(読売新聞 2018/08/03)

 ソウル中央地検は2日、韓国人元徴用工が日本企業を相手に損害賠償を求めた訴訟を巡り、韓国大法院(最高裁)が、日本との関係に配慮を求める朴槿恵パククネ政権時代の外交省の意向に応じて判決を不当に遅らせた疑いがあるとして、外交省庁舎を捜索した

 検察は、当時の最高裁が裁判官の海外公館への派遣を増やすために便宜を図ったとみている。韓国メディアの報道で7月、最高裁が当時、日本との関係を考慮すべきだという外交省の求めを受けて判決日程を遅らせようとしたという内部文書の存在が明らかになっていた

 事実上止まっていた元徴用工の韓国人男性4人が新日鉄住金を相手取った訴訟を巡り、最高裁は7月27日、判事全員の合議で進めることを決めた。検察が外交省へ強制捜査したことで、訴訟を巡る今回の疑惑が「朴政権時代の不正」との世論の批判を集め、最高裁の判決結果にも影響を与える可能性がある。


司法介入疑い 徴用工日韓の火種
(読売新聞 2018/08/03)

賠償へ向かえば打撃

 韓国人元徴用工が日本企業を相手に損害賠償を求めた訴訟で、韓国検察は、韓国外交省が大法院(最高裁)に判決を遅らせるよう働きかけた疑惑の追及に乗り出した。約5年間止まっていた最高裁の審理が、賠償命令判決の確定に向けて進むことになれば、日韓関係に影響を及ぼすことになりそうだ

 訴訟は、元徴用工が2000年と05年にそれぞれ三菱重工業と新日本製鉄(現・新日鉄住金)を相手取り損害賠償や未払い賃金を請求して提訴した。日韓請求権・経済協力協定で元徴用工の請求権が消滅したか否かが争点となり、1、2審は原告側が敗訴した。

 しかし、最高裁が12年5月に初めて個人の請求権は消滅していないとの判断を示し、下級審判決をそれぞれ破棄した。差し戻し後、ソウル、釜山両高裁は13年7月に1人あたり1億ウォン(約1000万円)、8000万ウォン(約800万円)の支払いを命じた。両社は上告したが、最高裁での審理は事実上約5年間止まっていた

 再び徴用工訴訟に焦点があたったのは、韓国紙・東亜日報が7月23日、最高裁が日韓関係に配慮する外交省に便宜を図り、判決の日程を延期させようとしたと報じたことがきっかけだ。最高裁は見返りに、海外公館に派遣する裁判官の増員や裁判官の海外出張時の待遇向上を求めたと東亜日報は伝え、判決遅延の背景に不当な裏取引があったとの疑惑を提起した

 文在寅(ムンジェイン)政権は、日韓関係への配慮もあって徴用工問題は請求権協定で解決済みとの立場を取りつつも、「大法院の判決を尊重しなければならない」(康京和(カンギョンファ)外相)との姿勢も打ち出している

 日本政府は、「元徴用工の請求権問題は日韓請求権協定で解決済みとの考えを崩すつもりはない」との立場だ。最高裁で賠償命令の判決が確定し、日本企業の財産が差し押さえられる事態になれば、元徴用工の遺族が集団訴訟に打って出たり、日本企業が韓国への進出を控えたりする事態になりかねず、日韓関係への打撃は計り知れない

 徴用工問題の行く末は、7月下旬に審理を進めることを決めた最高裁の判断にかかっているが、韓国世論の逆風の中で賠償命令の流れを覆すのは容易ではないとの見方もある

【クリップ】日韓請求権・経済協力協定

1965年6月に署名され、その年の12月に発効した、日韓国交正常化にあたって結ばれた協定。両国の賠償請求権問題が「完全かつ最終的に解決された」ことを確認した。日本は当時の韓国の国家予算の約2倍に相当する計5億ドル(無償3億ドル、借款2億ドル)の経済協力を行った。当時の朴正照(パク・チョンヒ)大統領はこれを基に道路やダムなどの社会資本整備を進め「漠江(ハンガン)の奇跡」と呼ばれる経済成長につなげた。

 1965年
 6月22日
 日韓が請求権協定に調印。請求・権問題が「完全かつ最終的に解決された」ことを確認
 12月18日  請求権協定が発効
 2000年
 5月1日
 元徴用工が三菱重工業を相手取り損害賠償請求訴訟を提訴
 05年
 2月28日
 元徴用工が新日本製鉄(現・新日鉄住金)を相手取り損害賠償請求訴訟を提訴
 8月26日  慮武鉉政権が日本政府に対する追加補償要求は困難と結論
 12年
 5月24日
 韓国大法院(最高裁)が元徴用工の個人請求権は消滅していないと判断
 13年
 7月10日
 ソウル高裁が新日鉄住金に元徴用工への賠償を命じる判決
 15年
 12月23日
 韓国憲法裁が、日韓請求権協定が財産権を保障する憲法に違反するかを問う訴訟で「審判の対象でない」と訴えを却下
 17年
 8月17日
 文在寅韓国大統領が就任100日の記者会見で、元徴用工の日本企業への個人請求権は消滅していないとの見解
 8月25日  文氏が就任100日の記者会見での発言を軌道修正し、日韓請求権協定で解決済みとの考えを安倍首相に伝える
 18年
 7月23日
 韓国紙の東亜日報が、外交省が最高裁を通じて元徴用工の訴訟に介入したと報道
 8月2日  韓国検察が外交省庁舎を捜索

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