(朝日新聞 2018/09/17)

 防衛省が海上自衛隊の潜水艦を南シナ海へ極秘派遣し、東南アジア周辺を長期航海中の護衛艦の部隊と合流させて、13日に対潜水艦戦を想定した訓練を実施したことが分かった。海自の対潜戦訓練は通常、日本の周辺海域で行われており、中国が軍事拠点化を進める南シナ海に潜水艦を派遣して実施したのは初めて

 複数の政府関係者が明らかにした。南シナ海は日本の商船も行き交う重要な海上交通路だが、中国が軍事力を背景に複数の岩礁を埋め立てて人工島を造成し、軍事拠点化や実効支配を強めている。今回の訓練は秘密裏に行われたが、事後的に実施を発表する方向で検討している。公海の「航行の自由」を強くアピールし、中国を牽制(けんせい)する狙いがあるとみられる

 政府関係者によると、派遣したのは海自の潜水艦「くろしお」(SS-596 竣工2004年(平成16年))と、護衛艦「かが」「いなづま」「すずつき」の計4隻

 くろしおは8月27日に海自呉基地(広島県)を出港。東シナ海から台湾、フィリピン間のバシー海峡を通って南シナ海に入った。防衛省はこれまで、くろしおの動向について一切公表していない

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▲海自呉基地から南シナ海へ向けて航行する潜水艦「くろしお」=8月27日午前、広島県江田島市、土居貴輝撮影

 一方、かがなど3隻の護衛艦は8月26日に呉基地や佐世保基地(長崎県)を出港。バシー海峡から南シナ海へ入った。その後、フィリピン周辺で米海軍の原子力空母ロナルド・レーガンの艦隊やフィリピン海軍と共同訓練をしながら、10月末までの予定で南シナ海やインド洋の長期航海を続けている。かがは、海自最大の護衛艦(基準排水量・1万9950トン)で、空母化が検討されている「いずも」と同型の護衛艦だ。

 くろしおは、かがなど3隻の艦隊と別行動をとってきていたが、13日に南シナ海の公海海域に集結。護衛艦や艦載ヘリコプターがソナーなどを使って潜水艦を見つける動きや、潜水艦側が探知されないよう護衛艦に近づく戦術の確認など、対潜水艦戦を想定した実戦的な訓練をしたという。訓練は、中国が南シナ海の中で自国の権利が及ぶ境界と主張する「9段線」内の海域で実施された。

 政府関係者は「公海上での訓練は国際法の『航行の自由』にのっとった正当な活動だ」と話している。

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 また、くろしおは17日にも、ベトナム中南部にある南シナ海防衛の最重要拠点・カムランに海自の潜水艦として初めて入港するカムラン湾は中国とベトナム、フィリピンなどが領有権を争う南シナ海・南沙(スプラトリー)諸島に近い。対中国を念頭に、日越の防衛協力強化を印象づける狙いもある。

 中国は南沙(スプラトリー)諸島の人工島に滑走路を建設したほか、西沙(パラセル)諸島に地対空ミサイルを配備。フィリピン沖のスカボロー礁にも艦船を配備するなど実効支配を強めている。海南島には弾道ミサイルを発射できる原子力潜水艦の基地を造り原潜を配備しているとされる。(編集委員・土居貴輝)


(朝日新聞 2018/09/17)

 中国が軍事拠点化を進める南シナ海で実施された海上自衛隊の潜水艦による「極秘訓練」。安倍政権の「自由で開かれたインド太平洋戦略」の一環で、中国による一方的な現状変更に歯止めをかける狙いとみられるが、洋上の緊迫は高まっており、軍事的衝突をどう回避するかが課題だ

 南シナ海は日本の海上交通路の要衝で「死活的に重要な海域」(村川豊海上幕僚長)だが、弾道ミサイルを発射できる中国の原子力潜水艦の拠点にもなっている。自衛隊幹部は、「ここでミサイル原潜の動きを封じ込めないと、バシー海峡を通って自由に太平洋に進出できる状態となる。日米両国に重要な太平洋の安全保障に極めて大きな影響がある」と話す

 このため、防衛省は対中国で連携できる国を増やそうと、ベトナムやフィリピンなど南シナ海周辺国との連携を強めてきた。海賊対処のためソマリア沖に派遣された海自の艦艇が往復時に立ち寄って共同訓練をしたり、親善訪問や能力構築支援、練習機の移転などを進めたりしてきた。

 今回、「隠密行動」に定評がある海自の潜水艦を南シナ海へ派遣し、海自独自の対潜訓練を実施したことは、「これまでより一歩踏み込んだ行動」(海自幹部)と言える。ただ、中国の人工島周辺などの海空域に戦略爆撃機や駆逐艦などを展開する米軍の「航行の自由作戦」のような強硬的な行動とは一線を画し、中国に一定の配慮も示した。政府関係者は「南シナ海に『海自の潜水艦がいるかもしれない』と中国に意識させることが大きな抑止力となる」と指摘する。

 ただ、中国が軍事力を背景とした実効支配を緩める気配はない。政府関係者によると、先に南シナ海に入っていた海自の護衛艦部隊に対し、中国海軍は複数の艦艇で追尾するなど「監視」を続けているという。今後、日本が南シナ海での自衛隊の活動を増やせば、東シナ海と同様に南シナ海でも日中間で情勢が緊迫化する可能性もある。

 日中両政府は6月から、自衛隊と中国軍が海空域で偶発的に衝突する事態を避けるため、連絡体制「海空連絡メカニズム」(ホットライン)の運用を始めた。国際法で認められた「航行の自由」を守る取り組みを毅然(きぜん)と進める一方、それが軍事的な緊張につながらないよう、両国がホットラインの実効性を高めていく努力が重要だ。(編集委員・土居貴輝)

■南シナ海の周辺国との防衛協力・交流の例

・フィリピン  海自練習機の無償譲渡やパイロットへの教育、捜索救難などの共同訓練、ドゥテルテ大統領の護衛艦「いずも」への乗艦、施設、艦艇の整備などに関する要員の研修
・タイ     多国間共同演習(コブラ・ゴールド)への参加、空自輸送機の訪問
・インドネシア 海洋に関する国際法、国際航空法に関する人材育成や能力構築支援
・シンガポール 空自輸送機の訪問、掃海、潜水艦救難などの共同訓練
・ベトナム   海自護衛艦の寄港、潜水医学、航空救難、サイバーセキュリティーの分野の人材育成
・ミャンマ   将官級幹部の交流、人道支援・災害救援、航空気象に関するセミナー
・ラオス    捜索救助・衛生活動に関する支援・東ティモール 工兵部隊に施設建設などの技術指導
・マレーシア  人道支援、災害救援分野の能力構築支援