米年次報告書 中国海兵隊3万人
(読売新聞 2018/08/18)

20年まで3倍増強 ステルス機懸念

【ワシントン=海谷道隆】米国防総省は16日、中国の軍事・安全保障に関する年次報告書を公表し、急速に能力を高める中国軍への警戒感を鮮明にした。2017年の最も重要な変化の一つとして、上陸作戦などを担う中国海軍陸戦隊(海兵隊)の増強を挙げた

 報告書は、陸戦隊について、2020年までに7個旅団計3万人以上に拡大すると予測した。2個旅団計1万人の規模から3倍に膨れ上がることになる。

 陸戦隊の拡大は、台湾や沖縄県・尖閣諸島などに対する作戦能力向上を視野に入れた動きの可能性がある。部隊の展開能力と攻撃能力を向上させるため、航空旅団と統合することもあり得るとしている。

 報告書はまた、中国の爆撃機が、この3年ほどで太平洋地域での活動範囲を急速に広げていると指摘した。「重要な海洋地域での経験を重ね、米国や日本などの同盟国を標的に想定した訓練を行っているとみられる」という。今後は、グアムの米軍基地などに対する攻撃を想定した訓練を実施する可能性もあるとしている。

 中国軍の技術的進歩にも強い警戒感を示した。中国は、核兵器搭載が可能でステルス性能を持つ長距離戦略爆撃機の開発を進めており、報告書は「10年以内に配備されうる」と分析した

 中国軍が装備近代化の手段として「海外直接投資やサイバー攻撃による技術窃盗などを用いている」とも指摘した。報告書は国防総省が米議会に提出するために毎年まとめている。

≪米報告書のポイント≫
 ▽中国海軍陸戦隊(海兵隊)は2020年までに3万人を超える規模に
 ▽ステルス長距離戦略爆撃機の実戦配備は10年以内か
 ▽中国軍の爆撃機が米軍基地攻撃を想定した訓練を行っている


〈スキャナー〉米軍 揺らぐ優位性
(読売新聞 2018/08/18)

中国 部隊・兵器を急拡大

 米国防総省が16日に発表した中国の軍事・安全保障に関する年次報告書は、質と量の両面で急拡大する中国軍の姿とともに、アジア太平洋における米軍の圧倒的優位が揺らぎつつある現実を浮き彫りにした。トランプ政権は「米軍再建」を進め、大国間競争に打ち勝つ構えだ。(ワシントン 海谷道隆、北京 中川孝之)

■攻撃能力誇示

「中国軍は(南西諸島とフィリピンを結ぶ)第1列島線を越えた地域での活動を拡大し、米国やその同盟国への攻撃能力を誇示しようとする可能性がある」

 報告書は、中国軍の爆撃機の作戦領域が急速に拡大しているとして、その動向を「特記項目」として示した。中国軍航空機が日本海や西太平洋、南シナ海に飛来したここ5年ほどの実例を列挙している。

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 中国軍の脅威増大は、個々の兵器類の開発状況からも明らかだ。報告書は、ステルス性能を持ち核搭載ができる長距離戦略爆撃機が、中国軍に10年以内に配備されを可能性があるとした。

 長距離での打撃能力を高める中国空軍について「米空軍との差を縮め、徐々に長年にわたる米国の技術的優位を脅かしている」とも警鐘を鳴らした。

 米国が北朝鮮に軍事的圧力をかける際、米空軍のステルス戦略爆撃機B2は大きな役割を果たした。その米軍に対抗し、着々と力を蓄える中国軍航空戦力の姿が報告書から浮かび上がる。

 日本や台湾など、中国から海を挟んだ陸地にとって大きな脅威になり得る陸戦隊(海兵隊)の拡充についても「2017年における海軍の最も重要な変革の一つ」と位置づけた。

 陸戦隊の詳しい配置などは未公表だが、台湾上陸を想定しているのは確実だ。台湾対岸の福建省泉州では、7月末から今月にかけ、ロシア軍などとの軍事交流を名目にした上陸訓練が実施され、陸戦隊が参加した。

 中国軍の動向に詳しい関係筋によれば、中国は建国後から、第2次大戦末期に硫黄島上陸作戦を敢行した米海兵隊を強く意識し、同様の部隊整備を目指してきた。いま陸戦隊の急拡大を進める狙いについて、同筋は「習近平(シージンピン)国家主席が軍の2大戦略目標である台湾統一と南シナ海の島嶼(とうしょ)支配に本腰を入れた証拠」とみる。かつては陸軍兵士を陸戦隊員に配置転換するケースが目立ったが、最近では、陸戦隊生え抜きの兵士育成に力を入れているという。

■米、対抗の構え

 トランプ政権は、中国を長期的な最大の脅威と位置づけ、正面から「力」で対抗する構えだ。

 「地球上のいかなる敵も米軍の強さ、勇気、技術と競合できない」

 トランプ大統領は13日の演説でこう訴え、77機の最新鋭ステルス戦闘機F35の調達などで米軍の増強を進める方針を打ち出した。19会計年度(18年10月~19年9月)の国防予算は、この9年間で最大規模となる約7160億㌦(約79兆円)となる見通しだ。

 ただ、米国1か国での対処には限界もある。米軍の戦力が世界各地に分散されているのに対し、中国軍はインド太平洋に戦力を集中できる。中国によるサイバー攻撃への対応強化も急務だ。米軍は日本、オーストラリア、インドなどとの連携を強め、地域の長期的安定を維持していく方針だ


◇日本、離島防衛強化へ

 日本政府は、米国防総省の報告書で中国軍の増強が進んでいることが明らかにされたことを受け、中国への警戒を強めている。年末には防衛政策の基本指針「防衛計画の大綱」(防衛大綱)を見直し、島嶼(とうしょ)防衛力のさらなる向上や日米同盟の強化を図る方針だ。

 中国海軍の陸戦隊が拡大されることについて、防衛省幹部は「中国が水陸両用作戦に力を入れていることが改めて明らかになった。島嶼防衛の観点から注目すべき事象だ」と指摘した。

 防衛省は16日、自民党の国防部会などの合同会議で、2019年度予算の概算要求に向けた重点項目を示した。防衛大綱の骨格となるもので、中国を念頭に「海空領域の能力強化」や「機動・展開能力の強化」などを明記した

 海空領域の作戦で重視するのが、射程の長いミサイルの取得や開発による打撃力強化だ。18年度予算には、空自の戦闘機に搭載する射程約500~900キロ・メートルの3種類の長距離巡航ミサイル導入に向けた関連経費が盛り込まれた。地対地ミサイル「島嶼防衛用高速滑空弾」の研究も進めている。

 離島奪還作戦の能力強化も図る。今年3月には陸上自衛隊の水陸両用部隊「水陸機動団」が新設された。現在は2100人規模だが、21年度頃には約3000人に拡充する方針だ。中国軍の爆撃機の活動活発化に対しては、最新鋭ステルス戦闘機「F35A」の追加導入などで対処能力を向上させる。

 ただ、日本単独で中国に対抗するのには限界がある。防衛省幹部は「自衛隊と米軍の共同訓練を強化するなど、日米同盟の抑止力を高めていくしかない」と強調した。(政治部 谷川広二郎)