(東京新聞 2017/11/10)

 韓国政府主催のトランプ米大統領の歓迎夕食会に元慰安婦の女性が招待され、島根県・竹島の韓国名を冠した「独島エピ」が提供された。慰安婦合意の再交渉や竹島問題の強硬姿勢を米政府にアピールした格好だが、当然のように日本政府は反発している。日本のインターネット上では「泥棒したエビ」「売春婦」などの罵詈雑言があふれた。対立をあおるばかりの日本政府の対応は相変わらずお粗末だが、韓国政府も「独島エビ」はやり過ぎではないか。(加藤裕治、橋本誠)

◇日韓合意拒否を強調?
◇領土問題意識の演出?

 七日夜のソウルの青瓦台(大統領官邸)。トランプ氏とメラニア夫人が夕食会の会場に入った。韓米両国の国歌が流れた後、韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領が歓迎のスピーチに立った。

 「今日はトランプ氏の当選から一年の記念日。韓国では一歳の誕生日を祝う習慣があります。私はトランプ氏を国賓として招き、夕食会を開くことを決めました」。これが英語に訳されると、控えめな笑いが起き、硬かったトランプ氏の表情が少し緩んだ。

 こうして始まった約二時間の夕食会が日本で波紋を広げているのは、韓国大統領府が「特に食品の一つーつに意味を込めた」と発表した料理の中に「独島工ビ」の炒め物があったからだ。日韓両国が領有権を争う独島(竹島)料理とは刺激的だが、それにしても 「独島エビ」とは聞き慣れない。どんなエビなのか。

 東京・上野の韓国食材の販売店に尋ねると「扱ったことがないから説明できない」と素っ気ない。竹島を抱える島根県水産諜も「そんなエビの名前は初めて聞いた」。同課によると、韓国が実効支配する竹島の周辺の海は深く、主にスルメイカとベニズワイガニの漁場。「日本側は漁をしていない。韓国側がエビ漁をしているという話も聞いたことがない」

 とはいえ、捕れないわけではない。同課は「深海に住むモロトゲアカエビ(シマエビ)、トヤマエビ(ボタンエビ)はいるかもしれない。(韓国大統領府が公表した)写真を見た印象では、独島エビはトヤマエビだろう」と推測する。

 韓国側でも情報が交錯する。韓国の聯合ニュースのネット版(日本語)によると、独島沖で捕れるエビ三種の総称。「漁獲量が少なく、一般消費者は普段味わう機会のない高級食材」と紹介し、三種のうちボタンエビの一種の「トファエビ」が夕食会に出されたと報じている。一方、中央日報の日本語版では「イセエビ」との青瓦台関係者の話と、「トヤマエビ」という漁師の証言を伝えている。

 夕食会ではもう一つのサプライズがあった。元慰安婦の李容洙(イヨンス)さん(八八)の姿があったのだ。トランプ氏はチマ・チョゴリ姿の李さんと抱き合ったり、あいさつを交わしたりした。

 李さんは二〇〇七年二月、慰安婦の実態について米下院の小委員会で証言した。証言に向けて英語を学ぶ李さんをモデルにした韓国映画「アイ・キャン・スピーク」は今年、同国でヒットした。李さんは、慰安婦問題を巡る一五年末の日韓合意の受け入れも拒否している。

 韓国メディアは、今回の日本を意識した演出をおおむね評価しているものの、一部には「外交的に適切な措置だったか、否定的な見解も少なくない」(中央日報日本語版)と苦言を呈する向きもある。

◇日本政府反発 → 韓国メディア再反発

 日本政府は「元慰安婦」と「独島エビ」に過敏に反応した。

 菅義偉官房長官は記者会見で、独島エビの提供について「北朝鮮への対応で日米韓の連携に悪影響を及ぼす動きは避ける必要がある」と不快感をあらわにした。元慰安婦の招待についても「最終的で不可逆的な解決を確認した日韓合意の着実な実施を求めたい」と強調した。日本政府は外交ルートを通じて日韓合意の履行を要求するとともに、独島エビも「受け入れられない」と伝えた

 ツイッター上には、ヘイトスピーチまがいの言説が飛び交った。作家の百田尚樹氏が「売春婦に会わせ、泥棒したエビを食わした」と言い放ち、自民党の山田宏参院議員は「自己満足。憐れさしか感じない」とこき下ろした

 韓国メディアは元慰安婦バッシングに憤る。中央日報日本語版は、李さんが「貴賓が来てあいさつしただけなのに、そこまで干渉するのか」と日本政府を批判したと報道。社説では、トランプ氏が李さんと抱き合ってあいさつしたことについて「韓日間で絶えず提起されてきた慰安婦論争で普遍的な人権の方に軍配を上げた」と論評した。

 慰安婦問題の資料展示施設「女たちの戦争と平和資料館」(東京)の渡辺美奈事務局長は「日本では、まるで韓国が当て付けのように李さんを呼んだと報道されているが、人権侵害を受け、自らの権利のために闘っている被害者がそうした場に招かれることは何もおかしくない」と指摘する。トランプ氏は今回の来日中に北朝鮮の拉致被害者家族らと会談した。昨年のオバマ前大統領の広島訪問では、原爆被傷者との対面が実現した。

 渡辺氏は、日本政府の日韓合意履行要求にも首をかしげる。「被害者が米大統領に会うことが、合意にある『互いに非難・批判を控える』に触れるとは思えない。日本政府の拡大解釈だ。文氏は、被害者抜きで決められた日韓合意では解決しないという状況の中で大統領に選ばれている。日本政府が、日韓合意という錦の御旗で耳をふさぎ、何もしない態度でいいのか」

 ヘイトスピーチに詳しいジャーナリストの安田浩一氏も「ネットの『売春婦』という言葉は韓国人、女性、売春している人を複合的に差別する言葉だ。悲劇を味わった人たちに対し、これほどむごい仕打ちはなく、セカンドレイブに等しい」と指弾する。

 ことは慰安婦問題にとどまらない。安田氏は「ヘイトスピーチを放置すると、国内の私たちの社会にも分断と亀裂をもたらす。今回も夕食会に出席した元慰安婦だけでなく、日本国内のマイノリティーにも被害者を生み出すのではないか」と危惧する。

◇対立助長お互い自制を

 静岡県立大の奥薗秀樹准教授(現代韓国政治外交)は、韓国の対応の背景に文政権の苦境をみる。「北朝鮮が挑発を繰り返すために対話色を出せず、(軍事的措置も排除しない)米国とも歩調を合わせざるを得ない。国内では少数与党で野党の協力なしに法案を通せない。保守政権と違うりベラル政権として独自色をアピールする必要があった」

 もっとも韓国政府関係者の間には、日本のメディア、特にテレビが元慰安婦と独島エビを大きく取り上げたことに戸惑いもあるようだ。「独島のエビは有名ではなく、意識的に出したのは間違いない。慰安婦問題で日韓合意に言及する日本政府に対抗したのだろうが、米国との外交の場に日韓の懸案を持ち出せば、日本の国民感情を刺激する。あまりに安易だったのでは」と残念がる。

 その上で奥薗氏は、日韓両政府に冷静な対応を呼びかける。

 「日韓関係は国民感情に火が付くと制御不能になる。一時的には良くても中長期的に得るものは何もなく、互いに控えるべきだ。今は何より北朝鮮の核問題に対処しなければならない時期。木を見て森を見ず、になってはならない」

〈デスクメモ〉
 韓国大統領府が公開した夕食会の料理の写真を見る限り、やや国籍不明な印象を受ける。トランプ氏の口には合わないかもしれないが、奇をてらわずに韓定食やキムチ、プルコギで勝負する手もあったのではないか。私の個人的な好みでは、間違いなく韓国は世界五大料理の一つである。(圭)2017・11・10


アメリカ大統領を国賓としてもてなすにあたり、支持基盤である反米・反日勢力の留飲を少しでも下げるための事なのかも知れませんが、韓国内政治のために反日を利用しても外交的実害はない、と認識するほど甘かった日本の姿勢と韓国の思い込みを、このように一々政府として取り上げることで変えていってほしいですね。

圭氏の「世界」は日本・アメリカ(反米)・特ア3国?