【こちら特報部】名護市長選で敗れた稲嶺陣営振り返る 「選挙応援」の難しさ
(東京新聞 2018/08/28)

 二月の沖縄県名護市長選で辺野古の新基地建設反対を掲げて敗れた稲嶺進氏(七三)の支援者が、本土や市外から応援に来た人たちをまとめられなかったと分析している。住宅地でマイクを使うような一部の言動が反感を買ったというのだ。選挙応援の難しさは、政権与党の争点隠しとともに各地で指摘されている。「何とかしたい」と駆け付ける人たちが、気を配らなくてはならないことは何なのか。(安藤恭子、皆川剛)

◇「上から目線」住民反感
◇住宅地でマイク 足らない配慮に苦情

 「『稲嶺氏を応援するハンドマイクの音がうるさくて、生徒が受験勉強をできない。もう稲嶺氏には投票しない』と、市内の中学校長から電話を受けた」

 名護市長選で稲嶺氏の選挙事務所にいた元後援会事務局長、島袋正敏さん(七四)=名護市=が選挙戦を振り返る。別の保育所からは「子どもたちがお昼寝できない」とのクレームも。告別式が行われていた家の近くでも演説していて「無神経」と苦情が入ったという

 これらは選対が仕切った選挙運動ではなかった。「本土や県内から来た人たちが、勝手にあちこちでつじ演説をしていた」。投票までの約一カ月間に「名護で負けてはいけない!」と、全国から多くの有志が応援に駆けつけた。延べ二千人以上と選対はみる

 「関西弁と分かると、迷惑がかかる。ビラ配りなど、話さなくて済む手伝いをした」と気を使った人もいたが、そうでない人もいた。リュックに団体名を書いたのぼりを掲げて立つ。街頭で三線(さんしん)やギターを弾く。市長選と関係なく「安保反対」といった主張を繰り返すなどだ。市街地で店番をしていた女性(七三)は「外の人に投票を説得されてもね…。反論すれば終わらないから、ハイハイって聞いてます」とあきれる

 「応援に来た人や苦情の対応で人手が足りなくなり、力をそがれた。災害ボランティアと同じ。地域のニーズに応じてもらわなければ」と島袋さんは複雑な表情を見せる。稲嶺氏の選対の一人、社会保険労務士の吉田務(七一)が気になったのは、市民に「名護はそれでいいんですか」と訴える「上から目線」だ。「手弁当で駆けつけてくれるのはうれしいが、住んでいる側は責められているようで良い気分はしない」

 米軍キャンプ・シュワブゲート前では二十七日も、汗ばむ日差しの中で数十人が座り込んでいた。市長選で稲嶺氏の応援に駆けつけた本部町の高校教員原田みき子さん(六九)は「市外の人たちのトラブルは聞いているが、応援者の数は力になる。本土に見捨てられていない、と勇気をもらえる」と訴える。「ただ、沖縄には米軍基地に勤める人もいる。私は反対するにしても、『子どもを守ろう』などと、誰もがうなずける普遍的なメッセージを考えている」

 これに対し、政権与党が推して当選した渡具知武豊氏(五七)の陣営が徹底したのが、自公の連携、官邸主導、争点隠し、期日前投票の「勝利の方程式」だ。応援組も知人の紹介を基に有権者宅の状況を把握。電話でアポを取った上で訪問し、一緒に期日前投票に向かうなどマメさが際だった

 一方、渡具知氏が発表した政策に「辺野古」の文言はなかった。新基地建設の是非については「司法の判断を注視する」と繰り返し、「辺野古の『へ』の字も言わない」と争点化を避けた。それを支えるように「対立は嫌だよね」とソフトなイメージのメッセージが、高校生の間にSNSなどで広まったという。

 渡具知氏を応援した名護市議は「基地反対の理想を掲げるだけの稲嶺市政の八年間で、市民は疲弊した。保育料や給食費無料化など、目に見えて子育て世帯を支える公約が効いた」と手応えを語る。市のごみの複雑な分別法への批判も共感を呼んだ。

 名護市の無職女性(六三)は、自民の小泉進次郎衆院議員が市役所近くで渡具知氏の応援演説をして数百人を集めた後、そのまま観衆が期日前投票所に入っていく様子を見たという。「上手なやり方と思う。でも、進次郎さんやごみの出し方で、市長が決まっていくなんてね」と首をかしげる。

 吉田さんは政権与党の「勝利の方程式」が二〇一七年の浦添、うるまの市長選でも繰り広げられ、自公が推す候補が勝ってきたとみる。「その究極が名護市長選。きっと県知事選でも同じことが繰り返される」

◇「自己決定権」への介入
◇本土の見方 押し付けても…

 一連の選挙応援で求められていたのは、地域の事情に配慮した繊細さだ。一三年以来、沖縄に集中する米軍基地の本土引き取りを提唱している東京大の高橋哲哉教授(哲学)は「琉球処分や沖縄戦、戦後の占領。基地負担の問題はそうした植民地主義の現在的な表れだ」と考えている。

 翁長雄志知事が一五年の国連人権理事会で「自己決定権がないがしろにされている」と述べた沖縄。選挙という地方自治の場で県外の人が自身の考えを声高に主張するのは「自分たちのことを自分たちで決められないから怒っているのに、自己決定権を取り戻す場にまで介入することになりかねない」と高橋氏はみる。

 「本土の見方に立ち、相手を思い通りにしようとする態度に沖縄の人はずっとさらされてきた。善意や正義感から発する主張でも、そうした論理の押しつけとなりうる。応援する人は沖縄の人々のサポートに徹するべきだろう」

◇新潟知事選でも野党幹部に批判

 沖縄に限らず、中央の政治の論理を選挙に持ち込むあまり、地方自治の争点がないがしろにされる弊害は指摘されている。

 六月の新潟県知事選。自公が支持した元副知事に、野党六党派が推薦した元県議の候補が三万七千票の差で敗れた。政党色を薄め、事業誘致による地方の経済活性化を訴えた元副知事に対し、元県議側は応援に駆けつけた野党幹部が前面に出て安倍政権批判を展開することに力を割き、ネットで批判が相次いだ

 野党側の選対幹部を務めた新潟国際情報大の佐々木寛教授(政治学)は、「有権者に『新潟で闘われても困ります』と受け取られた」と振り返る。

 安倍政権は全国の原発で再稼働を進めている。当初争点と目された柏崎刈羽原発の再稼働を巡っては、両候補とも「前知事が進めた安全性の検証を継続する」として立場の違いは明確にならなかったが、立地県で与党候補が勝つことは象徴的な意味を持つ。

 加えて、新潟県知事選は、森友学園を巡る財務省の文書改ざん問題が発覚して以降、与野党の事実上の一騎打ちの構図となった初の大型地方選でもあった。与党が支持する候補の当落は「政権の信任か不信任か」という意味も帯びていたが、そうした知事選の意義が県民に浸透しなかったと佐々木氏は分析する。

 「(知事選で)有権者に国政を意識せよというのは過大な要求でもある。なぜ中央の問題を訴えるのか、その理由の伝え方を工夫すべきだった」

◇来月沖縄知事選「地方政治は地方のもの」

 市民も政治家も、選挙の応援で違和感や反発を招く事態に直面している。

 山梨学院大の江藤俊昭教授(地域政治論)は「沖縄も新潟も、国政と地方政治の争点が重なる面があるのは確かだが、地方自治は地方の領分だという原則に照らした節度が必要だ」と指摘する

 九月には沖縄県知事選があり、今後も重要選挙がめじろ押しだ。「野党幹部の応援が必要な局面もあるだろう。野党同士で何の訴えに力を入れるかといった議論は活発にしたらよい。ただ、有権者に対しては地方の争点がまずあって、国政がどのようにその争点に影響を与えているかという順序で考えを伝えてほしい」

〈デスクメモ〉
 厚木基地の米空母艦載機移駐が争点となった二〇〇八年の岩国市長選。反対する市長に国は補助金カットをちらつかせ、選挙戦では「岩国は倒産」と書かれたビラがまかれた。政権与党が推す新人が当選し、艦載機移駐は今春までに完了。「アメとムチ」の仕打ちが忘れられない。(本)2018・8・28

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「ハングルが書かれた横断幕は使わない」も必要ですね。

沖縄知事選のほか宜野湾市長選も9月30日に投開票(市長選は佐喜真淳氏が知事選出馬のため市長を辞職したため)。

辺野古(名護市)への移設計画の普天間基地は宜野湾市なので市長選も気になりますね。