(朝日新聞 2018/05/26)

 ■トランプ氏、大きな失敗

 マーク・フィッツパトリック氏(英国際戦略研究所米州エグゼクティブディレクター)

 首脳会談の「延期」ならば、準備が不十分だったのだから正しい判断だ。だが「中止」はひどい。トランプ米大統領の外交の大きな失敗と言わざるを得ない

 トランプ氏は、結果的に韓国の文在寅大統領を危険な立場に追いやった。米国と韓国の間に溝を作り出すもので、両国の仲を裂こうとする目的を持つ北朝鮮にとっての勝利となる。

 ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)が無条件で即時に核を放棄させる「リビア方式」を唱えるなど、政権内から異なるメッセージを発信し続けたのも問題で、北朝鮮の反応が悪くなった。トランプ氏が金正恩朝鮮労働党委員長に過度な期待感を持っていたのも失敗の要因だろう。

 今後、非常に心配なのが、トランプ氏の書簡にある「脅し」に対し、北朝鮮が悪い反応をすることだ。トランプ氏は米国の大規模な核能力に言及した。これに北朝鮮が対抗しようと、弾道ミサイル発射を再開する可能性がある。その場合、たとえ短距離であっても、トランプ氏は軍事的に対応しないといけないと考えるかもしれない。軍事的緊張が高まり、(米国の)軍事攻撃へとつながる恐れがある。(聞き手・園田耕司)

 ■より良い合意への決断

 千英宇(チョンヨンウ)氏(元韓国大統領府外交安保首席秘書官)

 トランプ米大統領が米朝首脳会談を中止したのは、より満足できる合意を目指すためにも賢明で、良い決断だった。事前の準備期間が短く、米国が望むような北朝鮮の完全な非核化に確信が持てなかったか、北朝鮮が無理な要求をしていたのだと思う。北朝鮮メディアの報道も「核軍縮交渉」を前提としたものだった。

 米国の中止決定を受け、北朝鮮がすぐに軍事的な挑発を再開するとは思わない。北朝鮮は経済発展を望んでおり、米国との対話は必要不可欠だからだ

 北朝鮮は「核兵器を搭載した大陸間弾道ミサイル(ICBM)は完成した」と宣言しており、軍事的な必要性にも迫られていない。米朝首脳会談の障害になることはしない。朝鮮半島が今後、危機的な状況に陥る可能性は低いだろう。

 一方で韓国の文在寅政権は、米朝合意への期待感が大きかっただけに、今回の事態に困惑している。だが、今回の中止劇は、より良い首脳合意を生み出すためのハプニングの一つだと受け止めれば良いだろう

 日韓両国は、北朝鮮の完全な非核化を達成するという米国の姿勢が揺らがないよう、結束して働きかけていくべきだ。(聞き手・牧野愛博) 

■双方の真意、見極め必要

 孫興傑氏(中国・吉林大学公共外交学院副院長〈国際政治〉)

 6月12日に首脳会談は開けなくなったと思うが、まだ完全に扉は閉まっていないと考える。トランプ大統領の書簡を読んでも、北朝鮮側の反応を見ても、相手のこれまでの対応を評価しているからだ。以前のようなののしり合いとは違う

 北朝鮮はいつでも、いかなる形式でも会えるとも言っているし、(中止についての)トランプ氏のツイートも感情的ではない。非核化の問題で合意できていないのは確かだが、双方の真意を見極める必要がある。

 ただ、トランプ氏が「大連の中朝首脳会談から北朝鮮の態度が変わった」などと中国を批判していることは理解できない。金正恩氏は中朝会談後にポンペオ米国務長官と会い、その後に米朝首脳会談の日程が決まっている。むしろ中国の後押しに感謝すべきだ。習近平(シーチンピン)国家主席は米朝首脳会談と朝鮮半島の非核化を明確に支持している。北朝鮮を米中貿易摩擦解決のためのカードにしているという見方に根拠はない

 中国は米朝両国と良好な関係を保っている。両国を仲介する重要な役割を果たしてきたと思うし、今後も果たしていくべきだ。だが、最終的には米朝の決断にかかっている。(聞き手・延与光貞)