【こちら特報部】結論ありきの朝鮮学校外し 「無償化訴訟」割れる司法判断
(東京新聞 2017/09/24)

◇「総連と密接な関係」東京地裁、国の主張追認

 朝鮮学校を高校授業料無償化制度の対象から除外した国の措置の適法性が争われた裁判で、今月十三日の東京地裁判決は「適法」と判断した。朝鮮学校の卒業生らが全国五カ所で起こした同種訴訟は、東京、広島地裁で国勝訴、大阪地裁で原告勝訴の判決が言い渡され、司法判断は割れる。国側は、朝鮮学校と在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の「密接な関係」を言い募るが、第二次安倍政権は発足早々、高校無償化法の施行規則の根拠規定を削除している。まさに「結論ありき」。司法も「結論ありき」で追認していいのか。(佐藤大)

 東京地裁判決後、東京都内で開かれた原告側集会には約千百人が参加した。李香煕(リチュニ)弁護士は「端的に言うと、裁判長は我々の主張をほぼ無視した。そして国側の主張を丸のみした」と怒りをあらわにした。

 裁判の話に入る前に、高校無償化制度の法的枠組みと、国が朝鮮学校を除外した経緯を説明しよう。争点に直結するからだ。

 無償化制度は学校教育法一条が認める正規の学校(一条校)だけでなく、専修学校や外国人学校にも適用される。外国人学校は、無償化法施行規則「一条一項二号」で(イ)(口)(ハ)に分類され、(イ)はドイツ人学校など本国が認定した学校、(口)はインターナショナルスクールなど国際的評価機関が認定した学校、(ハ)は(イ),(口)以外で文科大臣が定める学校と定義した。(ハ)は事実上朝鮮学校を想定したものだ。当時の民主党政権内にも朝鮮総運との関係を懸念する声がくすぶる中、(ハ)に基づく「規程一三条」が設けられ、「適正な学校運営」を求めた。

【高校無償化法 施行規則 】
◇1条1項2号 外国人学校の規定 
(イ) 本国認定校
(ロ) 国際的評価機関認定校
(ハ) イ及びロに掲げるもののほか、文科大臣が定めるところにより、高校の課程に類する課程を置くものと認められるものとして、文科大臣が指定したもの
  ■(ハ)の規定に基づく指定に関する規程
13条 指定教育施設は、高校等就学支援金の授業料に係る債権の弁済への確実な充当など法令に基づく学校の運営を適正に行わなければならない

 第二次安倍政権が発足した二日後の二〇一二年十二月二十八日、下村博文文部科学相(当時)は閣議後会見で、拉致問題に進展がなく、朝鮮学校の人手や財政に朝鮮総連の影響が及んでいるなどとして、無償化から朝鮮学校を除外する方針を表明した。その約二カ月後、文科省は朝鮮学校十校に不指定処分を通知した。

 「規定ハ」を削除したことと、「規程一三条」への不適合を挙げたが、具体的な理由は示さなかった。

 裁判で国側は拉致問題には言及せず、不指定処分について「規程一三条に適合すると認めるに至らなかった」と繰り返した。

 原告側としては、「規程一三条」を持ち出すことは認められないが、より問題視したのは「規定ハ」の削除だ。下村氏は政治的、外交的配慮から「結論ありき」で「規定ハ」の削除を指示したのではないか

 「規定ハ」の削除自体が、教育の機会均等を図る無償化法の目的に反し、違法の余地が生じる―。原告側はこの点を追及した。

 これに対し国側は「規定ハの仕組みの下では朝鮮学校は就学支援金の対象校として指定を受けられないことから、念のために削除した」と主張した。しかし、文科省の決裁文書では、「規定ハ」の削除に伴って朝鮮学校を不指定にしたと記載されていたことが判明。原告側の弁護団は違法性の立証は十分だと確信した

 ところが、判決はこの争点に正面から答えなかった。「規程一三条」不適合との文科相の判断は不合理とは言えず、「規定ハ」の削除について「判断する必要がない」と片づけたのだ。

 ひたすら国の言い分をなぞった結論だ。原告側は 「重要な争点について回避した」と反発し、二十五日にも控訴する

◇根拠の「規定ハ」削除 政治・外交的配慮の根拠?

 東京地裁とは正反対に「違法」と断じたのが、七月二十八日の大阪地裁判決である。国の無償化除外の決定を取り消し、就学支給金の支給を命じた。

 判決は、「規定ハ」の削除について「(下村氏が)朝鮮学校に支給法(無償化法)を適用することは北朝鮮との間の拉致問題の解決の妨げになり、国民の理解が得られない、という外交的、政治的意見に基づき、朝鮮学校を支給法の適用対象から除外するため」と認定し、「違法、無効」と結論づけた

 「規程一三条」についてはどうだったか。判決は、朝鮮総連の関与は一定程度認めた上で「歴史的事情などに照らせば、朝鮮総連が朝鮮学校の教育活動や学校運営に何らかの関わりを有するとしても、両者の関係が在日朝鮮人の民族教育の維持発展を目的とした協力関係である可能性は否定できず、両者の関係が適正を欠くものと直ちに推認することはできない」と指摘。「不当な支配」を疑わせる特段の事情は存在せず、「規程一三条」の要件を満たすとした。

 二分する司法判断を識者はどう見るか。

 神奈川大の安達和志教授(行政法・教育法)は東京地裁判決について「重要な争点について判断を回避している。不可解な判決だ」と指弾する。

 「不指定処分が『規定ハ』削除か、『規程一三条』適合性のどちらの理由を根拠にされたかが一つの重要な争点だった。その争点に対する答えを出さないままに『規程一三条』適合性についてだけ判断している。その理屈が分からない。そもそも『規定ハ』を削除すれば、それに基づく『規程一三条』は存在しないわけで、二つの理由は並列しない。その疑問にも答えていない」

 「規程一三条」の適合性についても、東京地裁判決は、公安調査庁の資料や新聞報道を根拠に「適正な学校運営」を疑った国側に軍配を上げたが、安達氏は「根拠としては非常に弱い。抽象的な疑いだけで、子どもたちが不利益を受けるのはおかしい」とみる。

 「大阪地裁判決は『不当な支配』の判断は文科相の裁量ではない、として文科相の裁量を絞っているが、東京地裁判決は文科相の裁量を極めて広く、ほとんど無制約という前提で判断をしている。相当に粗雑な議論だ」 (安達氏)

 全国五カ所の無償化訴訟のうち、名古屋地裁では来春にも、福岡地裁小倉支部では来夏にも判決が出る見通しだ。広島では原告側、大阪では国側が既に控訴しており、法廷闘争は当分続くことになる

東京地裁
(9月13日 原告敗訴)
大阪地裁
(7月28日 原告勝訴)
広島地裁
(7月19日 原告敗訴)
北朝鮮・朝鮮総連との関係 密接な関係があり、学校への影響があるとの公安調査庁の資料などに、文科相が信を置くことは不合理ではない 一定程度の関わりはあるが「不当な支配」が疑われる特段の事情は認められない 密接な関係を示す報道や公安調査庁の報告、過去の訴訟記録などから影響力は否定できないとする国の主張を追認
対象外とした文部科学相の判断 政治的、外交的な理由による判断とは認められない。学校運営の適正さが確証できないとの判断に、裁量権の逸脱、乱用はない 教育の機会均等とは無関係の外交的、政治的意見に基づいたもので、高校無償化法の趣旨を逸脱し、違法 就学支援金を支給しても適切に使われるか懸念されるとした判断に、裁量の範囲の逸脱、乱用は認められない

◇「行政の朝鮮学校いじめににメスを」

 名古屋大の石井拓児准教授(教育行政学)は東京地裁判決の影響を懸念する。

 「東京地裁判決は、大阪地裁判決が触れていた民族教育の重要性と教育の機会均等理念に触れていない。朝鮮学校と朝鮮総連の関係について、裁判所自身が調査もせずに疑わしいと言っことだけで決められるのか。文科相がいくらでも裁量権を行使できるということになれば、民族教育だけでなく、例えば宗教教育でも自由に排除できる可能性も出てくる

 在日特権を許さない市民の会(在特会)幹部らが京都朝鮮学校の授業や徳島県教組の業務を街宣活動で妨害した事件の民事訴訟では、ヘイトスピーチが人種差別と認定され、高額賠償を命じた判決が確定した。

 一橋大の田中宏名誉教授(日本アジア関係史)は、無償化裁判でも司法の役割を期待する。

 「ヘイトスピーチにさらされ、高校無償化からの除外、自治体からの補助金カットに直面している朝鮮学校の生徒たちは、最後の砦として司法に切実な期待を込めている。行政による『朝鮮学校いじめ』をただすため、文科省の行政実務を冷静に分析し、司法のメスを入れてほしい」

◇デスクメモ

 トランプ米大統領が「北朝鮮を完全に破壊するほか選択肢はない」とすごめば、安倍首相が「必要なのは対話ではない。圧力だ」と呼応する。在日社会は北朝鮮情勢に振り回されてきたが、今回はかつてとは比べものにならない。この機に乗じた「朝鮮学校いじめ」は断じて許されない。(圭)2017・9・24


文科相の裁量で対象に該当しないとしたと批判しながら、文科相の裁量のみで対象にする「規定ハ」を削除したことを批判するのは矛盾じゃないんですかね。

結論ありきは東京新聞じゃないのかな。


2017年02月11日
2016年10月26日