(朝日新聞 2018/10/07)

 「ネット右翼」はどのくらいいて、どのような人たちなのか。その実像に迫ろうと、8万人規模の過去に例のない大規模調査が行われた。ネット右翼と呼べる人たちは全体の1・7%だったほか、これまで語られてきたネット右翼像とは異なるタイプの「オンライン排外主義者」が3・0%存在することも浮かび上がった。

 ネット右翼とは一般的に、保守的・愛国的な政治志向を持ち、中国や韓国などの近隣アジア諸国に対して排外的な言動を行う人を指すことが多かった。規模は小さいとされるが、膨大な情報を生み出すことから、その影響力に注目が集まっている。一方で、ネット右翼の担い手がどんな人たちなのかについて実証的に検証したケースは少なく、多様なネット右翼像が流通しているのが現状だ。

 東北大の永吉希久子准教授(社会意識論)らのグループが東日本大震災以後の人々の社会活動の変化を調べようと、昨年12月に「市民の政治参加に関する世論調査」を実施。ネット調査会社を通じて20~79歳の東京都市圏に住む約7万7千人の男女にアンケートをした。その際、ネット右翼について調べるための質問も盛り込み、永吉さんが実証的な検証を試みた

 アンケートでは、「靖国公式参式参拝」「憲法九条の改正」「国旗・国歌を教育の場で教えること」の是非など政治志向を問う質問▽中国や韓国への否定的態度を問う質問▽政治や社会問題に関する情報の入手先を問う質問▽「同性同士の恋愛」「夫婦別姓」の是非などを問う質問▽学歴や雇用形態、世帯年収などを問う質問――などを投げかけた。

 回答を分析した結果、(1)排外主義的な傾向がある層は全体の21・5%(2)ネットで政治的議論をする層は20・2%(3)「憲法9条改正に賛成」など政治的保守志向がある層は12・8%――だった。

 三つの要素を全て満たす人は全体の1・7%。(1)と(2)の要素は満たすものの、政治的な保守志向のない層は3・0%だった。永吉さんは前者をネット右翼、後者を「オンライン排外主義者」と分類した。

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 両者は、夫婦別姓に反対するなど伝統的な家族観が強く、ネット上で政治的議論をするという共通点がある。だが、ネット右翼には自分たちの声が政治に届いている実感があり、権威を重んじる一方、オンライン排外主義者には自分たち「国民」の声が政治に届いていないとの不信感が強く、権威やマスメディアと距離を置く傾向があった。両者ともネットで情報を集めるが、ネット右翼が活字媒体を活用するのに対し、オンライン排外主義者は口コミを重視する傾向も出た。

 ネット右翼は、右派論壇の影響を受けた歴史修正主義を基盤とする保守主義に支えられているが、オンライン排外主義は、社会が右傾化する流れの中で生じたポピュリズム型の排外主義ではないかと永吉さんはみる

 「ネット右翼のように安全保障や憲法、歴史認識についてまとまった思想を持つにはある程度の勉強が必要だが、嫌中嫌韓などの排外思想だけならば気軽に流布できる一面があるため、オンライン排外主義者は今後広がりを見せるのではないか」

 また、ネット右翼やオンライン排外主義者にはいずれも、経営者や自営業者が多い傾向がみられ、必ずしも低所得層や雇用不安定層には限らないことも浮かび上がった。ネット右翼は一般的に、家族や地域とつながりのない層が多いと言われることもあるが、調査結果によると、婚姻状態や相談相手の有無による影響も見られなかったという。(河村能宏)

■ネット右翼とオンライン排外主義者
(1)排外主義的傾向がある層……21・5%(2)ネットで政治的議論をする層……20・2%(3)政治的保守志向がある層……12・8%
(1)(2)(3)すべて満たす「ネット右翼」……1・7%
(1)(2)のみ満たす「オンライン排外主義者」……3・0%
※東北大・永吉希久子准教授の分析から