(朝日新聞 2018/02/25)

 中国共産党中央委員会は25日、国家主席の任期を「2期10年まで」とする憲法条文を削除する改正案を国営新華社通信を通じて発表した。現憲法では習近平(シーチンピン)国家主席の任期は2023年までだが、さらに長期政権が可能になる。権力集中の弊害を避けるため指導者人事の規範化を進めてきた流れに逆行する動きともいえ、中国政治システムの大きな転機になりそうだ。

 国家主席は国を代表する元首。中国を実質的に一党支配する共産党のトップは総書記だが、国家主席を兼ねることで最高指導者としての権威は強固になる。憲法は国家主席の任期を2期10年までと定めており、習氏は3月の全国人民代表大会(全人代)で国家主席に再選され、2期目を迎える見通しだ。

 国家主席は毛沢東らが務めた後、文化大革命やその後の政治闘争の流れの中で75年に廃止。鄧小平が実権を握った後の82年の憲法改正で復活した。3選を禁じたのは権力が集中した毛時代の反省が背景にあった

 だが、習氏は毛、鄧らと並ぶ「党の核心」としての地位を築くなど権威を高め「1強」態勢を固めた。総書記には明確な任期制限がないため、国家主席の3選禁止撤廃で長期政権を可能にし、一層求心力を高める狙いがありそうだ。

 憲法改正案では、習氏の政治理念「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想」を明記するほか、公職者の汚職を取り締まる「国家監察委員会」の設置なども盛り込まれた。3月の全人代で審議される


(朝日新聞 2018/02/26)

 2期目に入った中国共産党の習近平(シーチンピン)総書記(国家主席)が、自らの長期政権に向け、定着しつつあった制度の変革に手を付けた。25日に公表された、国家主席の任期制限を撤廃する憲法改正案。昨秋の党大会を経て強化された権力基盤を背景に、党内の反対や警戒の声を押し切った。

 3期目以降も最高指導者の地位にとどまろうとする習氏の意向は、昨秋の党大会で鮮明になっていた。習氏は党大会で、2035年までに「社会主義の現代化」を実現し、建国100周年を迎える49年ごろには「社会主義現代化強国」を実現するとの長期目標を掲げた。そのためには、強く安定した長期政権が必要との考えがあるとみられる。

 改正案では「中国共産党の指導が中国の特色ある社会主義の最も本質的な特徴」と、一党支配の強化を打ち出した。さらに、習氏が唱える「中華民族の偉大な復興」などのスローガンも書き込んでおり、習氏の指導者としての地位をより強固にしようとしている。

 昨秋の党大会では、後継世代の指導者を最高指導部の政治局常務委員に引き上げなかった。若手を最高指導部入りさせて後継者を内定する25年来の慣例を破り、自らが3期目を目指す意思を示したと受け止められた。

 また、習氏の政治理念「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想」を党規約に明記することにも成功。自らの名前を冠した政治理念が党規約に書き込まれるのは、江沢民元総書記、胡錦濤前総書記も果たせなかったことだ。

 それでも、現在2期10年までと定められている国家主席の任期制限を撤廃する憲法改正については、党内でも「時期尚早」との声が根強かった。「任期を撤廃すれば、終身制に後戻りしかねない」(党関係者)との懸念があるからだ。

 中国は建国の指導者、毛沢東が晩年まで実権を握ったことで、文化大革命などの混乱を引き起こした教訓がある。党内には、強い指導者の必要性に理解を示しつつも、一定の制限が必要との考えが今も根強い。

 こうした反発もあり、党大会では習氏の意向がすべて通ったわけではなかった。習氏は、1期目の習指導部を「反腐敗」で支えた王岐山(ワンチーシャン)・前党中央規律検査委員会書記を68歳定年の内規を破って最高指導部に残すことはできなかった。

 だが、習氏はその後も着実に党内の掌握を進めた。王氏は完全引退せず、1月に全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の代表に選出。2期目の習氏を支えるため、国家副主席に就くとの見方が強まっている。

 習氏は、本来3月の全人代に向けて政府人事などを話し合う中央委員会の第2回全体会議(2中全会)で、憲法改正について議論する異例の手法をとり、自らの政治理念を憲法にも明記する方針を確認した。

 先週、国営中央テレビのサイトでは習氏を「人民の領袖(りょうしゅう)」と形容する論評が流れた。習氏の権威は「偉大な領袖」とたたえられた毛沢東に近づきつつある。

 党関係者は「指導者に強さは必要だ。だが、トップが間違えた時にどうするのか。その答えはまだない」と話す。(北京=延与光貞)
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 〈中国の国家主席〉 外交などで国を代表する国家元首。中国は共産党が指導すると憲法で定められているため最高指導者は党トップの総書記だが、最近は総書記が国家主席を兼務している。全国人民代表大会の決定に従い、法律の公布、首相ら政府高官の任免、条約批准などをする権限がある。

2017年10月25日