(朝日新聞 2018/02/11)

 北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長の実妹、金与正(キムヨジョン)氏は10日午前、正恩氏の特使として韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領と会い、「早い時期に面会する用意がある。都合の良い時期に訪朝してほしい」とする正恩氏の考えを口頭で伝えた。韓国大統領府が発表した。文氏は「今後、条件を整えて実現させよう」と答えた。

 ■文氏、米朝早期対話促す

 正恩氏の要請は、2007年10月以来3度目となる南北首脳会談の開催を求めたものだが、具体的な時期を示さず、口頭での要請にとどまった。国際社会の制裁や米国の限定攻撃などを避ける一時しのぎとして、対話に前向きな韓国への接近を狙ったとみられる

 韓国大統領府当局者も10日の会談後、「首脳会談で成果を上げるためには、半島を取り巻く環境を成熟させなければならない」と指摘。北朝鮮の核・ミサイル開発問題などを巡る米朝対話など、一定の前進が必要だとの見方を示した。

 金与正氏は会談で「私が特使だ。金正恩委員長の意思だ」と説明。南北関係改善を目指すとした正恩氏の親書を文氏に渡した。

 文氏は「南北関係発展のためにも、早期の米朝対話が必須だ。米国との対話をより積極的に進めてほしい」と要請した。金与正氏らの訪韓について「緊張緩和や南北関係改善への契機になった」と評価した。

 双方は南北関係と朝鮮半島を巡る問題全般について意見交換したが、文氏は北朝鮮の核開発については直接言及しなかったという

 北朝鮮高官が韓国大統領府を訪れるのは、09年8月に金大中(キムデジュン)元韓国大統領の死去を受けて訪韓した朝鮮労働党の金己男(キムギナム)書記らの弔問団以来。金与正氏は正恩氏の最側近で、党宣伝扇動部副部長を務める。北朝鮮最高指導者の直系血族の訪韓は初めて。

 金永南(キムヨンナム)最高人民会議常任委員長率いる北朝鮮高位級代表団は10日夜、平昌(ピョンチャン)冬季五輪の会場のひとつ、江原道江陵(カンヌン)で文氏とともに女子アイスホッケー南北合同チームの試合を観戦した。代表団は11日に帰国する。(ソウル=牧野愛博)


(朝日新聞 2018/02/11)

 北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長が10日、実妹の金与正(キムヨジョン)氏を通じ、文在寅(ムンジェイン)韓国大統領の訪朝を要請した。北朝鮮にとって、金与正氏の韓国派遣は「最高のカード」。その狙いは何か。北朝鮮の揺さぶりで米韓同盟はどうなるのか。(ソウル=牧野愛博)

 10日午前11時過ぎ、北朝鮮高位級代表団が韓国大統領府の一室に姿を現した。金与正氏は青色のファイルを大事に扱い、テーブルの上に置いた。文氏に渡す正恩氏の親書だった。

 大統領府によれば、親書には、南北関係改善を目指す正恩氏の考えが記されていた。金与正氏は口頭で、文氏の訪朝を促す正恩氏の要請を伝えた。具体的な時期には触れなかった。

 脱北した元北朝鮮外交官は「口頭での伝達は親書よりもランクが低い。時期を示さないのは、南北関係が長く断絶するなか、解決すべき課題が残っているからだ。逆に言えばそれだけ北朝鮮を取り巻く状況は悪い。焦っている証拠だ」と語る。

 米軍は最近、核兵器を搭載できるB52戦略爆撃機6機やステルス性能を持つB2戦略爆撃機3機をグアムに前進配備した。ソウルの情報関係筋によれば、北朝鮮側は最近、米国や韓国の専門家らと頻繁に接触し、トランプ米政権が本気で攻撃する考えを持っているかどうか探っているという

 金与正氏は北朝鮮の実質ナンバー2。康仁徳(カンインドク)元韓国統一相は「北朝鮮も死にもの狂いだ」とし、金与正氏の韓国派遣を「最高のカード」と表現した。

 情報関係筋は北朝鮮の思惑について「最高のカードを切って韓国に恩を売る。制裁緩和や米韓合同軍事演習の縮小・中止はもちろん、米国が攻撃を思いとどまるよう、韓国を説得役にするつもりだ」と語る

 ■韓国に米の縛り 「条件整えて実現」

 北朝鮮の誘いに韓国は応じるのか。

 文在寅政権は平昌(ピョンチャン)冬季五輪を巡る南北合同チームの結成や経済政策への不評から、支持率が陰りを見せ始めている。韓国政府元高官は「文氏は人気挽回(ばんかい)を狙って平壌に行くかもしれない」と語る。ただ、大統領府当局者は10日、「条件を整えて実現させよう」と述べた文氏の意図について、南北や米朝関係の改善が必要だとの認識も示した。最大の後ろ盾である同盟国、米国の支持なしには文氏も自由には動けない

 肝心の米韓関係は揺らいでいる。

 「ペンス副大統領はレセプションに出席できない」。米側は9日の歓迎レセプションが始まる1時間前に、こう通告した。ペンス氏は会場に来たが関係者にあいさつだけして引き揚げた

 韓国はペンス氏が文氏の隣に座るよう提案していた。同じテーブルには北朝鮮の金永南(キムヨンナム)最高人民会議常任委員長もいた。米韓関係筋によれば、米側は「北朝鮮に誤ったメッセージを送るのを避けた」と語る。

 続く開会式でも米韓の摩擦は続いた。韓国は当初、最前列に文氏、ペンス氏、金永南氏らが座り、第2列に金与正氏らが座る案を提示。米側は「北朝鮮と同じ列には座れない」と拒否し、金永南氏は第2列に座ることになった。「外交的な失敗。韓米同盟の危機だ」。韓国政府元高官はうめいた。

 文氏は「南北対話を米朝対話につなげる」と意気込み、10日の会談でも米朝対話の早期実現を訴えた。米側からは、現状を無視した韓国の姿勢を憂慮する声が上がる。

 米韓関係の混乱は、韓国を不安に陥れている。

 5日、韓国外交省の李度勲(イドフン)朝鮮半島平和交渉本部長と米国務省のジョセフ・ユン北朝鮮政策特別代表がソウルで会談した。李氏は、「鼻血作戦」と呼ばれる限定先制攻撃案を巡る米国の真意を尋ねた。

 ユン氏は「北朝鮮の核・ミサイル開発を食い止める案の一つ」とする一方、「すべての案がテーブルの上に載っている」と語るばかりだった。米韓関係筋の一人は「ユン氏もホワイトハウスの真意はわからない。ましてや韓国が知るよしもない」と話す。

 ■日本、懸念強める

 日本政府は懸念と不満を強めている。小野寺五典防衛相は10日、視察先の佐賀県で記者団に「過去、日本も韓国も北朝鮮の融和的な政策に乗ってしまい、結果として北朝鮮が核・ミサイル開発を継続した」と指摘した。

 外務省幹部は「北朝鮮は非核化への具体的な行動を一切示していないのに文氏が訪朝するなどありえない」と語る。

 そもそも安倍晋三首相の訪韓は、ペンス氏とともに文氏に圧力強化に向けた日米韓の結束を念押しするのが大きな目的だった。

 だが、必ずしも成果は出ておらず、日米両国には焦りもにじむ。日米関係筋によると、9日の日韓首脳会談直後、米国側の要請で安倍首相とペンス氏が急きょ会談。さらにペンス氏は自身の車に首相を招き入れ、文氏主催のレセプション会場までの車中でも今後の対応を協議したという

 日本政府関係者はこう強調する。「韓国がこれ以上北朝鮮に傾斜しないよう、日米で連携してクギを刺し続ける必要がある」(平昌=松井望美)

 ■安倍首相発言、文氏が不快感 軍事演習巡り

 韓国大統領府によれば、9日の日韓首脳会談で安倍晋三首相が米韓合同軍事演習について「予定通り進めることが重要だ」と述べた。これに対し、文在寅大統領は「我々の主権の問題で内政問題だ。首相がこの問題を直接取り上げるのは困る」と不快感を示した。


朝日新聞だけでなく毎日新聞でさえ、社説『北朝鮮が文氏に会談提案 平和攻勢に惑わされるな』という題で〈筋の悪いくせ球だ。独裁者のエゴを貫くために計算され尽くした甘い言葉に、惑わされてはいけない。〉というくらいの状況ですが、そもそも「アメリカは親北政策の足かせ」だけど「北朝鮮を支援するための経済基盤を維持するために米韓関係は重要」くらいにしかムン大統領は思っていないんじゃないですかね。