄贈し、市議会は十一月に受け入れた。これに先立つ二〇一五年九月、市議会公聴会で、在米日本人の団体代表の男性が慰安婦被害を否定する主張をすると、市議が「恥を知れ」と非難。全会一致で慰安婦像の設置を促す決議をした経験がある。

 吉村市長は昨年十二月、像の碑文に刻まれた慰安婦の数や旧日本軍の関与の度合いなどを「一方的」と問題視し、関係解消を決定。その後、前市長の急死で解消の通告を延期していたが、今年七月に「最後通告」を送付し、期限の九月末までに回答がなかったことから、解消に踏み切った

 二日、関係解消を伝える書簡で、吉村市長は「戦場の性の問題は、旧日本軍だけの問題ではない」などと改めて主張した。

 一九五七年に姉妹都市提携した大阪市とサ市は、高校生のホームステイ受け入れや、代表団の派遣などで相互交流を続けてきた。今後、こうした行事に大阪市の予算は使われなくなる。

 交流行事に参加したことがある岡山県新見市の新見公立大の山内圭(きよし)教授(国際交流論)は「長年積み上げた両市の信頼関係をゼロにしてしまうのは、行き過ぎでは」と疑問視する。「ホームステイや交流行事を楽しみにしていた中高生らはがっかりだろう。一方的な決定がサ市民を落胆させ、悪印象を与えるとしたら、大阪市側のデメリットは大きい」と語る。

 帝塚山学院大の薬師院仁志教授(社会学)は、「関係解消は、万博を誘致しようという大阪市が目指す方向に逆行する。慰安婦像について意見を伝えるにも、他のやりようがあったのではないか」と指摘。「大阪市民や市議会から解消を求める声が高まったわけでもない。吉村市長の独り相撲にみえる」と批判する。

 大阪市のメリットなど何一つ見当たらないが、それでも一部に吉村市長の主張を支持し、決定を「英断」とたたえる声がある

 これに対し、戦時下の性暴力を証言や資料で伝える「女たちの戦争と平和資料館(Wam)」(東京都新宿区)の池田恵理子名誉館長は「慰安婦の詳細な数の記録はないが、各地で膨大な女性がひどい目に遭い、傷を負ったことは証言や資料で明らか。旧日本軍が太平洋戦争で長期間、アジア全域に慰安所を設けた事案は誰も否定できない」と語気を強める。

 吉村市長だけでなく、右派の政治家などが「慰安婦の数がはっきりしない、日本だけの問題ではない」としばしば主張し、戦争犯罪を否定しようとすることはよくあると池田さんは指摘する。「戦争の加害部分を認めず、責任を取ろうとしない姿勢こそ問題だ。被害実態の調査や検証もせず、市民の交流の機会を奪うのは暴挙と言うほかない」


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(読売新聞 2018/10/06)

 相手の誠意ある対応が望めない以上、長年の友好関係にピリオドを打つのはやむを得まい

 大阪市が、米サンフランシスコ市との姉妹都市提携を解消した。民間団体から寄贈された慰安婦像と碑文を、サンフランシスコ市が公有化した。大阪市がその撤回を求めたが、聞き入れられなかったためだ。

 碑には「性的に奴隷化された数十万の女性と少女の苦しみを証言する」「ほとんどが捕らわれの身のまま亡くなった」といった文言が刻まれている。

 史実を歪曲わいきょくした内容である。大阪市が「不確かな主張を一方的に真実かのように記している」と抗議を繰り返したのは当然だ。

 サンフランシスコ市からは、期限内に何ら回答がなかった

 国家同士の関係では、時として国益がぶつかり合う。これとは異なり、あくまで友好親善を目的に、市民相互の交流を図るのが、自治体同士の姉妹都市関係だ。

 今回、友好促進に欠かせない信頼が損なわれた。提携解消しか選択肢はなかったと言えよう

 両市が提携関係を結んだのは、1957年だ。半世紀以上にわたり、市長の相互訪問や、学生の交流事業で親交を深めてきた。

 両市の関係悪化が深刻になった昨年末以降、これらの交流は全て中止になった。民間交流への補助金支給も停止された。

 一部の民間団体の反日的な活動をきっかけに、培ってきた友情が無に帰してしまう。相手側に非があるとはいえ、残念な事態だ

 サンフランシスコ市では、一定の割合を占める中国系米国人が強い影響力を有している。市の対応が鈍かった要因ではないか。

 慰安婦像の設置は世界各地で相次いでいる。今年8月には台湾南部の台南市でも設置され、除幕式には野党・国民党の馬英九前総統が出席した。政治色が強い動きであることがうかがえる。

 独フライブルク市に慰安婦像設置の計画が持ち上がった際、姉妹都市の松山市は「慰安婦問題は韓国政府との間で最終的かつ不可逆的に解決している」と説明した。これにより、フライブルク市が計画を中止した例もある。

 旧日本軍や官憲による組織的強制連行を裏付ける資料は発見されていない。誤った歴史認識の拡散を抑えるため、政府は粘り強く情報発信を続けねばならない。

 慰安婦問題の実証研究書である秦郁彦氏の「慰安婦と戦場の性」が英訳出版された。日本の主張を支える有力な材料となろう。