(朝日新聞 2018/01/17)

 「平昌(ピョンチャン)で待ってます。ぜひ来て下さい」

 1月上旬、韓国の俳優チャン・グンソクさんが日本のテレビ番組で流暢(りゅうちょう)な日本語で呼びかけた。「グンちゃん」の愛称で知られ、日本でも人気が高いチャンさんは昨年12月、平昌五輪・パラリンピックの広報大使に就任。地元は、日本の「韓流」ファンが観戦に訪れることに期待を寄せる。

 昨年末のNHK紅白歌合戦に、9人組の韓国の女性グループ「TWICE」が出場した。Kポップ歌手の紅白出場は6年ぶり。ネット経由で10~20代の女性を中心に人気に火がついた

 ミュージックビデオの再生回数は1億超。両手の親指と人さし指で泣いている顔文字をまねする「TTポーズ」やファッションが注目を集め、女性誌でも特集記事が繰り返し組まれた。韓国以外に、日本出身3人、台湾出身のメンバーもいる。

 Kポップに詳しいライターの松谷創一郎さんは「韓国の音楽だから聴いている、という感覚は若者には希薄。単純に『かっこいい』や『かわいい』の象徴になってきた」と指摘する。

* 〈2003年、NHKのBSがドラマ「冬のソナタ」を放送〉

 02年日韓サッカーワールドカップの翌年、空前の韓流ブームが起きた。「冬ソナ」以来、日本では「韓流」の映画やドラマが相次いで公開・放送された。Eテレ「ハングル講座」のテキストは、教育テレビ時代の04年に月約11万部だったのが、05年は約22万部へと急増。11年には「東方神起」「KARA」「少女時代」が紅白に出場した

 だが歴史問題で日韓関係が冷え込んだあたりからブームはしぼむ

* 〈12年、李明博(イミョンバク)大統領(当時)が竹島に上陸〉

 「ハングル講座」のテキストも、その頃から「なだらかに減少傾向」(NHK出版の担当者)で、昨年は約15万部だった。

 松谷さんは、韓国文化の人気がなくなったというより「定着した」とみる「若い人にとってのKポップは上の世代にとっての洋楽のようなものになった」と話す。

 ただ、歴史認識をめぐる問題が影を落とす。

 都内の保険会社に勤める女性(24)は友人と平昌五輪を見に行く予定だ。「冬ソナ」をきっかけに、小学5年以来、自他ともに認める韓流ファン。昨年だけでも韓国を8回訪れた

 とはいえ、日韓関係については「傍観者でいたい」と語る

 好きな俳優や歌手についてSNS経由で韓国語の情報を集めるが、自分からは発信しないという。「『韓国文化が好き』と言うと、ネットで絡まれるので」

 学生時代の日本人の交際相手が、ネット上での韓国への明らかなデマや誹謗(ひぼう)中傷を読み、「韓国ってやばいな」と漏らしたのがショックだった。自身も、歴史認識をめぐって日本を批判する韓国語のツイートを読むと「『うざい』と思ってしまう」と話す

 金成ミン(キムソンミン)・北海道大准教授(メディア・大衆文化論)は、日本の韓国への視線の特徴は「日本と比較したうえで、好きか嫌いという感情にこだわる」と指摘する。「『冬ソナ』なら日本のドラマにない純愛。Kポップなら、日本のアイドルにない歌唱力、ダンス。あくまで日本と対照させて語ってきた」。ただ「グローバルに流行しているものにあこがれ、そのスタイルがたまたま韓国発だった、という10~20代の感覚は今までにない。韓国を好きか嫌いかでしか考えない状況は変わっていくかもしれない」

 平昌五輪で、何らかの理由で不満や批判の応酬がネットを中心に起こりうる、とみるが「良きにせよ、あしきにせよ、改めて韓国を発見して驚くようなことはない。互いによく知る『隣国』になったということだ」と話す。


2018年01月16日
2018年01月18日
(下)朝日新聞「ヘイトスピーチのデモが繰り返され、一時閑古鳥が鳴いた新大久保だったが、韓国料理店に行列ができるなど客足は戻りつつある」!