(毎日新聞 2018/06/22)

◇金融庁 全銀行に報告命令

 日本と北朝鮮の企業・団体などによる合弁会社10社が、北朝鮮の不正送金やマネーロンダリング(資金洗浄)に関与している疑いがあるとして、金融庁は国内の全ての銀行と信用金庫、信用組合に対し、10社との取引の確認を求め、報告するよう命令を出した。日本の金融機関が国際的な経済制裁の抜け穴になっている恐れがある。違法な取引が判明すれば、金融機関に行政処分を出す可能性もある。【鳴海崇】

◇国連制裁 違反の疑い

 命令は18日付。10社が関係しているすべての口座情報と、2016年3月以降の取引記録を提出するよう命じた警察庁なども関連企業の実態調査に乗り出した模様だ

 関係者によると、10社は、国連安全保障理事会北朝鮮制裁委員会の専門家パネルの調べで判明した。同パネルが国連制裁の履行状況を調べたところ、北朝鮮の平壌(ピョンヤン)と元山(ウォンサン)、咸興(ハムフン)に所在する10社に、出入金を伴う活動の形跡が見つかったという。具体的な出入金額は不明だ。この10社は、半導体の製造に使われるステンレス鋼管や、音響装置、ピアノなどの製造会社のほか、朝鮮労働党のエネルギー政策を推進する会社も含まれている。日本からは、関東や関西地方にある食品販売会社や商社、建築資材販売会社、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の傘下会社などが出資などの形で参画していた

 国連安保理は17年9月の決議で、北朝鮮の団体や個人との間で設立されたすべての合弁会社や共同事業体の活動を禁じている。日本も独自制裁で、外為法により北朝鮮に向けた金銭の支払いを原則禁止している。このため専門家パネルは日本の国連代表部に対し、10社の存続の有無や、関連する北朝鮮籍の個人と団体、財産や従業員のリストを6月中に提出するよう要請した。これを受け外務省は関係省庁に調査を求めた。

 金融庁は、北朝鮮が10社を使って制裁違反の資金送金を行ったり、資金洗浄を繰り返したりしている恐れがあると判断。調査の結果、企業、金融機関に制裁違反が判明した場合、刑事訴追や行政処分の対象になる可能性がある。

〈解説〉
◇早急な対処不可欠

 国連安全保障理事会は、日朝合弁の10社が北朝鮮の「経済制裁逃れ」の隠れみのになっている可能性を独自調査により指摘した。金融機関が偽装工作を見抜けず、不正送金などに加担していた恐れもある。拉致問題の解決を最優先課題に掲げ、圧力を強く主導してきた日本政府は足をすくわれた格好で、早急な確認作業と対処が迫られている

 日本政府は米国や韓国と緊密に連携しながら、北朝鮮への人や物、金銭の流れを厳しく規制してきた。トランプ米大統領が金正恩朝鮮労働党委員長と初の米朝首脳会談に臨む前も、安倍晋三首相はトランプ氏とただちに制裁を綬和せず維持することを申し合わせた。北朝鮮はその裏をかくように、日朝の企業や団体による合弁会社を抜け道として使っていた可能性がある。

 とはいえ、もともと日本は資金洗浄やテロ資金の供与などにつながる不正送金について、チェック体制が不十分だと自覚していたことも事実だ。特に地方の銀行と信金、信組は対策の遅れが指摘され、各国の金融当局でつくる金融活動作業部会(FATF)による来年4~11月の審査をクリアできるか危ぶまれていたことから、金融庁は大規模な実態調査に乗り出している

 北朝鮮籍の企業・個人への監視が強まる一方で、近年国連などが警戒を強めていたのが、ペーパーカンパニーや合弁会社など、実体がわかりにくい会社・団体を利用した資金工作だった。巧妙化する手法への対策が急がれる。【鳴海崇】


(朝日新聞 2018/06/23)

 金融庁は、北朝鮮と日本の企業などによる合弁会社10社が、北朝鮮への不正な送金などに関わった疑いがあるとして、国内の全ての銀行と信用金庫、信用組合に対し、この10社との取引の有無を報告するよう命じた。北朝鮮への国際的な経済制裁の抜け道に日本の金融機関が使われていないか、調査を急ぐ。

 複数の関係者によると、10社は北朝鮮と日本の企業や団体の合弁会社として設立され、平壌などに所在。それぞれ音響装置やピアノ、ステンレス鋼管などを扱ったり、朝鮮労働党のエネルギー政策の実施を担ったりしているという。

 金融庁は大手銀行や地域金融機関に対し、10社のリストを提示。10社の口座の有無を調べ、見つかった場合は一定期間の取引記録を提出するよう求めた。金融庁の要求は、強制力がある「報告徴求命令」で、各金融機関はすでに同庁に回答したとみられる。取引が見つかった場合、金融庁は立ち入り検査に入り、行政処分を科す可能性がある。

 北朝鮮に対する日本独自の経済制裁は、北朝鮮への送金を原則禁止している。核・ミサイル開発への資金流出を防ぐためだ。問題の合弁10社が制裁の枠組みに違反し、送金やマネーロンダリング(資金洗浄)に関わっている疑いがある、との情報が日本の国連代表部から伝わり、金融庁は調査に踏み切った。

 日本の金融機関は「資金洗浄対策が遅れ気味だ」と指摘されてきた。来年には国際機関による日本の対策の審査も予定されており、金融庁は国内金融機関の対策が十分かどうかに神経をとがらせている。(榊原謙)
asahi20180623156468431 mainichi2018062201564864