【こちら特報部】歴史修正主義 裏目に 日本政府が「後ろ盾」
(東京新聞 2017/12/09)

 旧日本軍の慰安婦像をめぐる米サンフランシスコ市と大阪市のゴタゴタの背後には、日本の右派勢力の策動が見え隠れする。在米日本人らでつくるNPO法人「歴史の真実を求める世界連合会(GAHT)」は約2年前、サンフランシスコ市議会の公聴会で元慰安婦の韓国人女性を攻撃し、市議から「恥を知れ」と罵倒されていた。右派勢力が騒げば騒ぐほど、負の歴史の継承に後ろ向きな日本側の姿勢が警戒され、皮肉にも、米国内で慰安婦像や記念碑の建設を後押しする格好になっている。(佐藤大、白名正和)

◇慰安婦像に反対する日本の右派
◇サンフランシスコ市議会で元慰安婦批判 「恥を知れ」と市議反発

 問題の公聴会は、二〇一五年九月十七日に開催された。慰安婦像設置を促す決議案を審議する前に、賛成派と反対派がそれぞれ意見を述べた

 賛成派の口火を切ったのは、元慰安婦の李容洙(イヨンス)さん(八八)だ。先月のトランプ米大統領のアジア歴訪の際には、韓国政府主催の夕食会に招かれ、トランプ氏と抱き合ったり、あいさつを交わしたりした。李さんは公聴会で「私はほとんどの日本人は良識があると思っている。だから日本政府は、次世代に正しい歴史を教えるという正しい振る舞いをしてほしい」と訴えた。

 反対派として登場したのが、GAHT代表を務める在米日本人の目良浩一氏(八四)である。目良氏は「この国で喧伝されている慰安婦の話は全く間違っている。例えば(慰安婦被害)二十万人、強制連行、性奴隷などは正しくない」と主張。議長が「彼女がうそつきだと言うのか」と注意したが、目良氏は「(李さんの証言は)信用できない」とまくしたてた。最前席で聞いていた李さんは立ち上がって、「だれがうそつきだって!」と激怒した

 最終盤で発言したのが、デビッド・カンボス市議(当時)だった。「過去の事実を否定しに来た数人のメンバーに申し上げたい。最大限の愛情と敬意を込めて言いますが、恥を知ってください。過去の事実を否定し、勇気を持って遠くから真実を語りに来た李さんに個人攻撃を行ったということに」と非難すると、聴衆から大きな拍手が湧いた。カンボス氏は「これらの否定の背後に日本政府がいないことを望む」とクギを刺すことも忘れなかった。

 この五日後、決議は全会一致で成立した。像のデザイン公募などを経て、市民団体は今年九月、中華街近くの民有地に像を設置。十月にこの土地を市に寄贈し、市議会は寄贈受け入れを全会一致で決議した。エドウィン・リー市長も十一月二十二日、寄贈を受け入れる文書に署名した。

 リー市長は、署名に先立つ十月二日付で、慰安婦像設置の動きをけん制する吉村洋文大阪市長宛ての手紙で「姉妹都市とは『人対人』のプログラムを生み出し、促進することで、政府の干渉を排除した上で、多様な文化と市民をひとつにまとめることを目的として提唱されたものだ」と大阪市への落胆をつづった。

 慰安婦問題に詳しい山口智美・モンタナ州立大准教授(文化人類学)は、公聴会での目良民らの発言について「像設置についてそれまで慎重な姿勢を見せていた市議も、目良氏らの発言によって『人権を考えていない人たちの仲間だと思われたくない』ということになり、だれも異論を挟めなくなった」と指摘する。

◇撤去訴訟で「意見書」提出■安倍首相も援護射撃

 目良民とはどのような人物か。GAHTのホームページ(HP)によると、一九三三年、朝鮮総督府が置かれた京城府(現ソウル)で生まれた。米ハーバード大博士号を取得後、筑波大教授や南カリフォルニア大教授を歴任した。現在は米国在住だ

 「正しい歴史認識の育成と世界の平和と安定に貢献すること」を目指し、二〇一四年二月にGAHTを設立した。発起人には「新しい歴史教科書をつくる会」の藤岡信勝副会長、右派系の女性団体「なでしこアクション」の山本優美子代表ら保守派が並ぶ。

 GAHTが最も力を入れているのが慰安婦問題だ。米カリフォルニア州グレンデール市の像撤去と「『従軍慰安婦』説の論破」を緊急の課題とみなし、発足直後に米連邦地方裁判所に提訴したが、一審、二審とも敗訴した。今年一月に連邦最高裁へ上告したが、上告が却下された。カリフォルニアの州裁判所でも訴訟を起こしたが、一六年末に敗訴した。

 目良氏は「こちら特報部」の取材に文書で回答した。サンフランシスコ市側の対応について「受け入れの表明は残念。カンボス市議は歴史を全く知らない人だ」と批判する一方、大阪市については「姉妹都市提携解消の判断は健全。慰安婦像を掲げながら仲良く交流しようとするのは、まったく滑稽です」と評価した。

 米国各地では次々と慰安婦の像や碑が設置されている。「活動の成果が出ていないのではないか」との問いに目良氏はこう反論する。「訴訟には勝てなかったが、慰安婦問題に対する日本政府の態度が『無関与』から『積極参加』に変化した。この変化をもたらしたことに喜びを感じている。裁判がなければ、もっと多くの像が建てられたことでしょう。長期的に見れば、われわれの運動は成功していると思います」

 確かに米最高裁で敗訴が確定する前、日本政府は「上告が認められるべきだ」との異例の意見書を同裁判所に提出。敗訴後は菅義偉官房長官が「慰安婦(像などの)設置の動きは、わが国政府の立場と相いれない」とコメントした。

 サンフランシスコの問題でも、安倍普三首相が十一月二十一日の衆院本会議で「政府としてサンフランシスコ市長に対し、(受け入れ決議への)拒否権を行使するよう申し入れた」と明かした。安倍政権がGAHTの「後ろ盾」になっている構図が浮かび上がる。

 日本政府自体の動きも露骨だ。今年六月、人権団体による慰安婦像設置計画が見送られた米アトランタの篠塚隆総領事が、慰安婦に関する現地紙とのインタビューで「歴史的事実として、女性は性奴隷ではなく、強制されていない。家族を養うためにこの仕事を選ぶ女の子がいる」「慰安婦像は日本に対する憎悪と憤りの象徴」と公言した。

〈米国内の主な慰安婦の像や碑〉
ニューヨーク州
・ナッソー郡に慰安婦の碑
・慰安婦問題を「人道に対する罪」と州議会が決議
ニュージャージー州
・パリセイズパーク市やハッケンサック市に慰安婦の碑
ミシガン州
・サウスフィールド市に慰安婦の少女像
ジョージア州
・アトランタ市の計画が中止され、近郊のブルックヘブン市に設置
カルフォルニア州
・グレンデール市に慰安婦の少女像
・サンフランシスコ市でも像の受け入れ決議

◇「記憶遺産阻止で成果 侮れず」

 一六年五月、中韓などの民間団体が、慰安婦関連資料を「世界の記憶」(世界記憶遺産)に申請した際は、日本政府が「政治利用」と反発。ユネスコは今年十月に「政治的案件」との理由で登録の判断を延期した。右派系論客の高橋史朗・明星大特別教授(教育学)は雑誌のインタビューで「(官民一体の反撃によって事態は)大きく前進した」と強調している。

 前出の山口准教授は警鐘を鳴らす。「日本政府は歴史修正主義を丸出しにし、大使館や領事館もその方向性で動いている。以前は裏で何とかしようとしていたが、あからさまに動くようになった。ユネスコのように、右派団体が動くことが必ずしも逆効果だとは言い切れなくなってきてもいる。今後も同様の動きは続くのではないか」

〈デスクメモ〉
 山口准教授によると、米国の日系食料品店やレストランで配布されているフリーペーパーには、右派調な内容の記事や広告が少なくないという。「慰安婦稗、絶対反対!! 日本人が一丸となって反対署名を」などと威勢が良い。大きな潮流になるとは思えないが、きちんと注視したい。(圭)2017・12・9


週刊新潮 2017年12月7日号 2017/11/30

 目良氏は、アメリカ在住。全土に次々と建てられる慰安婦像に危機感を覚え、これらへの反対運動を続ける人物だ

 2年前に、サンフランシスコ市議会が「設置支持」の決議案を可決したのは先に述べた。その直前に市民の意見を聞く「公聴会」が開かれたが、これに「設置反対派」として参加した目良氏が、当時を振り返る。

 「もともとこの運動は、中国系の団体が始めた。でも、なかなか軌道に乗らず、そこで、彼らが頼ったのが韓国です。在米の韓国系団体に呼びかけ、ソウルから元慰安婦をこの席に招くことに成功したのです」

 中韓の連携プレーである。

 公聴会のその日、登場したのは、李容洙(イヨンス)女史。この11月には、アメリカのトランプ大統領が訪韓した際の晩餐会に出席し、大統領に抱きついた、あの老女だ。しばしばメディアに取り上げられる、「慰安婦業界」の〝スター〟である。

「彼女は車椅子に座っていましたが、スピーチになると、さっと立ち上がり、〝私は強制連行を受けた〟などと、快活に話しはじめました。傍聴席に並んだ賛同者は、黄色い蝶がプリントされた黒地のお揃いのTシャツを着ています。彼らが、両手を上げて踊りのような振る舞いをするのです」(同)

 宗教教団と見まごうばかり。議場は異様な雰囲気に覆われた。

「続いて、賛成派反対派、双方のスピーチです。私は自分の番が来た時、〝彼女の発言には間違いもある〟と、これまでの彼女の発言のブレを指摘しました」(同)

 確かに彼女の発言をつぶさに見ると、慰安婦になるキッカケが「日本人男性からワンピースと革靴を見せられ、嬉しくなってついて行った」というものから、「日本兵に引きずりだされた」など、いくつかのバージョンがあり、理解に苦しむのだが、

「するといきなり議長が話を遮り、〝貴様は李容洙が嘘つきだと言うのか!〟と怒鳴りたててきたのです。さらに、スピーチの時間は1人2分と決まっていましたが、賛成派の時は時間を過ぎてもそのまま続けさせる一方、私たち反対派に対しては厳密で、2分を過ぎるとマイクの電源を切ってしまう。議長は公平な存在であるはずなのに、全く違った」(同)

 極め付きは公聴会の終了後。ある市議会議員が目良氏らに向かって、「恥を知れ!」と4回も繰り返し、李女史を抱擁。ほっぺたに口づけまでしたというのだ

「彼らは、はじめから設置ありき。対話とか、交渉に乗ってくる可能性なんてありえないのです。一体、これをどう乗り越えろというのでしょうか」(同)

2017年12月02日