ウイグル AI監視網 大規模暴動から9年
(読売新聞 2018/07/06)

 中国・新疆ウイグル自治区ウルムチで、死者197人(当局発表)を出した2009年7月の少数民族・ウイグル族の大規模暴動から、5日で9年となった

 イスラム教を信仰するウイグル族の管理強化や漢族とウイグル族との経済格差への不満などが暴動の背景にあるが、中国政府による強圧的な新疆統治はウルムチだけでなく、カシュガルやトルファンなど各地で今も変わらず続いている

 新疆ウイグル自治区は中国の「火薬庫」とも言え、習近平(シージンピン)政権は、人工知能(AI)を活用した最先端の顔認証システムと監視カメラも駆使してウイグル族を監視している。(新疆ウイグル自治区で、吉永亜希子)


ウイグル族を顔認証 大規模暴動9年
(読売新聞 2018/07/06)

当局、街中に監視カメラ 住民「息苦しい」

 中国でイスラム教を信仰するウイグル族が多く住む新疆ウイグル自治区で、当局が監視カメラと最新の顔認証技術を使い、住民への監視を強化している。2009年7月に区都ウルムチで起きたウイグル族による大規模暴動の再来は許さないとの習近平(シージンピン)政権の断固とした意志を反映した施策だが、変わらぬ強権統治にウイグル族の不満はくすぶり続けている。(新疆ウイグル自治区で、吉永亜希子)

◇「安全対策」

 「一日中見張られているようで、不気味だ」

 日本人にも人気の観光地・トルファンのバザール(市場)で、ウイグル族の30代の男性店主が、店に向けて設置された監視カメラを見上げてつぶやいた。「安全対策」として公安当局が設置したものだが、実際には店を訪れる人の顔データを集めているとみられ
る。

 漢族主体の当局とウイグル族の衝突は過去何度もあり、中国政府は「イスラム過激派によるテロ警戒」名目でウイグル族への監視を強めている。

 ウイグル族が集まるモスク(イスラム教礼拝所)周辺の監視は特に厳しい。カシュガル中心部の「エイティガール寺院」では、一帯に多数の監視カメラと複数の検問が設置されていた。武装警官が3人1組で頻繁に巡回し、緊張感が漂う。マスクをつけたまま中に入ろうとした記者に、係員は強い口調で言った。「顔が隠れてはいけない」――。

◇16万台

 自治区の中枢でもあるウルムチには16万台もの監視カメラが設置されている。中心部では、数メートル歩けば必ずと言っていいほど監視カメラが目に入る。顔を映されるのを嫌ってか、うつむき加減に歩くウイグル族も多い。最新の顔認証技術を使った監視態勢が敷かれていることと無関係ではなさそうだ。

 ウルムチの公安当局に顔認証システムを提供している民間IT企業「格霊深瞳信息技術有限公司」(本社・北京)によると、事前に登録した要警戒人物の顔が認識されると、公安当局に情報が瞬時に伝わる仕組みになっている

◇予算40倍

 自治区政府は17年、民間企業と連携した防犯対策事業に73.4億元(約1174億円)を投じた。15年は1億8000万元(約28億円)で、わずか2年で40倍以上に膨らんだことになる。顔認証など最新技術の導入を急ピッチで進めているためとみられている。

 ウイグル族の男性(22)は街頭で、警官によるスマートフォンの抜き打ち検査を何度も目撃した。保存データにイスラム過激派や反政府活動との関係を想起させるものがあれば、拘束される。誤解を避けるため、男性は折りたたみ式の携帯電話しか持たない。

 男性は声を潜めて言った。

 「今の暮らしは息苦しい。我々はただ、普通に生活しているだけなのに」

【クリップ】ウイグル族による大規模暴動
2009年6月、中国広東省の玩具工場でウイグル族と漢族の労働者が衝突した事件を発端に、新疆ウイグル自治区ウルムチで7月5日、ウイグル族の学生らが抗議デモを行った。一部が暴徒化して治安当局と衝突する大規模な暴動に発展し、当局発表で197人が死亡、1600人以上が負傷した。

漢族と対立 強い独立志向

 ウイグル族と漢族の対立はなぜ続くのか。

 新疆は18世紀に中国の統治下に組み入れられたが、1911年の武装蜂起に始まる辛亥革命などで分離・独立の機運が高まった。30~40年代にウイグル族を中心とした「東トルキスタン共和国」が生まれたこともあったが、49年の中華人民共和国建国後は新疆に軍が進駐し、分離・独立の動きは封じられた。

 55年に自治区が設置されると、自治区トップの共産党委員会書記に漢族が就くことが慣例化した。党は、分離・独立志向の強いウイグル族の管理を強める。学校では普通語(中国の標準語)が教えられ、独自の言語や宗教文化が失われると危機感を抱く人は多い。ウイグル族のタクシー運転手の男性(27)は「男性があごひげを伸ばすことが禁止された。信仰を守ることも難しくなっている」と顔を曇らせた。

 ウイグル族と漢族の経済格差も深刻だ。

 自治区は天然資源が豊富だが、開発は漢族主導で行われ、ウイグル族が恩恵に浴しているとは言い難い。街中で物ごいをするウイグル族の老人も少なくない。月収が4000元(約6万4000円)という20代のウイグル族の男性理髪師は「収入が少なく、結婚なんて考えられない」と嘆いた。

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2018年03月08日