(東京新聞 2018/01/19)

 東京都港区の環境設備関連会社が、シンガポール経由で北朝鮮に食品などを不正輸出した事件で、最終仕向け先は、北朝鮮の治安機関・人民保安省傘下の企業だったことが、北朝鮮消息筋や関係者の話で分かった。日本側との商談は、この企業が中国遼寧省丹東に拠点を置く支社が行っていたことも判明。物資の第三国向けを装い、実際の仕向け先を隠す制裁逃れの具体的な構図が明らかになった。

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 京都府警などの合同捜査本部は昨年十二月、環境設備関連会社「エム・クリエイト」が二〇一四年六月三十日、経済産業相の承認を受けずに食品など約千五百箱(輸出申告価格約七百十六万円)を、横浜港からシンガポールに拠点を置く北朝鮮工作員が運営する企業を経由させ、遼寧省大連に転送の上、北朝鮮に送ったとして摘発した。

 消息筋などによると、最終仕向け先は、人民保安省傘下の貿易会社「朝鮮緑山(ロクサン)貿易総会社」が出資する平壌所在の「セヒマン合作会社」。親会社の「緑山」社は、経産省が核・ミサイル開発関連で、輸出先として懸念を示す外国ユーザーリストに名前が載る

 関係者によると、「セヒマン」は不正輸出に先立つ一四年春、丹東の支社「朝鮮新希望合作会社丹東代表処」を通じ、エム社の貿易コンサルタントを務めていた韓国籍の姜正元容疑者=四日に再逮捕=と電子メールなどで、注文のやりとりを行っていた。

 姜容疑者の兄は帰還事業で日本から北朝鮮に渡った人物で、セヒマン代表の夫とされる。こうした関係から、姜容疑者は取引で重要な役割を果たしていたとみられる。さらに、事件で逮捕されたエム社社員が同年七月、丹東支社に日用品を直接郵送したこともあった。

 本紙は、登記されたセヒマン丹東支社の住所を訪ねたが、玄関のインターホン越しに「分からない」との声が聞こえた。郵送した取材要請の書簡は「該当先なし」で届かなかった。関係者は「(支社長は)平壌に帰っており、いつ中国に戻るかは不明」と話した。

<エム・クリエイト不正輸出事件> シンガポール経由で北朝鮮に食料品などを不正輸出したとして、京都府警や神奈川県警などの合同捜査本部が昨年12月14日、外為法違反(無承認輸出)容疑で、エム・クリエイト代表取締役の谷内田譲(やちた・ゆずる)容疑者ら男3人を逮捕。京都地検が3人を処分保留とした今月4日、捜査本部は、食品など約1450万円相当を2013年12月に不正輸出した疑いで再逮捕した。日本政府は核実験などへの制裁で、北朝鮮への輸出を全面禁止にしている。


【核心】 北朝鮮制裁 骨抜き 平壌に日本製品ずらり
(東京新聞 2018/01/19)

 北朝鮮の治安機関・人民保安省傘下の企業が、最終的な仕向け先だった不正輸出事件。警察当局が外為法違反容疑で摘発した都内の環境設備関連会社「エム・クリエイト」は、日本政府が二〇〇九年六月に北朝鮮への輸出を全面禁止した以降、北朝鮮工作員が運営する迂回先のシンガポールの偽装企業に対してだけでも計五回、約四千三百万円相当の物資を送っていたことが、関係者の話などで分かった。日朝にまたがる組織的不正が、日本の経済制裁を骨抜きにしていた実態が浮かび上がる。(北京・域内康伸)

◇食品や日用品不正輸出事件

■安定調達

 シャンプーや食品、ビール…。昨年十二月に訪朝した日本人によると、平壌の高級商店には、日本製の日用品が今も大量に並ぶ。特権層や富裕層に人気があるとされ、「日本製は品質が良いから」と北朝鮮関係者は説明する。

 金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長は「人民生活の向上」を目標に掲げる。潤沢にそろえた日本製品で、高い生活水準を演出すれば、政権基盤を支える市民の忠誠心アップにもつながる。利益の一部は政権に吸い上げられているとみられる。

 「エム・クリエイト」による不正輸出事件は、日本の全面輸出禁止をよそに、北朝鮮が日本製品を安定調達できるカラクリの一端を示した。

■協力者

 警察当局によると、エム社が横浜港で船積みさせた大量の食品や日用品は、シンガポール、中国遼寧省大連を経て、北朝鮮の南浦に陸揚げされた。大連からは北朝鮮船舶が輸送した。

 警察の調べや関係者によると、エム社がシンガポールの偽装企業に向けた輸出を始めたのは、一二年十月だった。平壌所在の物資の最終仕向け先で、人民保安省傘下の「セヒマン合作会社」との商談や輸出申告を担当し、事件で逮捕された姜正元容疑者が、工ム社の貿易コンサルタントを手掛けるようになったのは、その前年夏ごろからだったという。

 エム社が不正輸出に関わる以前の〇九年四月、東京都内には、セヒマンと密接な関係がある貿易会社が設立された。セヒマン代表の義弟にあたる北朝鮮帰還者が、セヒマンのパートナー会社として、都内に住む実弟にその設立を指示したとされる。

 関係者によると、このパートナー会社は設立直後、日本政府が北朝鮮への禁輸を決定したことで、セヒマンとの取引を断念。こうした状況で、北朝鮮側が不正輸出の新たな「協力者」として、エム社に白羽の矢を立てた可能性がある

■締め付け

 セヒマンは中国資本と提携し、大連に北朝鮮レストランを経営。レストランは遼寧省丹東に拠点を置くセヒマン支社を通じて、北朝鮮産海産物を仕入れていたという。

 ただ、北朝鮮の核・ミサイル開発を受けた国連安全保障理事会の制裁決議に基づき、中国商務省は昨年九月、今月九日までの中朝合弁企業閉鎖を命じた。レストランは現在も営業を続けるが、中国側経営者は「北朝鮮との合弁解消や店舗の閉鎖も検討している」と話す。日本の独自制裁をくぐり抜けてきた北朝鮮企業は今、中国による締め付けが忍び寄っている