(時事ジャーナル 韓国語 2018/10/01)

「私たちは貿易で黒字を出す国だ。しかし、持続的に赤字を出す分野もある。その中で代表的なものが観光だ。」

イ・ナギョン(李洛淵)国務総理[首相]は7月11日の『第2次国家観光戦略会議』でこのように発言を始めた。イ総理のすぐ次の言葉こうだ。「私たちの観光収支は17年間赤字を続けている。特に昨年の観光赤字は138億ドルで、一昨年の赤字65億ドルの2倍を越える。軽く見過ごせない。」

138億ドルという赤字規模は、為替レートを1ドルあたり1,100ウォンで計算しても15兆ウォンを越える途方もない数値だ。最近の韓国観光産業の厳しい現実を率直に吐露したわけだ。

合計2,675字分量で行われたイ総理の冒頭発言のうち、統計の引用を除けば唯一2回以上登場した国がある。まさに『日本』である。イ総理は日本を『観光大国』と表現した。それと共に韓国が日本に学ぶ点が多いとし、地域観光の育成などを代案として提示した

ところがおかしい。少し前まで日本は韓国より観光産業が遅れているという評価を受けていた。わずか5~6年前まで日本政府とメディアは韓日両国の観光競争力を比較して「韓国に学ばなければならない」と口を揃えていた

◇2015年、日本に外国人観光客数逆転される

統計を見れば明らかな現実があらわれる。世界観光機関によると、2012年(韓国1,114万人、日本836万人)だけでも韓国が少なくない差でリードした外国人観光客数は、2014年(韓国1,420万人、日本1,341万人)を経て、2015年(韓国1,323万人、日本1,974万人)に逆転された。以後、差はますます広がった

2016年に韓国を訪れた外国人観光客は1,724万人にとどまった一方、日本は2,404万人に達した。昨年にはサードなどの影響でむしろ韓国を訪れた外国人観光客は1,334万人に減った。その間日本は2,869万人と格差をさらに広げた。昨年の韓日間の外国人観光客数の差は1,500万人を越える。
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単純に外国人観光客数に差があるのではない。観光収入はもっと大きな差がある。両国の観光収入はすでに2010年、それぞれ103億ドルと132億ドルと少なくない差が出た。ところが、両国の観光収入は以後、着実に広がり、韓日間の外国人観光客数がひっくり返った翌年の2016年には、韓国173億ドル、日本307億ドルと顕著な差を見せ始める。昨年には韓国134億ドル、日本341億ドルと2.5倍以上の差を記録した
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両国の観光競争力は完全に逆転した。世界経済フォーラムが140か国余りを対象に調査した国家別観光競争力の順位を見ると、2015年に韓国は29位、日本は9位であった。昨年、韓国は19位、日本は4位だ。明確な差がある。イ総理が日本を『観光大国』と表現し、日本に学ばなければならないとしたのには、こうした『現実』が含まれているのだ

いったいその間、どんなことが起こったのか。どんな理由でこのように差が広がったのか。時事ジャーナルの取材によると、学界と専門家たちは日本の『円安効果』や韓国の『安保不安』など様々な分析を出したが、共通して両国政府が観光産業を眺める観点と戦略の差が今の差を招いたと指摘した

日本政府は、2000年代から着実に観光産業に対する意志を強く表明してきた。2003年に小泉純一郎元総理は、海外観光客誘致のための『ようこそジャパン(オソオセヨ日本)』[YŌKOSO! JAPAN]プロジェクトを汎政府的に展開しはじめた。さらに日本は、2007年に『観光立国』を標榜した後は、入国ハードルを下げるために絶えず努力してきた。2008年には国土交通省の一局に過ぎなかった観光局を観光庁に昇格させた。

安倍晋三総理も観光振興に邁進している。安倍総理は「観光は成長戦略の大きな柱」とし、2012年末の再執権以降から観光産業に全力を尽くしている。彼は再執権後、直ちに自らが議長を務める『観光立国推進閣僚会議』を新設し、日本観光産業のコントロールタワーが自分であることを周囲に知らせた。2015年には『明日の日本を支える観光ビジョン構想会議』という会議体制も作り、観光産業を持続可能な成長戦略に持っていくという意志も表明した。

◇日本、高齢化の代案として観光産業育成

日本政府が観光産業に全力を尽くす理由は何か。観光産業が日本が直面している高齢化という途方もない問題を突破できる解決策と見ているためだ。イ総理が「日本に学ぼう」と話した脈絡もまさにここにある。イ総理は「日本は韓国より先に高齢化と人口減少に入った。地方消滅という用語が韓国より先に出てきたのも日本であった。日本の地方自治体は観光に死活をかけている」と話した。

特にイ総理は「人口減少と高齢化という経済的弊害を補完する最も有力な方法が観光振興」と強調した。人口減少と高齢化は消費と生産、流通を同時に萎縮させるが、観光は流動人口、特に相対的に若い流動人口を流入して消費と流通を増やし、生産を刺激するという説明だ。イ総理は「固定人口に比べて流動人口は消費性向が高い。金遣いが良い」とし「そのため観光は雇用誘発効果が非常に高い。観光は雇用を多く創出する」と説明した。政府の分析によれば、10億ウォンを投資した際に増える就業者は、製造業は8.8人だが、観光は18.9人だ。

それなら韓国はどうだったのだろうか。パク・クネ(朴槿恵)政府が発足した2013年、大統領主催の『観光振興拡大会議』が開設された。大統領主催の観光関連会議体制が構成されたが、『創造経済』に隠れて観光産業に対する議論は遅々として進まなかった。最初の会議はしばらく後である2016年6月に開かれた。パク元大統領は会議で「悪魔はディテールにいる」という格言を引用し、ぼったくりと不親切をなくそうというメッセージを投げかけた。これだけだった。パク・クネ政府は文化と観光の結合に傍点を置くという方向は提示したが、手に付く政策は出せなかった。

ムン・ジェイン(文在寅)政府も観光産業に特別な意志を表明していない。2017年に発足したムン・ジェイン政府は、青瓦台[大統領府]秘書室を改編して観光振興秘書官をなくした。観光秘書官は政権ごとに差はあるが、キム・デジュン(金大中)、ノ・ムヒョン(盧武鉉)政府の時はもちろん、保守政府の時も職制上命脈を維持してきたが、ムン・ジェイン政府になってなくなったのだ。国家観光戦略会議も当初、大統領傘下の機構で推進されたが、結局、国務総理傘下の機構に格下げされた。安倍総理が直接コントロールタワーを自認して走るのとは明らかに比較される部分だ

これに対し、キム・ホンジュ(金烘主)韓国観光協会中央会会長は去る7月、国家観光戦略会議に参加して「青瓦台に観光秘書官制度を復元してほしい」と建議した。専門家たちも憂慮の視線を送る。イ・フン漢陽大観光学部教授は「大統領が観光産業に直接力を与えるシグナルを送ってこそ、部処[省庁]間の調整と協力を通じて政策が推進力を得ることができるが、今の政府の姿には物足りなさがある」と話した。

政府が事実上、手を離している間、韓国観光産業は『低価格観光』『ソウル・済州集中化』など悪いイメージが固定化しているという分析が多い。もう中国人に韓国観光は“ダンピング”で行かなければならないというのが常識だ。中国旅行会社は韓国観光商品を1泊あたり5万~10万ウォン台で販売している。宿泊費も出ないこのような価格の商品が可能な理由は人頭税のためだ。

『人頭税』というのは、韓国旅行会社が旅行客を誘致するために中国旅行会社に渡すお金で、韓国旅行の質を落とす慢性的な弊害として挙げられている。韓国旅行会社はこのお金を埋めるため、観光客を免税店などに『ペンペンイショッピング』[お土産屋つれ回し]にして、結局、これらは悪い印象だけを受けたまま、再び韓国を訪れなくなる悪循環を生む

◇観光産業に大きな意志表明しないムン大統領

『ソウル・済州集中化』現象も深刻だ。観光客を相手にアンケート調査をして見ると、韓国旅行でソウルと済州の他に訪問した都市を見るのは難しい。一方、日本は違う。日本旅行も3大都市圏(東京・大阪・名古屋)に集中しているのは事実だが、日本政府のたゆまぬ努力で最近このような傾向が変わってきている。

アウトバウンド(韓国人の海外観光)面も深刻だ。『旅行は海外旅行』という認識が固まっている。韓国観光公社によれば、昨年の海外旅行客は2,650万人に達した。外来客(1,334万人)の2倍に達する。今年もこのような傾向は続いている。今年7月までの海外旅行客は1,681万人を越えるが、外来客は847万人にとどまっている。

政府も一歩遅れて地方空港を活性化して地域観光コンテンツを増やすなど、『ソウル・済州集中化』問題を解決するとし、対策作りに忙しい姿だ。だが、時事ジャーナルの取材の結果、観光業界は政府が提示した対策に大きな期待を示していない。匿名を要求したある旅行会社代表は「第2次国家観光戦略会議をしたことも知らなかった」とし「政府の対策をずっと見てきたが内容は良かったよ。ところが『どのように』がない。たとえば『幽霊地方空港』問題の解決なしにどのように地方観光を活性化するというのかについての内容がない。結局、会議のための会議をしたのではないのかと思う」と愚痴をこぼした。実際に文化体育観光部[省に相当]担当関係者も時事ジャーナルとの通話で、地方空港問題に特別な代案を提示できないまま「担当部処である国土交通部と緊密に協議している」とだけ述べた。(機械翻訳 若干修正)