(朝日新聞 2018/05/16)

 2016年夏に韓国に亡命した北朝鮮の太永浩(テヨンホ)元駐英公使が回顧録「3階書記室の暗号」(韓国語版)を15日付で出版した。即興的な指示を繰り返す金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長の素顔や容姿の美しい女性を指導者らの世話をする仕事に抜擢(ばってき)する仕組みなどを紹介した。

 題名は、北朝鮮を動かす中枢組織の指示や報告が全て暗号でなされ、その秘密を暴露したことによる。

 著作によれば、正恩氏の性格は性急で即興的という。15年5月、スッポン養殖場を現地指導した際、大量に死んだスッポンを見て「電気や飼料などの問題だというのは、お話にならない」と激怒。養殖場支配人は銃殺された。

 正恩氏と母親の故高英姫(コヨンヒ)氏は、祖父の金日成(キムイルソン)主席と面会できなかった。金正日(キムジョンイル)総書記の妹、金敬姫(キムギョンヒ)氏とその夫、張成沢(チャンソンテク)元国防副委員長が阻止したとされ、正恩氏は経済的な利権も手放さない張氏を恨んだという。

 太氏は15年、訪英した正恩氏の兄、金正哲(キムジョンチョル)氏を案内。太氏は14日の記者会見で「正哲氏が全く政治に関心がないことを確認した」と述べた。

 太氏は、正哲氏が大ファンだった英出身ギタリスト、エリック・クラプトン氏の平壌公演を進める指示も受けた。クラプトン氏の代理人は公演料として100万ユーロを要求。北朝鮮は払う意思を示したが、クラプトン氏側が「北朝鮮の人権状況を考慮するとすぐには訪問できない」と断ったという。

 14年8月には、英国の放送局が北朝鮮核問題を扱った番組を制作するという報道が流れた。当時、軍偵察総局長だった金英哲(キムヨンチョル)党副委員長が平壌駐在の英国大使を呼び、「制作を中止しなければ英国内で想像もできない報復措置が取られる」と警告したという。

 北朝鮮では「朝鮮労働党5課」と呼ばれる組織が全国の14~16歳の女子学生を選抜。専門教育を受け、護衛司令部や高級幹部用の烽火(ポンファ)病院などに配属される。容姿が美しい学生は指導者一族の電話交換手や警護員、看護師、接待要員の「喜び組」に選抜され、26~27歳ごろまで働くという。

 一方、北朝鮮は外交官の海外駐在時の医療費を負担しないため、健康状態が良い外交官を優先して選ぶ。家族を同伴するためには、思想に問題がないことを証明してくれる推薦書や成績表など様々な手続きが必要になるという。(ソウル=牧野愛博)